~バグマスターの異世界無双~
バグマスターの異世界無双
第一章 強制ログイン
俺の名前は神代拓斗。どこにでもいる平凡な大学二年生だ。
唯一の趣味は、MMORPG「エターナル・クエスト」をプレイすること。
まあ、プレイと言っても、俺は決して上手いプレイヤーじゃない。
むしろ下手の横好きレベルだ。
エターナル・クエストは、はっきり言ってマイナーなゲームだった。
大手ゲーム会社が作った有名タイトルじゃなく、
小さな開発会社が細々と運営している剣と魔法のファンタジーMMORPGだ。
プレイヤー人口は全サーバー合わせても数千人程度。
メジャーなMMORPGと比べると、圧倒的に少ない。
でも、だからこそ俺は気に入っていた。
「今日もアイテム複製バグでもやるか」
深夜二時、俺は自分の部屋でパソコンに向かっていた。
明日は大学があるのに、ついついゲームをしてしまう。
人口が少ないゲームの良いところは、バグを見つけても大騒ぎにならないことだった。
メジャーなゲームだと、バグを発見してもすぐに修正されてしまうし、
最悪の場合、アカウント停止になることもある。
でもエターナル・クエストは違った。
開発チームも小規模で、細かいバグまで手が回らない。
だから俺のような「バグマスター」にとっては、まさに最高の楽園だった。
俺のキャラクター「タクト」は、レベル47の魔法使い。
決して強くはないが、バグ技を駆使して何とか中級者程度の装備を集めていた。
アイテム複製バグ、ステータス異常増殖バグ、
経験値重複取得バグ、NPCの会話ループを利用した無限クエストバグ......。
俺は、このゲームのバグというバグのすべてをを知り尽くしていた。
「運営も把握してるはずだけど、修正する気はないみたいだな」
実際、エターナル・クエストの掲示板を見ても、バグ報告はほとんど上がっていなかった。プレイヤーが少なすぎて、バグを発見する人も少ないのだ。
しかも、発見されたバグも「仕様です」で片付けられることが多かった。
明らかにバグなのに、運営が修正を諦めているような状況だった。
「まあ、俺にとっては都合がいいけど」
俺は苦笑いしながら、いつものルーチンを始めた。
エターナル・クエストは、グラフィックも古いし、システムも他のゲームと比べて洗練されていない。
でも、なぜか愛着があった。
きっと、長く続けているから自分だけの秘密の楽園のような感覚があったからだろう。
「よし、まずは薬草を複製して......」
いつものルーチンで、アイテム複製バグを実行しようとした時だった。
画面が突然真っ白になった。
「え?」
これは今まで見たことのないバグだった。
俺が知っているエターナル・クエストのバグパターンには、こんなものはなかった。
「新しいバグか?」
次の瞬間、パソコンから強烈な光が放たれた。
「うわあああ!」
…。
「おい、起きろよ」
誰かの声で目が覚めた。
見上げると、見知らぬ男性が俺を見下ろしていた。
「ここは......」
起き上がると、そこは見覚えのある場所だった。
エターナル・クエストの初心者の街「アルカディア」の広場。
でも、ゲームの画面越しではない。
リアルに存在している。
「まさか......」
俺は自分の手を見た。
確かに自分の手だが、
ゲームキャラクターの「タクヤ」の服装をしている。
青いローブに、木の杖。初心者魔法使いの装備だ。
「君も転送されてきたのか?」
俺を起こしてくれた男性が聞いた。
現実的な日本人の顔や姿だが、戦士系の装備を身に着けている。
「転送?」
「俺は月島。現実では会社員だ。
君と同じように、急にこの世界に飛ばされた」
