仮想現実《Unrealistic》
《Unrealistic》
ここは、憧れが叶う世界だと聞いた。
後悔も、未練も、罪悪感さえも――価値を失う場所。
目を開けた瞬間、息が詰まった。
上下も奥行きもない、真っ白な空間。
音がない。自分の鼓動だけが、やけに大きい。
気がつくと僕は一人この場所に立っていた。
「ねえ」
声がした。
近い。
誰もいない。
――いや、下だ。
「あなたは、だーれ?」
振り向くと、白い女がしゃがみ込んで、僕を覗き込んでいた。
長い髪も、睫毛も、細い指先も、すべてが白い。
なのに幽霊のような冷たさはなく、むしろ――見られている感覚だけが異様に強い。
視線が、皮膚じゃなくて、もっと奥に触れてくる感覚。
「……答えないんだ」
女はそう言って、首を傾げた。
失望ではない。確認でもない。
まるで、最初から知っているから気にも留めてないという顔だった。
パン、と乾いた音が鳴る。
彼女が一人で手を打っただけなのに、空間が微かに歪んだ。
「新しい住人さん、だね。
ようこそ――Unrealisticへ」
その名前を聞いた瞬間、
どうしてだろう、胸の奥がじんわりと痛んだ。
「私はプレーン。
始まりで、空白。――あなたが捨てようとする物の、受け皿」
受け皿。
その言い方が、どうしても引っかかる。
「ここではね、叶うの。
あなたが欲しかった“リアル”が。
だからもう――」
彼女は僕の手を取った。
その瞬間、反射的に力が入る。
離したくない。
いや、違う。
渡してはいけない。
「……あれ?」
プレーンが、ほんの一瞬だけ目を見開いた。
「なんで、抵抗するの?」
笑っているのに、声が少し低い。
白い扉が、いつの間にか僕の背後に現れていた。
「まぁいいや、時間がないの。
大丈夫、向こうでは時期に忘れるから」
向こう?
問いかける前に、彼女は強く手を引いた。
抗えない力。
光が溢れ、視界が白に焼き潰される。
――あれ?
僕は何を、彼女に渡したくなかったのだろうか。




