第3話:魔力水脈の激流と予期せぬ真実 -2
激流を乗り越えた潜水艇は、やがて巨大な空間へと到達した。
そこは、王都の魔力を司る中央魔力炉の心臓部だった。内部は、青白い魔力光に満たされ、巨大な機械装置が不気味な唸り声を上げていた。しかし、その光景は、エリナの想像をはるかに超えていた。
「これは……まさか」
エリナは、その場に立ち尽くし、目の前の光景に絶句する。セレフィアもまた、その光景に目を奪われ、エリナの服を強く握りしめていた。
中央魔力炉の中央には、見たことのないほど巨大な、複雑な構造を持つ装置が鎮座していた。
それは、ただの魔力炉ではなかった。いくつもの発光するパイプが絡み合い、透明なシリンダーの中では、青白い魔力が不規則な波を描いている。まるで巨大な脳が呼吸をしているかのようだ。装置の表面には、無数の紋様と、古文書でしか見たことのないような古代文字が刻まれている。
そして、装置全体から放たれる魔力は、この王都の魔力分布図に表示された「不自然な青白い波形」そのものだった。
「これは……古文書の記述よりもはるかに高度なシステムだ。まるで、この世界そのものを操るためのもの…」
アキラが、その装置の前に立ち尽くし、呟いた。彼の瞳は、技術者としての探求心に輝いている。
カイトもまた、ホログラムディスプレイに映し出された装置の解析データを凝視していた。
「…間違いない。これが『調律者』が王都の魔力を操作している根源だ。魔力水脈全体を、この装置を通じてコントロールしている。そして、王都の住民の意識にも干渉している可能性が高い。街全体のあの『不自然な調和』は、ここから生み出されているのかもしれない」
その時、装置の奥から、漆黒の装甲を纏い、赤い瞳が不気味に輝く、高さ約3メートルにも及ぶ人型に近い存在が出現した。
それは、中央魔力炉の守護者である自律型ガーディアンだった。空間そのものを歪ませるかのような圧力を放っている。
「やはり来たか、異分子たちよ。この世界の調和を乱す存在は、排除するのみ」
自律型ガーディアンの声は、機械的でありながら、どこか人間のような冷酷さを帯びていた。
ミネルヴァのエージェントたちとエリナは、装置を守ろうとする自律型ガーディアンと激しい戦闘に入った。
「動くな! これ以上、この装置に近づくことは許さない!」
エリナが叫び、剣を構える。セレフィアは、エリナの背後で不安げに震えている。
エリナは、セレフィアを守るように前に出る。
自律型ガーディアンの攻撃は強力で、リーラの魔法やリョウの体術も苦戦を強いられる。自律型ガーディアンは、エージェントたちの動きを先読みし、弱点を突くような攻撃を仕掛けてくる。
「くそっ、また俺の死角を狙ってきやがった!」
リョウが叫び、自律型ガーディアンの放つ不可視の衝撃波を辛うじて回避する。
リーラは、魔力で生成した水の槍を放つが、自律型ガーディアンはそれを紙一重でかわし、反撃に転じる。
「…なんて速さなの。まるで、私の魔法の軌道を読んでいるみたいに…!」
カイトは、エージェントたちの動きと自律型ガーディアンの行動パターンを分析していた。
「奴は、我々の行動を予測している…いや、学習しているんだ! 我々の戦闘データが、瞬時に奴の思考回路にフィードバックされている!」
アキラは、解析を進めながらも、自律型ガーディアンの攻撃を避けるのに精一杯だった。
「こんな速度で学習されると、手が打てない…! どこかに、処理のボトルネックがあるはずだ!」
その時、自律型ガーディアンが、リョウとリーラを同時に攻撃しようと、両腕を振り上げた。その腕からは、禍々しい光の刃が生成される。エリナは、瞬時に判断し、その光の刃を自身の剣で受け止めた。キン、という金属音が響き渡り、火花が散る。エリナの腕が震える。
「エリナ!」
セレフィアが悲鳴を上げる。
「大丈夫です、皇女殿下!」
エリナは、歯を食いしばり、必死に耐える。
「くそっ、エリナが持たない!」
リョウが叫ぶ。彼は、エリナを援護しようと自律型ガーディアンに突進するが、自律型ガーディアンは瞬時に移動し、リョウの死角を狙う。
その瞬間、カイトが叫んだ。
「リョウ! エリナの剣の軌道、そしてアキラの演算速度、リーラの魔力収束パターン…すべてをシンクロさせろ!」
「シンクロ…?」
リョウは、カイトの言葉に戸惑うが、長年の信頼が彼を突き動かした。
彼は、エリナの剣の動きと、アキラが解析している装置の演算速度、そしてリーラが次の魔法を放とうとしている魔力の収束を、感覚的に捉えようとする。
アキラもまた、カイトの意図を察し、装置の解析速度を最大限に引き上げる。
「了解! 俺の演算を、お前たちの動きに合わせる!」
リーラは、カイトの指示を受け、次の魔法の収束を調整する。
「わかったわ! 魔力、最大集中!」
リョウは、エリナの剣が自律型ガーディアンの攻撃を弾き、わずかに体勢を崩したその隙を狙った。彼の多機能戦術ナイフ(ヴォーテックス・ブレード)が、魔力の振動を帯びて輝く。彼は、アキラの演算速度に合わせて、自律型ガーディアンの思考が一瞬だけ遅れるタイミングを見計らい、刃を突き立てた。
「そこだっ!」
リョウの鋭い一撃が伸びる瞬間をエリナはゆっくりと感じていた。
リョウが叫び、ナイフを自律型ガーディアンの装甲の隙間にねじ込む。
キィン、という耳障りな音が響き渡り、自律型ガーディアンの装甲から火花が散った。
その瞬間、自律型ガーディアンの動きが、わずかに、しかし確実に鈍る。
その隙を見逃さず、リーラが放つ強烈な風の魔法が、自律型ガーディアンを壁へと吹き飛ばした。
自律型ガーディアンは、壁に激しく叩きつけられ、装甲の一部が破損する。
「よし!」
リョウが息を荒げながら叫ぶ。
「まだだ!奴は完全に無力化されていない!」
カイトが警告する。
自律型ガーディアンは、破損した装甲から青白い光を放ち、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。
まるで自己修復を行っているかのようだ。
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