表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Unrealistic  作者: クロ
2/8

1

目が覚めて、辺りを見渡した。

教室の窓から西日が差し込んでいる。放課後に仮眠をとっていたのだが、どうやら眠りすぎてしまったらしい。


「変な夢を見た」


ひどく白くて、誰かの声だけが耳に残るような

それから――


[ピーンポーンパンポーン。下校時刻をお知らせします。校内に残っている生徒は、速やかに下校してください]


夢の続きを思い出す前に、放送が割り込んできた。


校門のゲートに学生証をかざす。


『生徒No.404、藤宮弥生さんの帰宅を確認しました』

無機質な機械音声とともに改札が開く。


同じ景色、同じ道。ただそれをなぞるように、足を動かしていく。


——?


信号の点滅は、果たしてこんなに長かっただろうか。

なんとなく隣の若者へ視線を向けて、危うく手にしていたカバンを落としかける。


(いや、反射だ。疲れてるんだ)


まさか、顔がスマホの光に溶けて消えて見えるなんて——。


信号が青に変わった。

それでも、誰も動かない。

立ち止まったままの人波に、一瞬だけ置いていかれたような感覚がした。


(……行かないのか)


そう思った次の瞬間、横断歩道の音が鳴り始める。

ピッ、ピッ、という電子音が、妙に間延びして聞こえた。


一歩、踏み出す。

ゴム底がアスファルトを踏む。

振り返ると、さっきまで隣にいたはずの若者はいなかった。


いや、いた。


確かに、そこに立っている。

ただ――やっぱり顔が、見えない。

スマホの画面が白く光っているだけで、

その奥にあるはずの目や口が、最初から存在しなかったみたいに。


(……やめろ)


視線を逸らした瞬間、

電子音が、ぷつりと途切れた。

気づけば、横断歩道の真ん中に立っている。

車は来ない。

クラクションも鳴らない。


「気づかない?」


耳元で、声がした。

鈴を転がしたみたいな、やけに澄んだ声。


反射的に振り返る。

けれど、そこには誰もいない。


通行人たちは、それぞれの方向を向いたまま、こちらを見ようともしない。


(聞き間違いだ)


そう結論づけるのは、簡単だった。


怖くない。

心臓も、速くなっていない。


——それが、一番おかしい?


歩き出す。

家に帰る。それだけだ。

さっき見た横断歩道が、もう見当たらない。

同じ道のはずなのに、角を曲がった記憶がない。

ポケットの中で、スマホが震えた。

画面を開くと、通知が一件だけ表示されている。


『Unrealisticへようこそ』


白い文字。

白い背景。


瞬きをした瞬間、通知は消えていた。

いつものホーム画面に戻っている。


(……夢、か)


そう思おうとして、やめた。

夢なら、もっと都合がいいはずだ。

怖いか、楽しいか、どちらかでなければおかしい。

なのにこれはー


ただ、何も引っかからない。

背後で、再び声がした気がした。


「待ってるね」


振り返った時には、

夕焼けだけが、均一な色で空を塗りつぶしていた。


——まるで、最初からそう決められていたみたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