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すきま時間の短編【思い出のスミダケーキ】  作者: 伊藤宏


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4/4

4.

最終話

 「じゃあさっそく今夜。いや待て、今日の今日はさすがに無理か。明日、公民館で七時、いいよな」

 思わず「こぉみんかぁん?」と頓狂な声で復唱してしまった。


 「おう、この辺はさ、オヤジが飲むようなとこばっかんなっちって。そういうとこダメだろ? んだったらドリームロードで総菜と酒買って公民館でやった方がぜんぜんいいのよ。公民館っつっても二年前に改装したばっかだからきれいだし、ビリヤードのテーブルもあんだ」


 まあ、ここで生きていくなら何らかのコミュニティーに属していた方が便利だ。泉美は、ありがたく歓迎会の申し出を受けることにした。



 そして当日。

 約束の七時まであと二時間というタイミングで気付いてしまった。

 歓迎会となれば、いくら場所が公民館とはいえ、みんなの出費に甘えることになる。それなら何か、引き出物みたいに持ち帰ってもらえる()()()()()()()()を準備していった方がいいんじゃないだろうか。

 

 咄嗟に浮かんだのはベーカリースミダだった。

 あそこでクッキーとか、日持ちのいいお菓子を人数分、小袋に入れてもらおう。そうだ! スミダケーキ。あれはバタークリームだから日持ちがいい。

 でも、さすがに当日じゃ無理か。

 あぁしまったミスった。昨日思いついてれば予約できたのに。


 泉美は、半ば無理だと諦めつつ店を訪ねた。スミダケーキがなければ、他の焼き菓子から選べばいいだけだ。スミダケーキはダメもとで訊くだけ訊いてみよう。



 行ってみると、ベーカリースミダは意外とさびれていなかった。むしろ、以前より活気があるようにも見える。

 泉美はショーケースを覗いて注文の当たりを付け、店主の娘さんらしき中年の女性に声をかけた。


 「あのぉ、ギフトの小袋を十三個作って欲しいんです。中身はえっと、チョコチップと抹茶のクッキーを一枚ずつ、と、あとぉ、あれあります? スミダケーキ。もしあったらそれも全部、一個ずつ入れて作って欲しいんですけど。あ、もしスミダケーキがなかったら、代わりに」


 「ありますよ」


 「え」


 「ありますよ。クッキー二種類とスミダケーキ一個で十三袋ですよね。大丈夫です」


 「はぁ、じゃあ、それでお願いします」

 注文が奥の作業場に通されると、「はいよぉ」という元気のいい声が返ってきた。


 そうか、一周回って人気になってたんだ。やっぱりね、おいしいもの、あれ。

 泉美が、自分の子が世に認められたような嬉しい気持ちに浸っていると、奥から、懐かしい店主の声が聞こえてきた。


 「あれすごいな、こないだ導入したやつ、〔ロジックスGo!〕だっけ? 目を疑ったもん夕べの指示。スミダケーキ十三個って。だってこれ、半年以上一個も出てなかったんだよ。それがちゃんと売れるって、どういうことだ? これどうやったら予測できんだろうね。ほんと、すごいよなぁ」


 泉美が、その場で固まってしまったのはいうまでもない。



     《了》

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