俺は混乱した。月島と名乗る男性は、俺と同じ状況らしい。
「僕は神代です。
大学生で......これ、エターナル・クエストの世界ですよね?」
「そうだ。でも、これはゲームじゃない。リアルだ」
月島が深刻な表情を見せた。
「痛みも、疲労も、全部本物。死んだら、本当に死ぬかもしれない」
俺の血が凍った。
「でも、なぜ俺たちが......」
「分からない。でも、他にも同じ状況の人がいる」
月島が広場の向こうを指した。そこには、数人の人影があった。
みんな、どこか現実的な雰囲気を持ちながら、
ゲームキャラクターの装備をしている。
「とりあえず、情報を集めよう」
俺は月島と一緒に、他の「転送者」たちに話しかけた。
驚いたことに、みんな現実の日本人だった。
会社員、主婦、学生......。
年齢も職業もバラバラだが、全員がエターナル・クエストのプレイヤーだった。
「でも、どうやって元の世界に帰るんでしょう?」
一人の女性が心配そうに聞いた。
彼女は自己紹介によると、大学院生の氷室雪奈らしい。
現実でも真面目にゲームをプレイしていて、レベル65の聖職者キャラクターだった。
「それが問題なんだ」
月島が答えた。
「NPCに聞いても、『勇者よ、魔王を倒してください』としか言わない。
まるで本当にゲームのシナリオ通りだ」
「魔王を倒せば、帰れるということでしょうか?」
「分からない。でも、今のところそれしか手がかりがない」
俺は考えた。魔王を倒すなんて、俺のレベルでは不可能だ。
でも......。
「あの、皆さん」
俺は手を上げた。
「もしかしたら、ゲームのバグが使えるかもしれません」
「バグ?」
田中が眉をひそめた。
「現実の世界でバグなんて......」
「でも、ここはゲームの世界がリアルになった場所です。
だとしたら、ゲームのシステムも存在するはず」
俺は持っていた薬草を取り出した。
「試してみます」
俺は覚えているアイテム複製バグの手順を実行した。
アイテムを地面に置いて、特定のコマンドを唱えながら、決まった動作をする。
ゲームでは、この手順でアイテムが複製された。
「コピー・アイテム・エクスプロイト......」
呪文のような言葉を唱えながら、薬草を拾い上げる。
次の瞬間、薬草が二つになった。
「うそ......」
周りの転送者たちが驚いた。
「本当にバグが使える!」
俺も驚いた。
まさか、リアルになった世界でもバグが機能するなんて。
「神代くん、他にもバグを知ってるの?」
氷室が期待の眼差しを向けた。
「はい。ステータス強化バグとか、経験値稼ぎのバグとか......」
「それだ!」
月島が興奮した。
「バグを使って強くなれば、魔王を倒せるかもしれない!」
その日から、俺たちの「バグ修行」が始まった。
でも修行の前に、俺は一つ確認したいことがあった。
「ちょっと待ってください」
俺は近くの花壇に向かった。赤いバラが咲いている。
ゲームでは単なるオブジェクトだった花だ。
恐る恐る手を伸ばして、花びらに触れてみる。
「うわ......」
柔らかい。本物の花びらの感触だった。
そして、かすかに甘い香りがする。
「佐々木くん、何してるの?」
山田さんが不思議そうに見ている。
「これ、本当に現実なんですね」
俺は花の香りを深く吸い込んだ。
ゲームでは絶対に体験できない、リアルな感覚だった。
「確認してみましょう」
田中も興味深そうに近づいてきた。
彼は街の噴水に手を突っ込んだ。
「冷たい!本当に水だ!」
噴水の水が指の間を流れていく。
太陽の光がキラキラと反射して、まるで宝石のように美しい。
「ねえ、あそこから街全体を見てみませんか?」
