表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いと猫の後宮夜話〜月夜のまじない妃と眠れない皇帝〜  作者: 高井うしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/54

第21話

「まあまあ、久しいこと。あなたから会いに来るなんて、なんて風の吹き回しだろう」


 翌日、公務の間を塗って、凌雲は皇太后の宮殿を訪れた。


「呼ばれればこちらから参りますのに」


「別に……大げさにしたくなかっただけです」


 やはりこの人を前にすると、こわばってしまう。凌雲はそう感じながら彼女を見つめた。十年の月日のうちに、この人も老けたな、と感じる。


「紅月が世話になったようで」


「ええ、陛下がついに気に入った妃ができたようなのでね。ご挨拶せねばと」


「その……紅月のことはそっとしておいて欲しい」


「まあ、わたくしが嫁いびりをするとでも思っているの?」


 それは思っている。だからこそ牽制しに来たのだ。


「あれは後宮で生き残っていける女ではない」


 紅月は馬鹿正直で、やたらと正義感が強い。その優しさは凌雲の心の慰めにはなるけれども、後宮の策謀の中で生まれ育った凌雲からしたら、危なっかしいの一言に尽きる。


「そうでしょうねぇ……。では陛下が守って差し上げなければ」


「無論、そのつもりだ。だが、いつもついてやる訳にもいかぬ」


「でしたらわたくしの協力がいりますわね」


 皇太后はにこりと微笑む。その微笑みは後宮の頂点として生き続けた迫力がある。飲まれるな、と凌雲は己に言い聞かせた。


「目をかけて……やってくれ」


「では、少しはわたくしの言葉もお聞きなさい。貴妃に引き立てたのはいいけど、あの子の父はいまだ地方官吏なのでしょう。中央に呼んでふさわしい役職をつけなさい」


「そんなこと、紅月は望みません」


 そんなことをしたら紅月は恐縮して、また何か無茶をするかもしれない。


 凌雲の返事に皇太后はふうとため息をついた。


「なにかあった時、後ろ盾が弱いままでは駄目よ。陛下がわたくしの養子となったのも、そのまま皇太子にしたら周りがうるさかったからでしょう」


 政治には力関係が重要である。皇太后の言うことは耳が痛かったが正しい。


「分かりました」


 凌雲は頷き、その場を後にしようとした。


「お待ちなさい。あとひとつ。すぐにとは言わないけれど、他の妃のことも考えなさい。特に皇后を。わたくしがいくら目を配っても限度というものがあるわ」


「……はい」


 やはり、この人は苦手だ。人のことを見透かしているようで、まだ年若い皇帝である凌雲は居心地が悪くなる。


「ところで義母(はは)上は、猫はお好きですか」


「ええ、好きよ。うちにも二匹おりますよ」


「……そうですか」


 凌雲は今度こそ、皇太后の宮殿を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