2.
この短編は4話で完結します。
〔ロジックスGo!〕
これは優秀なアプリだった。
新製品や類似品との兼ね合い、競合他社の動きなどを “コンタクトウインドウ”というフリースペースに書き込むだけでネット空間にアップされている情報から何でも拾ってきて、統計学を用いて数秒で最適解を導き出してくる。
とてもじゃないが、人間の分析力では太刀打ちできない。
それだけではない。しばらく使っていると、発注者の性格や思考パターンを学習して、こちらがうっかりミスをやらかす前に先手を打って警告してくるのだ。
欠品や過剰在庫は目に見えて減っていった。だからといって『今までの残業っていったい何だったんだろうね』、なんていう甘い追憶に浸る余裕は、泉美たちにはなかった。所属する商品管理部の人員が、大幅に減らされることになったからだ。
水面下では、もう肩叩きが始まっているという噂もある。
リストラが現実味を増し、部署全体を陰鬱な空気が支配し始めたころ、〔ロジックスGo!〕が初めて欠品を出した。
それみたことか! やっぱり人間が必要だ!
しかし、いくら泉美たちが声を上げたところで、部署縮小の流れが変わることはなかった。トータルで見れば〔ロジックスGo!〕に軍配が上がるのは明白だった。だって〔ロジックスGo!〕には給料もボーナスも要らない。それに、どんな罵詈雑言を浴びせても『パワハラだ』などと文句を言ってくることもない。
八方ふさがりでやけっぱちになっていた泉美は、〔ロジックスGo!〕が二度目のミスを犯したとき、“コンタクトウインドウ” に、こう書き込んだ。
『なんだよ、人類を超えた知能とかいって、こんなのミスるんじゃ、ただのポンコツじゃん、へっぽこアプリ。お前なんか死んじまえ<(`^´)>』
それがいけなかったのかどうかはわからない。
泉美は三日後に人事から呼び出され、依願退職を強要された。
理由は秘密情報取り扱い規定違反。平たくいうなら情報漏洩だ。会社が機密扱いに指定している営業資料が、泉美のパソコンから出力された形跡がログに残されていたらしい。
身に覚えはなかった。だからそう主張したのだが、会社は泉美の言い分には耳を貸さず、ログの痕跡の方を信じた。