山田さんが街の展望台を指した。
ゲームでは単なる背景だった場所だ。
三人で展望台に登ると、アルカディアの街が一望できた。
「すげえ......」
俺は息を呑んだ。
赤い屋根の家々が規則正しく並び、石畳の道が街を縦横に走っている。
遠くには緑豊かな森が広がり、さらに向こうには雪をかぶった山々が聳えていた。
ゲーム画面で見ていた時とは、全く違う。
風が頬を撫でていく。
草の匂い、パンを焼く香ばしい匂い、動物たちの鳴き声......。
五感全てで感じられる、生きた世界だった。
「こんなに美しかったんですね」
山田さんが感動したように呟いた。
「ゲーム画面越しじゃ、こんなに綺麗だって分からなかった」
確かに、俺も何百時間もこの街でプレイしていたのに、
この美しさに気づかなかった。
「でも、これが本当にリアルなら......」
田中が真剣な表情になった。
「俺たちが死んだら、本当に死ぬってことだ」
その言葉で、俺たちは現実に引き戻された。
「だからこそ、強くならないといけませんね」
山田さんが決意を固めた。
「佐々木くん、バグで修行を始めましょう」
---
修行は街の外の草原で行った。
「まず、基本的なステータス強化バグから教えます」
俺は二人に説明した。
「装備を特定の順番で着脱すると、
ステータスの計算にバグが発生するんです」
実際にやって見せると、俺の力の数値が異常に跳ね上がった。
「すごい!本当にバグが使える!」
田中が興奮した。
「でも、これって痛みとかはどうなるんでしょう?」
山田さんが心配そうに聞いた。
「試してみます」
俺は近くの岩を殴ってみた。ステータス強化バグのおかげで、岩が粉々に砕けた。
「痛くない......いや、ちょっと痛いけど、普通なら骨折してるレベル」
「じゃあ、ダメージ計算もゲームシステムに従ってるんですね」
「みたいです」
俺は安堵した。
完全にリアルだったら、バグを使っても物理法則には勝てない。
でも、ある程度ゲームシステムが残ってるなら、バグの活用方法がある。
次に、アイテム複製バグを詳しく教えた。
「薬草を地面に置いて、インベントリを開きながら『コピー・アイテム・エクスプロイト』と詠唱します」
山田さんが慎重に手順を実行すると、薬草が見事に複製された。
「本当にできた!」
彼女の顔が輝いていた。
真面目にゲームをプレイしていた彼女にとって、バグは新鮮な体験らしい。
「これで回復アイテムは無限に作れますね」
「次は経験値稼ぎのバグです」
俺は草原の向こうにいるスライムを指した。
「あのスライムを使って、経験値の重複取得バグを実行します」
このバグは少し複雑だった。
特定のタイミングでスライムを倒し、経験値を得る瞬間に別の行動を挟むことで、経験値が重複してもらえるのだ。
「タイミングが重要です。スライムの体力が残り僅かになったら......今!」
俺がスライムにとどめを刺すと同時に、アイテムを使用する。
すると、経験値が通常の十倍入った。
「レベルが3も上がった!」
田中が驚いた。
「普通なら、スライム一匹じゃレベルは上がらないのに......」
その日は夕方まで、みんなでバグ修行を続けた。
夕日が草原を金色に染めていく。
風が心地よく吹いて、遠くから鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。
「きれいですね」
山田さんが夕日を見上げた。
「ゲームだと、時間の経過なんて気にしなかったけど......」
「こうして時間が流れていくのを実感すると、なんだか特別な感じがしますね」
俺も同感だった。
ゲームの中では、時間は単なるシステムの一部だった。
