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些細だけれども、拭いきれない違和感。
それは日を重ねるごとに、確実に増えていった。
誰も疑問に思わない。
僕自身さえ、首を傾げることはない。
それでも頭の片隅で、壊れた警報機みたいな音が鳴り続けている。
——慣れてしまえばいい。
ただ、それだけでいいんだ。
「あれ」
同じように歩いたつもりだった。
綺麗な夕焼け。青色の信号。
カバンにつけたキーホルダーが鳴らす、一定の金属音。
全てが、同じだった。
それなのに。
僕が立っているのは、狭い路地。
そして、どう考えてもこの場所には似つかわしくない——扉の前だった。
輪郭が、現実から外れていく
(あぁ、まただ)
ここ最近、嫌な夢を見る。
泣いている誰かを、突き放す夢。
ひどく青ざめた顔。
見開かれた目が、焼きつくように痛くて。
そして、その後——
彼女は。
目が覚めると、いつも酷い目眩に襲われた。
深呼吸をして、扉と向かい合う。
なぜあの時開けようなんて思ったのかはわからない。
取っ手は、冷たい。
ゆっくりと回す。
軋む音ひとつ立てず、扉は開いた。
中は少し古臭いが至って普通の民家のようだった。
すでに知っている場所に足を踏み入れてしまったような感覚になる。
「だれ」
声がした。
侵入者がいるにも関わらず焦りも緊張感もない子供の声。
部屋の奥から聞こえてくる。
「ここは、一体」
奥から少女が現れる。
彼女は僕を見るなりスッと目を細めて言った。
「お兄さん、覚めかけてる」
その瞬間、再び視界がぐにゃりと歪む。
夢の中で見た、青ざめた顔。
泣いていた“彼女”の声が、耳をつんざく。
っ……!
足元が揺らいだ。
「大丈夫」
少女の声は、ひどく落ち着いていた。
「まだ、全部は思い出さなくていい」
「……思い出す?」
思わず、そう口にしていた。
彼女が小さく息をつく気配がした。
「そう。だってここは、忘れるための世界だから」
その言葉と同時に、
背後で何かが、確かに動いた。
空気が変わる。
世界が、僕の存在を“異物”として認識した感覚。
彼女が、低く告げる。
「来るよ、君が選ばなかった未来が」




