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すきま時間の短編【思い出のスミダケーキ】  作者: 伊藤宏


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1/4

1.

この短編は4話で完結します。

 ベーカリースミダ、というのは、今年三十歳になった若村泉美(いずみ)がまだランドセルを背負っていたころからある、郷里のお菓子屋さんだ。


 その昔、従兄と、その家族が家に遊びに来ると、お客さん用と合わせて十四個のポーションケーキを買いに行くお使いは、いつも、泉美の役目だった。

 買うケーキは決まっていた。スミダケーキという名の、バタークリームを使ったポーションケーキだ。

 スミダケーキは、小ぶりのレモンを縦に切ったような形をしていて見た目よりも重く、舌に残るコクがあった。しかも、すごく甘い。それを砂糖入りのオレンジジュースと一緒に食べると、どんなに落ち込んでいても元気になったものだ。


 あとで知ったことだが、そのころはもう、生クリームを使ったショートケーキが主流になっていたらしい。

 バタークリームのスミダケーキは、ベーカリースミダにあってもマイナーな存在になっていたのだ。だから、五個以上のスミダケーキを確実に買うには、前日までに注文しておく必要があった。

 家族と親せき。

 スミダとバタークリーム。

 甘い思い出だ。



 あれからもう、何年もの月日が経っている。


 泉美は、ひとり上京して東京の大学を出たあと、そのまま事務用品をネット販売する会社に就職した。仕事は主に在庫管理だった。

 取り扱う商品は多岐にわたった。

 ハンドソープや紙おしぼりはまだわかるが、赤ちゃんのお尻ふきや缶ビール、スナック菓子のどこが事務用品なんだ! と突っ込みたい気持ちはあれど、仕事だといわれればしょうがない。泉美は誠心誠意、仕事に向き合った。


 膨大な種類の商品を、受注後速やかに顧客のもとに届けるには、決算や株主総会といった会社のイベント、さらには地域で行われる行事まで加味した緻密な需要予測が必要だった。おまけに、天気予報は刻々と変わる。

 毎日が真剣勝負だった。

 本当に。

 なにしろ発注担当者のボーナスは、実質、欠品や過剰在庫のカウント数で決まるのだ。

 まさに、神経を磨り減らして働いた。最新のAIを活用した対話型の在庫管理アプリ〔ロジックスGo!〕がパソコンに実装されるまでは……。



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