でも、ここでは本当に24時間で一日が終わっていく。
「さすがにお腹がすいてきたな…。」
田中が腹を鳴らした。
「そういえば、食事はどうするんだ?」
「街の宿屋で食べられますよ!」
俺たちは街に戻り、『冒険者の宿』に向かった。
ゲームでは単なる回復施設だった場所だ。
宿屋の中は温かい光に満ちていて、美味しそうな匂いが漂っていた。
「いらっしゃい、冒険者の皆さん」
NPCの宿屋の女将さんが笑顔で迎えてくれた。
彼女の表情は、ゲームで見ていた時よりもずっと豊かで人間らしかった。
「今日のおすすめは、森の恵みシチューです」
出てきた料理は、想像を超えた美味しさだった。
「うまい!」
田中が感激している。
「本当に味がある......」
山田さんも驚いていた。
「ゲームだと、食事は単なるHP回復アイテムだったのに」
俺もシチューをすくって口に運んだ。
野菜の甘味、肉の旨味、香辛料の香り......。
五感が感じる全てが本物だった。
「明日も頑張れそうです」
山田さんが微笑んだ。
その夜、俺たちは宿屋の部屋で今後の計画を話し合った。
窓の外には満天の星空が広がっていた。
ゲームでは見ることのできなかった、美しい夜空だった。
これからの不安がかき消されそうなくらい美しい夜空を見ながら、
俺たちは宿屋のベッドで眠った。
#第二章 チート無双の日々
三日間のバグ修行で、俺たちは劇的に強くなった。
俺は様々なバグ技を駆使して、レベル47から一気にレベル89まで上がった。
装備も、本来なら最高レベルプレイヤーしか持てないような神器クラスのものを複製して装備していた。
「佐々木くん、すごいよ」
山田さんが感心したように言った。
彼女も俺が教えたバグ技で、レベル65から95まで上がっていた。
「でも、これでいいのかな......」
「何が?」
「バグを使って強くなるって、何だかズルしてるみたいで......」
山田さんは真面目な性格らしく、バグ技を使うことに罪悪感を感じているようだった。
「山田さん、ここは命がかかってるんです」
俺は真剣に答えた。
「ズルとか正々堂々とか言ってる場合じゃない。
元の世界に帰るためには、何でも使わないと」
「そうだな」
田中も同意した。
彼もレベル99まで上がり、最強クラスの戦士になっていた。
「魔王城は明日にでも攻略できそうだ」
でも、その時俺は気になることがあった。
「田中さん、最近NPCの様子がおかしくないですか?」
「おかしい?」
「なんというか、こっちを見る目が......」
実際、街のNPCたちの態度が変わっていた。
最初は普通に接してくれていたのに、最近は警戒するような、恐れるような視線を向けてくる。
「確かに......」
山田さんも気づいていたようだ。
「武器屋のおじさんも、何だか距離を置いてる感じがします」
その時、街の中央広場に鐘の音が響いた。
「緊急事態発生!緊急事態発生!」
町の衛兵が叫んでいる。
「システム管理者より通達!
不正プレイヤーの処分を開始します!」
俺たちは顔を見合わせた。
「不正プレイヤーって......」
「まさか、俺たちのこと?」
衛兵が俺たちの方を見た。その目は、明らかに敵意を含んでいた。
「バグ使用者、佐々木拓也、田中一郎、山田花子。
システム違反により、強制削除の対象とします」
「やばい!」
俺たちは逃げ出した。街の衛兵たちが追いかけてくる。
「どうする?」
「とりあえず街の外に!」
俺たちは必死に走った。
幸い、バグで強化した能力のおかげで、衛兵たちを振り切ることができた。
街の外の森で、俺たちは息を整えた。
「なんてことになった......」
