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Unrealistic  作者: クロ
7/8

6

どのくらい経ったのだろうか。


頭が重い。

確か――公園で倒れて……


「目が覚めた?」


少女の声が、近くで聞こえた。


誰だ――

いや、違う。


そうだ。ネフォだ。


「……ここは?」


喉がひりつき、思ったよりも声が掠れていた。


「家」


短く、彼女は答える。


そんなことは見れば分かる。

そう思いながら、痛む体を無理やり起こした。


視線を巡らせて、息を呑む。


古びた畳。

低い天井。

この、どこか現実感の薄いけど知っているかのような空気。


――初めて、彼女と出会った場所だ。


「ここは、私の家」


ネフォは淡々と続ける。


「誰からも認識されない、世界のバグ」


相変わらず、説明になっているようで、なっていない。


「……つまり?」


「この世界に存在してるけど、存在してない場所」


曖昧な答えだった。

僕が黙り込むと、ネフォは少しだけ視線を逸らす。


「君が倒れたあと、ここに運んだ。

 ERRORは消えたけど、君は力尽きて倒れてしまった」


その言葉で、記憶が繋がる。


歪んだ影。

止まる時間。

軋む制服。


「……あれは」


声に出した瞬間、頭の奥がずきりと痛んだ。


「無理しないで」


ネフォが言う。


「力を使ったから、君は少し消耗している」


その言い方は、淡々としていて、どこか他人事だ。


「そのうち慣れる」

「世界のズレに、君の体がまだ追いついてないだけ」


そう言うと、ネフォは一瞬だけ目を伏せる。

そして、すぐにこちらを見た。


「あの時の戦い。

 君は、逃げなかった」


そう言って、彼女はほんの少しだけ微笑んだ。


その言葉が、胸の奥に静かに落ちる。


「君は選んだ。自身の望みを打ち破った。

 だから、世界が君を拒否した」


少しの沈黙が生まれた。

そして、彼女は小さな声で呟く。


「でも、それは悪いことではないと思う」


「……あの力は?」


「君自身が目覚めた証」


迷いのない答えだった。


「正確には、“選択した結果”」


また、その言葉。


選択。


「君はこれからも、選ばされる」


「逃げるか。向き合うか。

 間違いを、抱え続けるか」


一瞬、あの影が脳裏をよぎる。


選ばれなかった未来。

ERROR。


「……僕は、帰らなければいけない」


自分でも驚くほど、はっきりした声だった。


ネフォは、ほんの少しだけ目を見開き――

すぐに、いつもの静かな表情に戻る。


「そう」





あの後、僕は彼女の家を後にした。


驚くことに、出た先はあの時とはまったく別の路地だった。


とにかく疲れた。

家に帰ろうとする僕に、彼女は呼びかける。


「ねぇ君。何かあったら、私を呼んで」


「藤宮 弥生。それが僕の名前。

まだ君を信頼したわけじゃない。

それでも、僕はこの世界から出なければいけない。

だから……よろしく、ネフォ」


「…わかった、弥生」


一度だけ振り返ってみた。



ーーそこはただの行き止まりだったんだ。

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