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雪は入口のひざ下くらいまで積もっていた。
やはり男のいう通り、そのうちにやんだのだろう。
一晩中ふっていたら、こんなものではすまない。
これから下山だ。
その時、聞こえてきた。
幼い女の子の笑い声が。
思わず目をやると、そこにいた。
一人の少女が。
――まさか!
少女は雪山の中だというのに、白い袖なしのワンピースを着ていた。
そしてその顔も腕も足も、やけに白かった。
おまけに雪の上を笑いながら走り回っているのだ。
足元の雪は新雪。
いくら少女の体が軽いといっても、その足が雪にうまらないわけがない。
しかし少女は雪に一切足跡をつけることなく、走り回っているのだ。
まるで固い床の上を走っているかのように。
気が付くと、男が俺の横に立っていた。
とてつもなく険しい顔で少女を見ている。
少女は小屋の前をぐるぐる回っていたが、やがて森に向かって走り出し、その姿を消した。
しばらく唖然としていたが、正気に戻った。
俺は言った。
「見たでしょう。こんなところに小さな女の子のが」
「えっ、なんだって。俺はそんなものは見てないが」
「いやだって、さっきあんなに……」
「いいか。おれはこんな雪山で、小さな女の子なんか見なかった」
「ええ」
「そして、あんたも見なかったんだ」
「ええっ?」
「いいか。もう一度言う。あんたも何も見なかったんだ」
すごい威圧感だ。
俺は思わず言った。
「はい」
「話は決まったな」
男はそう言うと、雪山を歩きだした。
終