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Unrealistic  作者: クロ
8/8

7

あれから三日。

特に大きな出来事は起きなかった。


強いて言うなら、違和感を――

はっきりと、認識できるようになった。それだけだ。


街を歩いていると、時々、顔の曖昧な人間がいる。

輪郭がぼやけていて、視線を合わせようとすると、するりと意識の外へ逃げていく。


彼らが、アンリアの住人なのだろう。


それから、彼女――

ネフォと出会った、あの路地へ向かった。


「やっぱりないか」


期待していたわけじゃない。

それでもなかったら、なかったでなんだか複雑な気持ちになる。




「なに?」


相変わらず、驚いた様子はない。


雰囲気といい、話し方といい、

少女という言葉からは、ひどく遠い。


「プレーンって、知ってるか?」


一瞬、迷ってから問いを投げた。

あの日、聞きそびれたままになっていた疑問。


「知らない」


短く、淡々とした答え。


「本当に?」


「どうして」


「……あまりにも、似ているから」


ネフォは、少しだけ間を置いた。

そして、ひと口、茶を飲んでから。


「そう」


それだけだった。



耳にイヤホンをつけて、歩き出す。

変わらない、登校中の景色。


――けれど、今日は少し違った。


角を曲がる寸前、正面から勢いよく何かが飛び出してくる。


ぶつかった拍子に、尻もちをついた。


「あいたー……え、これ少女漫画展開きた?」


相手もどうやら転んでしまったらしい。

少しズレたことを言いながら起き上がり、僕に手を差し伸べてくる。


「……なんて、男同士じゃ少女漫画展開はないか。

あっ、ほんとにごめん! ちょっと急いでてさ。ケガとかしてない?」


「大丈夫」


差し出された手を掴み、立ち上がる。

彼はさっと僕の様子を確認すると、片足を引いた。


「本当にごめん。後日、必ずお詫びするから!」


そう言い残して、ものすごい勢いで走り去っていった。


同じ制服だった。

けれど、名前も知らない相手に、どうやってお詫びをするつもりなのか。

今の彼には、そこまで考える余裕はなさそうだった。



休み時間。


特に何をするわけでもない。

暇つぶしに黒板を消したり、課題を進めたり――それだけの時間だ。


課題を解いていると、ふいに机の上に影が落ちる。


誰だろう。

顔を上げると、朝の彼が立っていた。


「あー……えっと、朝はすまん」


苦笑いを浮かべて、こちらを見る。


「いや、大丈夫。急いでたんでしょ?」


「参った。まさか体操着忘れるとは」


ははは、と笑いながら頭を掻き、視線をあちこちに彷徨わせる。


「えっと、俺は飯島 快斗。

名前聞き忘れてどうしようかと思ってたけど、まさかクラスメートだったとは、助かった!」


飯島と名乗るクラスメート。

今までクラスメートなど認識したことなどなかった。

いや、出来なかった...?


これも違和感の一つなのだろうか。


「おーい?だいじょーぶかぁー」


フリーズしてる僕の前で飯島が手を振る。


「藤宮 弥生」


「うおっ」


ハッとしてそう返すと、飯島は奇声をあげて仰け反る。

一瞬ポカーンとしたかと思えば、突然笑い出した


「クッフフ..ハハハッ藤宮か! よろしく!

ほんとにっ、朝はマジでごめん。ひと息ついてたら、名前知らないことに気づいてガチで焦った」


そう言って、彼は机の縁に軽く腰を預ける。

僕の課題を踏まないように座るのは彼なりの絶妙な配慮だろうか。




(……)


「?」


飯島が首を傾げる。


「どした? 俺の顔、なんか変?」


「……いや」


誤魔化すように、視線をノートへ落とす。


三日前から見えるようになった、あの違和感。

街中で見かける、顔の曖昧な人間。


でも――


(この人は、違う)


曖昧にならない。

はっきりとした輪郭を、最後まで保っている。


「なぁ藤宮」


飯島は気にした様子もなく続けた。


「放課後、ちょっと時間ある?

朝の詫び、ちゃんとさせてほしいんだけど」


「……別に、いいけど」


僕の答えに飯島は満足そうに頷く。


「じゃあ決まりだな。逃げんなよ!」


冗談めかした口調でそう言うと、さっと机を離れていった。


チャイムが鳴り、教師が教室に入ってくる。

気がつけば、飯島は自分の席に戻っていた。


僕はノートを開いたまま、ペンを握り直す。


静かな教室。

変わらない日常。


それなのに――

クラスメートと、ただ会話しただけなのに。


飯島 快斗との出会い。


それだけは、

どうしても“違う”ものに感じられた。

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