第1話:王都の囁きと影の介入 -2
その頃、アルテア王宮では、重臣たちが集まり、王都に広がる「不調」――人々の活気の低下や、魔力的な不自然さについて議論が交わされていた。
細身で気品のある体型、ブルーを基調とした神官服に王家の紋章が施された格式ばった装束を身につけた皇女セレフィアは、重鎮たちの意見に耳を傾けていた。
銀灰色のセミロングの髪が優雅に流れ、ブルーと紫のオッドアイが神秘的な輝きを放っている。
その顔立ちには揺るぎない気品と優雅さを湛えた彼女は、会議に見習い騎士のエリナを同席させていた。
エリナは、まだ10代前半の若さながら、騎士としての真面目さと凛々しさを兼ね備えている。
ヴィンセント家の長女として、幼い頃から騎士としての訓練を積み、その才能は周囲から高く評価されていた。
彼女は会議の内容を聞きながら、漠然とした違和感を覚えていた。
問題は深刻なはずなのに、どこか議論が噛み合っていないような、本質に触れようとしないような……。
まるで、何か大きなものに蓋をしようとしているかのような、淀んだ空気が満ちていた。
会議が終わり、セレフィアが優雅に立ち上がった。
彼女の顔には、この状況に対する深い憂慮の色が浮かんでいる。
重臣たちが順に謁見の間を辞していく中、セレフィアはエリナの隣にそっと歩み寄った。
「エリナ、皆の意見は承知いたしました。これ以上の混乱は、わたくしも望みません。
ですが、この『不調』は王都の根幹に関わる問題です。わたくし自身、この目で現状を把握しなければならないと感じております。
王宮の裏庭にある魔力供給システムの点検に向かいましょう。些細な異常でも見落としてはなりませんよ」
セレフィアの小さな声に、エリナは驚きに目を見開いた。
皇女が自ら危険な場所に赴くというのか。
しかし、その強い意志を前に、エリナは反射的に深々と頭を下げた。
「はっ!畏まりました、皇女殿下!
このエリナ、身命を賭して殿下をお守りいたします!」
エリナは力強く返事をして、セレフィアと共に謁見の間を後にした。
彼女の心には、皇女を守り抜くという強い使命感が燃え上がっていた。
彼女たちは王宮の裏庭へと急ぐ。
夜風が肌を撫で、庭園に咲く夜光草が淡い光を放っている。
魔力供給システムは、王宮全体に魔力を供給する重要な施設だ。
エリナは、点検用の魔導ランタンを手に、セレフィアの隣に立ち、慎重にシステムをチェックしていく。
点検を進めるエリナの耳に、排水管の奥から微かな異音が届いた。
金属が擦れるような、あるいは何かが無理やりこじ開けられているような、聞き慣れない音だ。
そして、その音の合間には、独特の電子的な光がわずかに漏れ出ていた。
「何の音だ……?」
エリナは眉をひそめた。
王宮の警備は完璧なはずだ。
彼女の騎士としての直感が、明確な異常を告げていた。
エリナが警戒し、その音の元へ近づこうとした、その瞬間だった。
王宮内の警備システムが、突如として異常な高出力で稼働し始めた。
けたたましい警告音が王宮全体に響き渡り、赤い警告灯が明滅する。
地響きと共に、庭園の地下から魔力レーザーの砲台が起動し、次々と光の筋が空へと放たれた。
エリナたちのいる裏庭にも、その暴走が及び、地面から突き出るかのように無数の魔力レーザーが彼女たちを襲った。
「なっ!?」
エリナは咄嗟に腰の剣を抜き、レーザーを弾く。
キン、という甲高い金属音が闇夜に響く。
彼女の知る王宮警備とは明らかに異なる、より高度で予測不能な攻撃に戸惑いを隠せない。
レーザーはまるで彼女たちの動きを読んでいるかのように、次々と彼女たちの死角を狙ってくる。
その混乱の中、目の前の排水管から、けたたましい音を立てて蓋が開き、中から黒い戦闘服をまとった四つの人影が飛び出してきた。
カイト、リョウ、アキラ、そしてリーラだ。
彼らの顔には、警備システムの予想外の反撃を受け、焦りの表情が浮かんでいた。
エリナは直感した。
この異変の原因は、彼らだ。
「貴様たち!王宮で一体何を!?」
エリナは剣を構え、警戒の視線を向ける。
しかし、彼らは彼女の言葉に耳を傾ける余裕などなかった。
警備システムの猛攻は、彼らにも容赦なく降り注ぐ。
「くそっ、このシステム、俺たちの動きを読んでやがる!」
リョウが叫ぶ。
彼の額には冷や汗が滲んでいた。
「まずい、このままじゃ挟み撃ちだ!
ここは王宮の最深部、この反応速度は異常だ!」
カイトが焦った声を出す。
エリナは、彼らの動きの速さと、警備システムの猛攻に、このままではセレフィアも危険だと判断する。
彼女は剣を構えたまま、背後からのレーザーを避けようとする彼らの動きを追った。
そして、隣に立つセレフィアを守るためにも、彼らと「協力せざるを得ない」状況に追い込まれていくのだった。
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