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5話 坊主は戦国寺院の何たるかを学ぶ

 人が増えた。それが、第一印象だった。

 朝比奈様のご手配だという。 "広域対応のため"とのことだが、どう考えても監視だ。

 俺がサボらないように。もしくは、変なことをしないように。どちらにせよ、ろくでもない理由である。


「本日より、補佐を務めさせていただきます」


 そう言って頭を下げたのは、若い武士だった。真面目そうだ。 そして、融通が利かなさそうだ。

 最悪である。上司そっくりの理屈屋臭い。


「・・・適当にやりましょうね〜」

「は?」

「いえ、こちらの話です。失礼いたしました」


 いけないいけない。つい本音が出た。



 案内された先は、村ではなかった。()だ。だが、俺の知っている寺とは少し違う。人が多い。 やけに多い。僧だけではない。 農民、商人、武士。様々な人間が、ここを出入りしている。


「・・・落ち着かないな」

「ここは周辺の調整を担う拠点です」


 横から、補佐の武士が説明する。説明しなくていいよ?聞くと仕事が増えそうだから。


「各村の代表が集まり、利害の調整をしております」

「おぉ」


 聞いてない。聞いてないが、勝手に耳に入ってくる。というか、見れば分かる。あちこちで話し合いが行われている。 言い争いもあれば、取引のようなやり取りもある。

 これは寺というよりも・・・。


「・・・市場か?」

「いえ、紛れもなく寺・寺院です」


 即座に否定された。だが、どう見てもただの寺ではない。中身現代人のトーシロにすらわかる、見え見え丸見えの重要拠点じゃないか。昔聞いた、"土地のことは寺に聞け"はマジなんだな。



「こちらが此度の者たちです」


 案内された部屋には、すでに人が集まっていた。前回よりさらにさらに多い。

 そして、空気は同じだ。重いし、険悪。

 超帰りたい。


「この僧が・・・」


 誰かが言いかけて、言葉を飲み込んだ。視線が集まる。やめろよ、その期待。どこから来てるんだ?


「では、始める」


 朝比奈様の代わりに、別の僧が口を開いた。なるほど、ここではこの人が仕切るらしい。

 楽できそうだな、良かった良かった。



 話はやはり、似たようなものだった。

 境界。利害。記録と感情の衝突。

 聞いたことのある単語が並ぶ。もういいだろ?それは。視線を逸らしたその先で、僧たちが別の話をしている。

 物資の手配。 人の移動。どこに何を送るか。

 忙しそうだ、というか・・・。


「・・・普通に仕事してるな」


 当たり前だが、妙な違和感があった。寺というと、もっと静かな場所だと思っていた。

 だがここは違う。人が動き、物が動き、話が動く。


 まるで――


()()を作っている・・・」

「言われてみれば・・・そうですね」

「あっ、いやその・・・」


 何か、若武者さんが納得したような顔をしている。やめてくれ。その顔、ろくなことにならないよ絶対!



「正然殿のご意見は?」


 また振られた。いい加減にしてほしい。期待するなよ全く・・・。


「前と同じ取り決めでよろしいかと」


 適当に言った。もう考えるのも面倒だ。


「同じ、とは?」

「各々集まり、その場で決めるのですよ」


 簡単だ。楽だ。俺が。


「なるほど」


 またその顔だ。やめろ。


「この場を使う、ということか」

「すでに者どもは揃っている。確かに、条件としては整っている」


 いや知らん。ただ思いつきだ。皆さん、それっぽいものを真理と受け取るのは如何なものか?これを整っているとか言い出す気が知れないわ。


「加えてこの寺には、各地の報せと人が集まっている。つまり、ここは"決定を広げる場"でもある」


 補佐の武士と仕切り役の僧が、ゆっくりと周囲を見る。だから何だ?何を言っている?


「ここで決めれば、そのまま周辺にも伝わる・・・。実に良い、効率的で合理的だ」


 やめろやめろ!広げるな、話を。

 楽なだけだぞ?俺が。



 気がつけば、話は進んでいた。関係者が集められ、場が整えられる。人が動く。早い。

 やめてくれ。そんなにスムーズに進むな。


「では、決を取ろう」


 仕切り役の僧が言った。またか、本当にやるのか?


「異論のある者は、今のうちに述べよ」


 ざわめきが広がるが、決定的な声は出ない。これも前と同じ、ワンパターンも大概にしろ。


「では、この条件で良い者」


 手が挙がる数が多い。やはり面倒なのだろう。


「反対の者」


 少数。空気が傾く。


「決まりだな」


 あっさりだった。拍子抜けするほどに。



 外に出る。さっきまでの空気が嘘のように、少しだけ軽くなっていた。


「やっと終わった」


 思わず呟く。本当に終わったのかは知らないが、とりあえず目の前は終わった。


「見事でした」


 横から声。補佐の武士だ。


「はあ」

「寺を拠点に、人と情報を集め、その場で決を取る・・・」


 やめろ。まとめるな。


「無駄がない。極めて合理的です」


 違うぞ。ただ移動が面倒だっただけだ!


「これが、僧のやり方・・・」


 違う。俺だけだと思う。否定する気力もない。


「しかと報告させていただきます」


 武士はそう言って、どこかへ向かった。やめろ報告するな、嫌な予感しかしない。



 その日の夕刻。案の定、呼び出された。相手は無論この男だ。


「うむ、よくやった」


 雪斎殿だった。終わった、今度こそ終わった。


「寺の機能を最大限に活かしたか」


 違う。これもたまたまだ。偶然、って言葉をご存知ありませんかね?


「情報と人の流れを抑え、決定を一気に広げる・・・見事よ」


 やめてくれ!そんな大層な話じゃないぞ?


「これならば、さらに広い範囲でも通ずる」


 嫌な流れだ。とても嫌な流れだ。とてもとても嫌な流れが押し寄せてくる・・・!


「次は複数の拠点を同時に動かす」


 来てしまった!考えられる最悪の形だ。


「寺同士を連携させ、広域を一度に押さえ安んじる」


 やめてくれ!規模を広げるな!


「其方に任せる」

「不可能です」

「できる」


 即答だった。何故?何故そんなに信頼している?根拠はどこにある?ソース出せソース!

 俺は黙った。もう何を言っても無駄だ。むしろ、言うほど増える。それは学習した、今までの流れで。


「では、頼む」


 すべてが決まった。



 手元には、また紙の束があった。さらに増えている。厚いし重いし、現実が重い。


「・・・帰りたい」


 小さく呟く。どうやら俺は、寺を使って広い範囲をまとめる役になってしまったらしい。意味が分からない。分からないが、決まってしまった。


 俺のブラック戦国ライフは、順調に拡大している。

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