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ネフォ。
そう名乗った少女は、かつてあの空間で出会ったプレーンと、驚くほどよく似ていた。
けれど、決定的に違うとも感じた。
黒い髪を二つに結い、黒いワンピースを纏っている。
風に揺れる姿は壊れそうなほど儚いのに――その瞳だけは、妙に静かで、揺らぎがなかった。
彼女は言った。
**「世界を壊す」**と。
普通なら、子供の空想だと笑い飛ばしていただろう。
けれど、あんなものを見た直後では、否定する言葉が見つからなかった。
「君は……世界を壊すって言った」
僕の言葉に、ネフォは一度視線を落とす。
眉間に小さく皺を寄せ、ひと呼吸置いてから、口を開いた。
「ここは、《Unrealistic》っていうゲームの中」
淡々とした声だった。
感情を語るというより、事実を並べているだけのような。
「“リアル”って呼ばれてる街。
現実でゲームを起動すると、ここに来られる」
「でも――戻れない。行き先は、ここだけ」
一瞬、胸の奥がざらついた。
「長くいればいるほど、みんな忘れていく。
元の現実も、自分が何を選んできたのかも」
彼女は足元に落ちていた葉を拾い上げた。
枯れかけたそれを、指先で挟む。
「私は、この世界で生まれた」
ぽつり、と。
「どうして生まれたのかも、自分が何者なのかも……分からない」
一拍、沈黙。
「でもね」
彼女は顔を上げた。
「この世界は、存在してはいけない。
それだけは、はっきり分かる」
ネフォは指を離す。
葉は抵抗することもなく、地面へと落ちた。
《Unrealistic》。
通称――アンリア。
一年前ほど前から、急に流行り出したゲーム。
それ以上のことを思い出そうとすると、頭の奥に靄がかかる。
「さっきの男は……?」
貼り付いた笑顔。
次の瞬間、形を失い、化け物へと変わった姿。
思い出しただけで、背中が粟立つ。
「この世界には、“間違い”がない」
ネフォは即答した。
「じゃあ、あれは何だ?」
問い返すと、彼女は一瞬だけ遠くを見る。
「人が“選ばなかった未来”
正しくないと切り捨てられた可能性」
「その、成れの果て」
その言葉と同時に、視界の端が軋んだ。
黒く歪んだ何かが裂け目から滲み出し、ゆっくりと人の形を作る。
視界の中央へ――にじり寄ってくる。
(ああ、見るんじゃなかった)
そのとき、響いた。
少女の声。
感情のない声。
「ERROR」
反射的に、目を伏せた。
「この世界は、止まってる」
ネフォの声だけが、続く。
「進むことも、戻ることもない。
だから誰も、自分と向き合わなくていい」
沈黙。
「君は――」
彼女は、僕をまっすぐ見た。
「このまま、裏切り者のレッテルを一人で抱え続けるの?」




