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呪いと猫の後宮夜話〜月夜のまじない妃と眠れない皇帝〜  作者: 高井うしお


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第46話

 燕禹は獄舎から戻った。別人のように痩せ、あちこち打たれたせいでよろよろと足取りも覚束ない。彼はもう引退をして、城外の屋敷で隠居をすると申し出た。人違いの詫びに老後の生活に不自由のないだけの金も出るとのことである。紅月もいくらかの金を燕禹に渡した。紅月は確かめる術はないが、白瑛は蠱毒を使い人を殺めた罪人として、城外にその首を晒されているという。


(……全部終わったのよ)


 紅月はもう何度目かのため息をついた。白瑛のことを思うと食も細くなり、伏してばかりとなる。紅月が白瑛に蠱毒のことを調べさせなければ、こんなことにはならなかった。紅月がどんなに悔いても、時は戻りはしない。


「紅月様、皇太后陛下よりお呼びがございました」


「……そうなの」


 紅月とて、皇太后を見舞いたい気持ちはあった。だが、皇太后の前に白瑛を連れていったのは自分だ。本当に自分が顔を出していいものか、逡巡する気持ちがある。だが、当の本人からの呼び出しとあらば、行かぬ訳にはいかなかった。


「雪香、準備をして」




 皇太后の仮の宮殿の廊下を歩いていると、向かいから誰かがやってくるのが見えた。


「あ……」


 紅月はその人物を認めると、廊下の端に寄り、頭を下げる。


「あら、夏貴妃ではないの」


 それは皇后だった。皇太后の姪にあたる彼女がここにいるのはなんの不自然でもないことではあったが、紅月は気が重く。やり過ごそうと静かにしていた。


「そなたの宮殿にいた宦官が蠱毒を使ったそうね」


「はい」


「思い切ったことをしたわね」


 なのに皇后はなぜだか機嫌が良かった。


「あなたはまじないをするそうだけど、このことに気づいていたの?」


「いえ……」


「そう!」


 無邪気な皇后の言葉が、紅月の心を切り刻むようだった。


「叔母様に色々聞いたの。目の前で蠱毒の壺を割ったんですってね。そんなことしなければ良かったのに」


 何も知らないくせに! 紅月の体の芯に、怒りの炎が上がり、伏せていた顔を上げた。


「あなた……!」


「紅月様、急ぎませんと」


 思わず手が出そうだった紅月をさりげなく止めたのは雪香だった。


「そう、ね。皇后陛下。皇太后様をお待たせしておりますので失礼します」


 紅月は一礼すると先に進んだ。


「……雪香、ありがとう」


「いえ」


 皇后はあんな人物であったか。紅月はそれが不思議であったけれど、後ろは振り返らなかった。




「夏貴妃。よく来てくれた」


 皇太后は椅子に座り、紅月を出迎えた。


「起きていて大丈夫なのですか」


「ええ。ただ脚が痛むので椅子からは動けないのだけど」


「そうですか……」


 皇太后の痛々しい様子に紅月は心を痛めた。だが、しゅんとした様子の紅月に皇太后はほほほ、と声を上げて笑った。


「何をそんな暗い顔をしておる。そなたが守ってくれたお陰でこの程度で済んだのだ。医官も傷が癒えれば、杖をつけば歩けると申しておるしの」


 紅月が顔を上げると、皇太后が優しい視線を送っていた。


「そもそも、元はわたくしが蒔いた種であろう? 多くの妃が犠牲になったのもみんなわたくしのせいだ」


「そんなことは……」


「わたくしは自分の行いの報いはしっかり受け止める。で、なければ死んだ者が浮かばれまい」


 その中には白瑛のことも入っているのだろう。なんて強い人だろう。紅月はぎゅっと手を握りしめた。そして凌雲にもこの姿を見せたかった。


「まあ、孫をこの手で抱くまでは、わたくしは死なぬがの」


「あの、そのことなのですが!」


 紅月はもう黙っているのが苦しくて、思わず声を上げた。


「どうしたのだ?」


「実は……」


 紅月は、皇太后の側に寄り、その耳元で凌雲とは添い寝をするばかりで男女の仲ではないことを白状した。


「なんと」


「蠱毒の事件もありまして、機会がなかったのですが……今後はお任せください」


「うむ。そなたであれば心配ない」


 皇太后の言葉に、紅月は久々の笑みを浮かべた。



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