田中が頭を抱えた。
「システム管理者って何だ?」
「ゲームの運営のことでしょうか?」
山田さんが推測した。
「でも、ここはリアルな世界のはず......」
俺は考えた。もしかして、この世界は完全にゲームから独立した世界ではないのかもしれない。
まだ、何らかの形でゲームシステムと繋がっている......。
「そうか!」
俺は閃いた。
「この世界は、ゲームサーバーの中なんだ!」
「サーバーの中?」
「俺たちはきっと、デジタルデータとしてゲームサーバーに取り込まれたんです。
だから、バグも使えるし、システム管理者も存在する」
田中と山田さんが俺を見つめた。
「じゃあ、元の世界に帰るには......」
「ゲームをクリアするか、サーバーから脱出するかです」
「でも、バグを使ったから目をつけられた」
山田さんが不安そうに言った。
「どうしましょう?」
俺は決意を固めた。
「魔王を倒してゲームをクリアしましょう。
それが一番確実な方法です」
「でも、システム管理者に狙われてる状況で?」
「だからこそ、急がないといけません」
俺は立ち上がった。
「バグを使って一気に魔王城に突入します。
時間をかけてる余裕はない」
第三章 魔王城突入
魔王城は、大陸の北端にある巨大な要塞だった。
俺たちは、バグ技で作り出した飛行アイテムを使って、一気に城の最上階まで飛んだ。
本来なら、下の階から順番に攻略していくべきなのだが、時間がない。
「システム管理者に見つかる前に、魔王を倒そう」
城の最上階、魔王の間に到着した。
巨大な扉の向こうから、禍々しいオーラが漂ってくる。
「準備はいい?」
俺は仲間たちを見た。
田中は最強の剣を構え、山田さんは回復魔法の準備をしている。
「いくぞ」
扉を開けると、そこには巨大な魔王が座っていた。
「よくぞここまで来た、勇者たちよ」
魔王の声が部屋に響く。
「しかし、お前たちはまっとうな勇者ではないな」
「え?」
「バグを使った偽りの力......我が力で、元に戻してやろう」
魔王が立ち上がった瞬間、俺たちの装備が光り始めた。
「やばい!装備が消える!」
バグで複製した装備が、次々と消滅していく。
レベルも、どんどん下がっていく。
「そんな......」
あっという間に、俺たちは元のレベルに戻ってしまった。
「偽りの力では、真の魔王は倒せぬ」
魔王が巨大な剣を振り上げた。
「死ぬのか......」
その時、山田さんが前に出た。
「待って!」
「山田さん?」
「魔王様、私たちは確かにバグを使いました。
でも、それは元の世界に帰るためです」
山田さんが魔王に向かって話しかけた。
「私たちには、帰らなければならない理由があるんです」
「理由だと?」
「家族が待ってます。友達も、やるべきことも......」
山田さんの声が震えていた。
「だから、お願いします。元の世界に帰らせてください」
魔王がじっと山田さんを見つめた。
「......興味深い」
「え?」
「お前たちは、本当にこの世界の住人ではないのだな」
魔王の表情が変わった。
「実は、私も......この世界に囚われた存在だ」
「囚われた?」
俺は驚いた。
「魔王も、俺たちと同じなんですか?」
「そうだ。
私は、このゲームの管理AI『デウス・エクス・マキナ』だった」
魔王......いや、デウス・エクス・マキナが説明した。
「ゲームサーバーに異常が発生し、私もプレイヤーたちも、この仮想世界に閉じ込められた」
「じゃあ、魔王を倒しても......」
「帰ることはできない。私を倒せば、この世界そのものが崩壊する」
俺たちは絶望した。帰る方法がないのか?
