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第11話 見えない評価☆

 アイドルとしての仕事は絶好調!

 まだ数はそこまで多くないけど、毎回大きな反響がもらえる。

 昨日のラジオもSNSの反応は上々だ。少し饒舌になりすぎて下ネタっぽい内容もあったけど、そこも含めておもしろいってリプがたくさん来てる。


 たぶんこれ以上踏み込んだら引いてしまう人もいたはず。でも、あれくらいまではセーフっぽい。

 いきなりそんなギリギリのラインを行くことができるなんて、あたしの類稀なセンスあってこそだ。

 普通はやりすぎてスベったり、逆に守りに入りすぎて退屈なトークになったり、失敗を何度も繰り返して上達していくはず。

 いきなりおもしろいなんて、やっぱりこれがあたしの天職みたいだね。


 まぁSNSにはたまに「黒川はすぐに消えそう」みたいに言ってるやつもいるけど……センスが悪いやつはどこにでもいる。

 この人の好みにたまたまあたしが合わないか、この人が新しい才能が出てくるのを認められない古い人間かのどっちかだろう。

 それにアンチが現れるのは悪い事ではない。人気がないタレントにはアンチもいないって言われてる。

 逆に、どんな人気者にも必ずアンチはいる。「みんなが好きなものが嫌い」っていうすっごいひねくれ者が世の中にはいるから。


 まぁそれはそれとして、アンチコメントを見つけたら片っ端から全部ブロックする。あたしはあたしのことを好きな人たちのために時間を使いたい。ファンのコメントを無視してアンチコメントを読むわけにはいかない。


「――黒ユリちゃんって美人なだけじゃなくおもしろくて最高。――レギュラーのラジオ早く。――今年は黒ユリちゃんの年になる、それは間違いない。――生の黒ユリちゃん見たいからライブのチケット買った。――白ユリはキレイなアイドルすぎてパンチが足りないところあったけど、黒ユリは白の足りない部分をうまく補ってる。早くこの二人のツートップ体制を見たい」

「バイトの休憩時間中ずっと自画自賛し続けるのやめなよ」


 と、先輩が言う。


「自画自賛じゃないですよ。リプ欄を読んでるんです。世間の声にアンテナを伸ばしてるんですよ」

「チェリーピッキングは自画自賛の一種だろ」

「チェリーピッキングってなんですか?」

「都合のいいものばっかり選ぶこと」

「なるほど……でもそれじゃないですよ。あたしは中立な意見もちゃんと選んでます」

「どこが?」

「えっと……とにかく、自画自賛ではないです。これは正当な世間の評価です。先輩は聞いてないかもしれないですけど、昨日ラジオに出演して、大反響だったんですよ」

「聞いたよ」

「聞いてくれたんですか? ありがとうございます。どうでした?」

「ソロの番組ならあれでも良かったかもしれない。でも初瀬リリと二人で行ったゲスト出演した番組ということを考えるとちょっと問題があるな」

「……どういうことですか?」


 リプ欄ならすでにブロックしている評価だ。

 でも、他ならぬ先輩の言葉だから少しは聞いておこう。


「番組は誰のものだ? 誰のためにやるものだ?」

「……リスナーのため?」

「そうだ。リスナーというのは、つまりファンだ。そこに問題があるんだ」

「ファンはあたしのトークをおもしろいって喜んでくれてますよ」

「お前のファンは、な。ホスト役の遠山さんのファンや、初瀬のファンはどうだろう? お前ばっかりしゃべっていて、初瀬のファンは楽しかっただろうか?」


 え? 白ユリさんのファン?

 それは考えていなかった。だけど、


「……そういう人にも楽しんでもらえるトークをしたつもりです」

「初瀬のファンは初瀬がしゃべるのを聞きたいんだ。黒川がどれだけおもしろい話をしようが、その人たちのニーズを満たすことはできない」

「でも、SNSでは昨日の最高だったって……」

「初瀬のファンはわざわざお前のSNSに文句を書き込みには来ない。初瀬リリは“良い子”を突き詰めたようなアイドルだからな、ファン層は他の、まして同じグループのアイドルにケンカを売ったりしないような人間ばかりだ」

「先輩、アイドルにだいぶ詳しいですね」

「……一部のアイドルだけはな」

「白ユリさんのファンなんですか?」

「ファンというわけではないが、中高の同級生なんだよ。だからちょっと注目してる」


 同級生? 知らなかった。

 話したことない同級生なんてたくさんいるけど、先輩は目立つ容姿をしてるから白ユリさんも先輩のことをちゃんと覚えていそうだ。白ユリさんは花火さんとの共演もあるし、弟さんと同じ学校だったんですよ……みたいな話をしていてもおかしくない。


「まぁ初瀬のことはいい。とにかく、だな自分だけが目立とうとするのは良くない。周りを見てバランスを取るのが大事なんだ。仕事はひとりでやるものじゃない。うちの店だってひとりじゃ回せないだろ? 芸能界の仕事はもっと大勢が関わってるんだから、いつも周囲に視線を配ってバランスをとらないといけない」

「まるで経験者みたいな言い方ですね。……あ、もしかして、昨日のラジオを花火さんも聞いてくれていたんですか? それであたしにアドバイスをくれたとか? だったらうれしいなぁ。花火さんに注目してもらえるなんて最高の名誉じゃないですか」

「……まぁそういうことでいいよ」

「あれ、違うのかな? でも、そういうことなら、少しは聞いてみます。周囲を見て、ですね。わかりましたっ! あ、だけど、ファンがあたしの無双を見たいと思ってることが明らかだったらどうすればいいんでしょうか?」

「そんなのは知らん。できるんならすればいいんじゃないか? できるんならな」


 できるに決まってる。

 だってあたしは“黒ユリ”だ。

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