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【第二話】オバケとのカイコウ

 彼女は、少し腰を曲げ、屋上のパラペットに手を組んで乗せた状態で、もの悲しげに、どこか遠くを見つめているようだった。


 目を擦ったり、瞬きしたり、僕は僕に見えるソレが、見間違いでないか何度も確認した。しかし、何度見直しても、やはり彼女であった。


 今すぐにでも教室を飛び出して、彼女に近づきたかったが、ボクにはそんな勇気はなかった。


 しばらくすると、彼女はパラペットに細く美しい足をかけ、登ったかと思うと両手を広げて地面に落ちた。


 僕は思わず、小さな声で「あっ」と言ってしまう。ベランダの手すりのせいで、地面までは見えない。


 少しすると、彼女は宙に浮いてフワフワと屋上に戻る。やはり、アレは幽霊なのだろうか。


 呆気に取られて見ていていると、彼女はまたパラペットに上り、地面に落ちる。

 二度も、三度も、四度も、五度も。


 僕にはその行動がとても奇妙で不気味に感じた。なぜ、彼女はあんな事を。

 何度も落ちる彼女を見ていたら、二時限目の授業は終わった。


○ ○ ○


 三時間目までの十分休憩で、僕は彼女に、どうにかして、見えているというアピールをしたかった。僕の学校は屋上には行けないのだ。


 ずっと外を眺めていても不自然なので、僕は本を取り出し、それを眺めながら考えた。


 しかし、案は浮かばす、三時間目のチャイムが鳴ったと同時に、彼女は僕のいる校舎の麓辺りへ飛んでいってしまった。


 三時間目が終わると、僕はすぐに一階へ降りてみた。


 三年生が廊下で話したり、トイレへ行っていた。とりあえず、端から端まで廊下を歩いた。教室は全て覗いた。しかしマジマジ見ていると、変なヤツに思われそうで、チラ見しかできなかった。


 二階は二年生の階である。こちらも三年生の教室同様に見回った。


 一通り見終わると、僕は早足で自分の教室へ戻る。席についてすぐに四時間目のチャイムが鳴った。


 四時間目、また彼女は屋上にいて、もの悲しげに曇天の空を眺めているようだった。


 彼女は後頭部に手を持っていくと、髪を結んだシュシュを取った。すぐに髪は風に靡き始めた。

 それから再び、屋上から下へと飛び降る行為を繰り返していた。


○ ○ ○


 昼休み。友達と飯を食った後、僕は自席に戻り、本を開いた。開いて再び考える。周りに目立たずに、彼女とコンタクトを図る方法…。


 隣校舎の屋上へチラリ視線を移すと彼女は僕の校舎の下の方をジッと見つめているようだ。僕の方を見ろ! 念じる。が、同じところを見つめるばかりで動かないので、僕は本へ視線を戻す。


 いっそ大声を出して気づいてもらえれば手っ取り早いだろうが、十中八九、その日から僕は奇人変人として冷たい目で見られるであろう。


 また溜息が出る。


 そして再び本から屋上へ視線を移そうとした。すると、視線の先には、デカデカと彼女の顔があり、僕は驚いて椅子から転げ落ちる。


 クラスの友達の笑い声と、「大丈夫?」と心配する声が混じる中、それらの声をバックグラウンドに、ある一つの声がハッキリと聞こえた。


 「もしかして、見えるの?」


○ ○ ○


 うんうん、頷く。

 「ずっと見てたでしょ」

 うんうん、頷く。

 「ちょっと話したいことがあってさ。放課後、芦名くんの家、行ってもいいかな」

 うんうん、頷く。


 途端、彼女の映る視界にパーに広がった掌が振りかざされ、上下に動く。「生きてるか~」


 ハッとした僕は立ち上がり、席につく。「ごめんごめん、なんかボーっとしてた」


 僕をハッとさせた彼の名を富永 海斗という。僕の友人だ。彼はカラッと笑うと「気をつけなよ」と言った後、「あ、先輩が呼んでる」と教室のドアの前にいる一人の男性の元へ向かった。


 全く、陽気で楽しいやつである。


 俺が彼女の方へ向き直ると、彼女もどこかへ送っていたらしい視線をコチラへ戻した。


 彼女は教室の窓の縁へ腰掛け、窓枠に手を添えながらふふふ、と笑った。


 彼女は綺麗な脚をパタパタと前後へ踊らせている。変わらず髪は風に靡き、曇天から漏れ出す天使の梯子で光沢を帯びている。


 僕は顔が熱くなるのを感じた。

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