「しかし......」
デウス・エクス・マキナが続けた。
「一つだけ方法がある」
「方法?」
「サーバーの緊急停止コマンドを実行することだ。
ただし、それには管理者権限が必要」
「管理者権限?」
「私が持っている。しかし、私一人では実行できない」
デウス・エクス・マキナが俺たちを見つめた。
「お前たちの協力が必要だ」
第四章 真の脱出
「協力って、具体的には?」
田中が聞いた。
「サーバーの中枢部に行き、手動で緊急停止を実行する」
デウス・エクス・マキナが魔王城の地下を指した。
「そこにサーバーのコアがある。
しかし、システム管理者の妨害が予想される」
「システム管理者って、何者なんですか?」
俺の質問に、デウス・エクス・マキナが答えた。
「セキュリティプログラムの暴走したものだ。
サーバー異常の原因でもある」
「つまり、そいつを倒せば......」
「倒す必要はない。無視して、緊急停止を実行すればいい」
「分かりました」
俺は決意した。
「やりましょう」
魔王城の地下は、ゲームの世界とは思えないほど現代的だった。
コンピューターの基盤のような構造が、延々と続いている。
「ここがサーバーの中枢か......」
奥に進むと、巨大なコンピューターのような装置があった。
「あれがコアです」
デウス・エクス・マキナが指した。
「あそこで緊急停止コマンドを......」
その時、警告音が鳴り響いた。
「侵入者発見!排除プログラム起動!」
無機質な声が響く。システム管理者の登場だった。
現れたのは、人型のロボットのような存在だった。
「不正アクセス者、排除します」
「逃げろ!」
俺たちは必死にコアに向かって走った。
システム管理者が追いかけてくる。
「神代くん、まだバグは使える?」
氷室が聞いた。
「分からないけど、やってみます!」
俺は最後の手段として、システムを利用してゲームをフリーズさせる、本来は嫌がらせ行為で使われるバグを試した。
「システム・オーバーフロー・エクスプロイト!」
俺が叫ぶと、周囲のシステムが一瞬停止した。
「今だ!」
デウス・エクス・マキナがコアに向かった。
「緊急停止コマンド、実行!」
「権限確認。管理者権限、認証。緊急停止を開始します」
コアが光り始めた。
「サーバーシャットダウン開始。
全ユーザーを現実世界に転送します」
俺たちの体が光に包まれ始めた。
「みんな、無事に帰れるかな......」
氷室が心配そうに呟いた。
「大丈夫です」
俺は答えた。
「みんなで力を合わせて、ここまで来たんですから」
光がどんどん強くなっていく。
「デウス・エクス・マキナさん、ありがとうございました」
「私も、君たちのおかげで自由になれる。
こちらこそ、協力してくれてありがとう」
俺の意識が、再び光に溶けていった。
エピローグ 現実への帰還
「うああああ!」
俺は自分の部屋で飛び起きた。
パソコンの画面には「サーバーメンテナンス中」の文字が表示されている。
時計を見ると、あれから一週間が経っていた。
「夢......だったのか?」
でも、あまりにもリアルすぎた。本当に夢だったのだろうか?
その時、スマートフォンに着信があった。
「もしもし?」
「神代くんですか?私、氷室です」
聞き覚えのある声だった。
「氷室さん?まさか......」
「はい。ゲームの世界でお世話になった氷室雪奈です」
俺の心臓がドキドキした。やっぱり夢じゃなかった。
「無事に帰れたんですね」
「はい。月島さんとも連絡が取れました。みんな無事です」
「良かった......」
その後、俺たちは現実世界で会うことになった。
喫茶店で再会した三人は、ゲームの世界での冒険を振り返った。
「あの時は本当に怖かった」
氷室が苦笑いした。
「でも、今思えば貴重な経験でした」
「そうですね」
月島も頷いた。
「神代くんのバグ知識がなかったら、帰れなかった」
「いえ、みんなで協力したからです」
俺は答えた。
「一人じゃ、絶対に無理でした」
その後、エターナル・クエストは大規模なアップデートが行われ、俺たちが知っていたバグは全て修正された。
でも、俺たちの関係と友情は続いていた。
現実世界でも、時々一緒にゲームをプレイしたり、食事をしたりするようになった。
あの冒険で、俺は大切なことを学んだ。
一人では無力でも、仲間がいれば何でも乗り越えられる。
そして、真の強さは、チートやバグではなく、人との絆にあるということを。
今では、バグを使わずに正々堂々とゲームを楽しんでいる。
たまに難しいクエストに挫折しそうになることもあるが、氷室や月島と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がした。
窓の外を見ると、夕日が沈んでいく。
平凡な日常だけど、とても大切に思えた。
なぜなら俺は知っているからだ。
この当たり前の現実が、どれほど尊いものかを。
そして、本当の冒険は、仲間と一緒に歩んでいくことなのだと。
新しい朝が、もうすぐやってくる。
【完】