〈晴れる町〉 ―「静かな白」
画面が、電子音とともにふっと明るくなる。
揺らぐ映像の向こうに、果てのない白が広がっていた。
焦点が合うたび、雪面の粒子がわずかに瞬く。
ドローンは、もはや誰の手にもつながっていない。
バッテリー残量の警告が、赤い点滅となって画面の隅で微かに脈を打つ。
それでも機体は、高度を保ちながら風に乗り、
まるで記憶のように、空をさまよっていた。
視聴者数の表示は「0」。
コメント欄は、空白のまま沈黙している。
何も流れず、何も反応しない。
かつて数万人が見上げたそのレンズの中で、
いま動いているのは、ただ雪だけだった。
“世界の終わり”を見届けた機械が、
まだ名残のように、空を飛び続けている。
マイクが拾うのは、風の擦れる音と、
ドローンのローターが震えるような微かなノイズだけだった。
音楽も、実況も、指示の声も、もう存在しない。
かつて記者が立っていた場所は、
ただの白い起伏へと戻っていた。
ケンジが圧雪車を動かした跡も、
観光客が歓声を上げた足跡も、
すべては雪の下に沈んでいる。
雪面は、陽の光を受けて微かに瞬いた。
風が通り抜けるたび、
その煌めきが、波のように滑らかに流れていく。
それは、音のない呼吸だった。
人がいなくても、
世界がいまだに息をしているという証のように――
ただ、静かに、確かに。
やがて――
風のノイズの奥から、かすかな声が浮かび上がる。
それは録音の残響なのか、あるいはこの雪が覚えていた“記憶の声”なのか。
キャスターの断片的な語りにも、白井の独白にも似ていた。
「……本当に崩れたのは、雪ではなかった。」
その声は、波のように一度だけ揺れ、すぐに空へ溶けた。
言葉の主も、受け手も、もうどこにもいない。
ただ、その一行だけが、
画面の奥で淡く残光のように滲み、
まるで町そのものを“世界の記録”として送り出すための
最後のテロップのように――
ゆっくりと、消えていった。
ドローンの視界が、ゆっくりと上昇を始める。
風が雪面を撫で、白い粒がふわりと舞い上がる。
カメラはそれを追うように、静かに高度を上げていく。
ゲレンデも町も、やがて輪郭を失い、
白と光だけが画面を満たしていった。
区別も物語も、すべてが一枚の“白”に溶けていく。
電子音が一度だけ、微かに揺れる。
それを最後に、ノイズが途切れる。
そして――音も、映像も、すべてが消える直前、
太陽の光が一瞬だけ、
まるで幕を閉じる合図のように強く、白く輝いた。




