第1話:王都の囁きと影の介入 -3
王宮の警備システムは、単なる暴走ではなかった。
それはまるで、ミネルヴァのエージェントたちの思考を読み、その動きを予測して攻撃を仕掛けてくるかのように、執拗に彼らを追い詰める。
庭園の地面が赤く光り、魔力レーザーが火花を散らす。
地下からは重々しい足音を立ててゴーレムが起動し、四方八方から彼らに迫る。
「ぐあっ!レーザーだ!
またパターンが変わったぞ!」
リョウが叫び、間一髪で地面に伏せる。
レーザーは彼の頭上を掠め、背後の石像を粉砕した。
「こんなに柔軟な攻撃パターン、通常の警備システムじゃありえねぇぞ!」
リーラが素早く魔力で結界を展開し、降り注ぐレーザーから一時的に仲間たちを庇う。
だが、その結界も、次々と放たれる高出力のレーザーの前には、長くは持たない。
「このシステム、まるで生きているようだ…いや、我々の動きを読んでいる!」
カイトが驚愕の声を上げる。
彼の魔力パターン解析ゴーグルが、警備システムの複雑な魔力流を映し出していた。
その波形は、彼らの移動予測経路と、驚くほど正確に一致している。
アキラは必死に警備システムのハッキングを試みるが、高度なAIによって防御されており、なかなか突破口が見つからない。
彼のサイボーグの指先が、キーボードの上を忙しく叩く。
「クソッ、こんな高レベルのAIが、王宮の警備システムに組み込まれているなんて……!
こいつ、まるで俺の思考を先読みしているかのように防御パターンを変えてくる!まったく厄介だ!」
エリナは、騎士としての訓練だけでは対応しきれない事態に直面していた。
警備システムは、彼女の剣術の死角を狙うように攻撃を仕掛けてくる。
彼女は、この状況の異常さを肌で感じていた。
隣で恐怖に震えるセレフィアの小さな手が、エリナの服の裾をぎゅっと掴む。
エリナは、セレフィアを守るため、そして騎士としての矜持から、必死に耐える。
しかし、ミネルヴァのエージェントたちの即興的な指示が、彼女を危機から救う。
「右だ!」
カイトが叫ぶ。
「伏せろ!」
リョウが咆哮する。
彼の指示に従い、エリナは咄嗟に地面に身を投げ出した。
彼女は反射的にそれに従い、レーザーやゴーレムの攻撃を紙一重で回避する。
彼女の身体能力と判断力が、彼らの即興的な連携に、図らずも加わっていた。
敵のAIは、エージェントたちが王家古文書庫を目指していることを予測していた。
王宮の主要な通路が、次々と魔力的な障壁や重い鉄格子で封鎖されていく。
「まずい、裏をかかれた!こっちのルートは完全に塞がれてる!」
アキラが焦りの声を上げる。
だが、カイトは冷静だった。
彼の脳裏には、事前に把握していた王宮の内部構造と、古文書庫の位置が立体的に構築されている。
彼は瞬時に新たな脱出ルートを提示する。
「待て、この隠し通路がある!ここなら迂回できるはずだ!」
彼の指先が、ホログラムの隅にひっそりと描かれた点線を示す。
リョウが怒声と共にゴーレムの注意を引きつけ、リーラが魔力で足止めする。
その隙に、アキラが警備システムの最後の障壁を一時的に麻痺させる。
カイトは通信端末でルートを指示し続ける。
「わたしたちも一緒にいきましょう」
セレフィアはとっさの判断で、ミネルヴァのエージェントたちについていくほうが安全であると判断した。
「セレフィア殿下、こちらに!」
エリナもまた同じ判断をし、彼らの指示に従い、時には身を挺してセレフィアと仲間を守りながら、狭い隠し通路へと飛び込んでいく。
息の合った、しかしドタバタとした連携だ。
彼らは、王宮を脱出することには成功した。
間一髪の綱渡りだった。
全員が、汚れた服と息を切らしながら、アジトへと戻るしかない。
しかし、古文書のコピーは、ドタバタの最中に一部しか入手できなかった。
王都全体に広がる不自然な静けさ、そして常に背後に感じる見えない「監視の目」の存在を、彼らは改めて認識することになった。
脱出後、息を切らしたエリナが、ミネルヴァのエージェントたちの正体と、王宮で起こった異変の真相について、彼らに問い詰める。
彼女の瞳には、驚きと混乱、そして皇女の安全と王宮の秩序を守りたいという、隠しきれない騎士としての使命感が宿っていた。
「貴様たち!一体何者だ!?そして、この王都に何が起きている!?」
彼女の声は震えていたが、その眼差しは真実を求める騎士のそれだった。
カイトは、エリナの真っ直ぐな視線を受け止めた。
彼女は、この秘密を知ってしまった。
ならば、もう彼女を巻き込むしかないと、彼の頭の中で結論が導き出される。
「……我々は、アルテア王国直属の極秘特殊機関だ」
カイトは、静かに答えた。
「そして、この王都で起きている『不自然な調和』の裏に潜む、見えない『調律者』の影を追っているんだ」
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