四話 坊主の策は何だかんだ上手くいく
――帰りたい。いやマジで。
この時代、こんなんばっかかよ・・・。
あの場の衝突は収まった。 少なくとも、目の前で殴り合うような事態は避けられた。けれど。
「次も頼む」
朝比奈様の言葉が、頭から離れない。あれは、冗談ではなかったらしい。
◇
数日後。俺はまた、似たような場所に立っていた。
山、村、険悪な空気。
「・・・帰りたい」
自然と口から漏れた。最早挨拶みたいなものだ。
「こちらでございます」
案内役の武士が言う。
その顔は、どこか安心しているように見えた。やめてくれ!その安心、思いっきり勘違いだぞ!
◇
集められた人間は、前回より多かった。村の代表だけではない。 その周囲にいる有力者や、口を出したがる者たちまで揃っている。一触即発って正にこんな感じ。
「では、始める」
朝比奈様が静かに言った。その一言で、場が締まる。相変わらず、この人は空気の支配が上手い。
「今回も境界の件だ」
またか!初回で沢山だよそんなの。
「前回と同様、利害の衝突が起きている」
知ってる。見ればわかる。全員、顔が怖い。
「そこで――」
視線が、こちらに向いた。マジやめろ!
「其方の手法を用いる」
「同じ手が通じると?」
反射的に言っていた。だが誰も気にしていない。
「すでに実績がある。再現性も、確認済みだ」
あるようでないし、確認してない。というか一回しかやってない。
「問題ない」
大アリだ、ダメだってば。
「では、進めよ」
結論が出ていた。仕事ができる人は、決断が早い。これぞ、出来人なり!巻き込まれる側の事情は考慮しないあたり、生粋のやつ!
俺は仕方なく、前に出る。全員の視線が集まる。
ガッツリ重い、人数の多さによる加重か。
それでも、前回より少しだけ慣れてしまった自分がいる。嫌な慣れだ。
「・・・う〜ん」
何も考えていない。だが、どうせ考えても無駄だ。
なら同じでいい。
「ひとまず異議のある方は、今、この場で仰ってください」
ざわめきが起きるが、誰もはっきりとは口を開かない。前回と同じだ。
「後からは、一切受け付けません」
沈黙。人は、不利になる可能性があると黙るらしい。いい学びになるな、これは。
「条件を詰めましょう」
適当に決める。前回と大体同じ。 少しだけ数字を変える。理由は特にない。なんとなくだ。
「これで良い方々は、挙手を」
手が挙がる。思ったより多い。たぶん、面倒くさいからだ。当人が一番面倒だと思ってるよ。俺が。
「反対の方は?」
少数で、前回と同じだ。ここまで流れ一緒か。
「賛成多数、決まりですね」
俺は頷いた。
「待て!」
声が上がるのは当然の反応、しかし。
「その場で決する、と事前に合意している」
朝比奈様の声が落ちる。一瞬で、場が静まった。強い。この人、やっぱり怖い。
「異論は認めぬ」
誰も何も言えなくなる。理屈で縛られると、人は弱い。俺は今回も、それをまざまざと見せつけられた。
◇
今回も、ひとまず収まった。完全ではない。 納得していない顔も多いが、少なくとも、今すぐ争う理由は消えた。
「・・・あぁ」
俺はその場にしゃがみ込んだ。疲れた。何もしていないはずなのに、やたらと疲れる。
「見事だ」
声が降る。見上げると、朝比奈様がいた。
「はあ」
「前回と同様、利と責で場を制御した」
してない。今回だって、たまたま偶然です。
「加えて、条件に微調整を加えている」
してない。なんとなく変えただけだ、それっぽく。
「状況に応じた最適化・・・再現に留まらぬ応用力だな」
全く違う。適当だ、完全に!その勘違いフィルター、早く外せ!
「・・・」
否定するのも面倒になってきた。どうせ通じない。
「やはり、任せて正解だった」
もうやめて。その評価が、一番よくない。
「次の件だが」
来た。やっぱり来た。自分たちで解決できないのか?
「別の地域でも同様の問題があり、規模はさらに大きなものとなっておる」
知ってた、絶対あると思ってた。それに悪化してる。ガチの戦案件だろ!
「複数の村が関わる故、同時に処理せよ」
「本当に相手を間違えておりますよ?不可能です」
「可能だろう」
即答だった。会話が成立していない。
「今回の結果で確信した。其方の手法は、広域にも適用できる」
できるかそんなもん!というかしたくない。
「人員は増やし、資料も用意する」
そういう問題じゃない!増えるなよ?絶対に増えるなよ?しかし、俺の細やかな幸せは呆気なく破綻することとなる。
「では、頼む」
終わった、完全に終わった。オワタオワタ、オタワじゃないぞー。
◇
手元には、また紙の束があった。前回より厚い、明らかに厚く重い。いろんな意味で重い。
「・・・帰りたい」
小さく呟く。だが、もう誰も聞いていない。あるいは、聞いていても気にしていない。どちらでも同じだ。
どうやら俺は、同じことを何度もやらされるらしい。しかも、規模を大きくしながら。
何故だ?理解できんよ!?
ただ一つ分かるのは、ブラック戦国ライフはまだ始まったばかりだということだけだった。




