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新たな来客

「少し先になるが、秋の終わり頃に王都から客が来る。今度も長めの滞在になりそうだ」

「また?」


 お義父様の声に思わず声をあげたお義母様は、無作法だったと反省したのか少し赤くなって俯いた。


「俺の友人なんだ。騎士として戦に出ていたんだが落ち着いたから戻って来た。今回は長い休暇になると言うから、ここでの休息を勧めたんだ」


 ジリアムがお義父様の言葉を引き取った。聞けば王都の学校で同級だったらしく、事件の後も変わらず交流が続いている数少ない友人だと言う。


「明るくて付き合いやすい男だよ。ユリア、お前たちの訓練にも付き合ってくれるだろう。現役の騎士に稽古をつけてもらえる機会なんて有難いだろう?」

「そうね、楽しみだわ!」


 こちらの国境側では全く諍いが無いが、他の地域ではそれなりの戦いがあると聞く。グーデルト領の警備兵達は、ちょっとしたごろつき相手に小競り合いをする程度の役目しかない。王都の現役の騎士は雲の上の存在だろう。


 ユリアはとても嬉しそうだ。

 

 歓迎の舞踏会も開くと言う。歓迎の空気も準備への力の入れ具合もオズロの時とは全く違う。主賓と主催者の妻のダンスも、お義母様が引き受けると言う。


(あの時、オズロにはひどい事を言われたな)


 確か知性の欠片も無い、そんな事を言われてダンスを断られた。オズロと仲良くなった今では笑い話に出来るくらいだ。


(皆にはまだ、私がオズロを嫌っていると思われてるけど、本当は森の相棒なんだから)



 秋は採取する植物が多い。私たちは毎日、熱心に森を歩き回った。感情的な態度を取ってしまった日の後は少し気まずかったけれど、お互いに何も無かったかのように振る舞っている。


「また、スティの群れが来そうだけど見たい?」


 オズロは何度も見ているのに、毎回見たがる。本当に魔獣が好きなようだ。


「ギードはやっぱりいないんだな」

「出会ったら大変よ!」


 魔力がある人間を襲わないとは言われているけれど、それでも危険な魔獣に違いない。熊のようと表現されるけれど生態は熊と違う。暖かい季節よりも冬に気配を感じることが多い。餌を求めて足を延ばしているんじゃないかと思っている。


「そうか、では冬の植物を採取する時には特に注意が必要なんだな」

「ふふ。見れる好機とも言えるけどね。でもさすがの私も怖いから会いたくないわ」

「猫の顔なのにか?」


 オズロが書いたギード猫にゃんを思い出すと笑ってしまう。



 森の落ち葉が深くなり、冬が見えて来た頃にやっと、ジリアムの友人だと言う男が到着した。


「タイラー・デクストンです」


 長めの癖毛を後ろでまとめ優し気な顔をした長身の男は、騎士というには線が細く見えた。


(もっと、いかつい男の人かと思った)


 城の警備兵の方が、よほど筋肉の塊で強そうに見える。ユリアも同じ意見だったようで、本当に強いの?とからんでいた。


 ジリアムに窘められていたけれど、しっかり手合わせの約束をしている。


 タイラー・デクストンは私の前に立つと、手をとって優雅に礼をした。


「噂の婚約者殿にお会い出来て光栄です。ジリアムが大切にしている女性を一目見てみたかった」


 私も丁寧に礼をして挨拶をした。


「リリイナ、こいつには少し軽薄な所があるから近寄ってはいけないよ」


 ジリアムが冗談めかして言う。二人で小突き合って笑い合う姿は、とても仲の良い友人という様子だった。


(学校で同級だった、ということはオズロとも知り合いなのかしら)


 ジリアムと仲が良いということは、彼と因縁があるオズロの事も、きっと良く思っていないはずだ。二人を接触させないよう行動には気を付けた方が良さそうだ。



「毎日あの塔に上るのは明かりを点ける為なのですか?」


 森からの帰り道、オズロは家の傍に立つ塔を見上げた。


「はい、頂上にある明かりの点灯・消灯には魔力が必要なので、私の役目なのです」

「天候が悪くても灯っているので炎では無いと思っていました」

「ご覧になりますか?」


 少し早いけれどもう明かりを灯しても良い時間だ。ついでだから、と言うとオズロは少し嬉しそうだった。


 最上階は少し肌寒かった。私は窓を閉めようとして、オズロが熱心に装置を観察している事に気づいた。


「触っても大丈夫ですよ。もし宜しければ点灯をお試しになって頂いても問題ありません」


 方法を教えがてら、一度点灯して見せる。すぐに消してオズロに場所を譲った。四苦八苦するオズロを横目に、私は開いていた窓を全て閉めた。


「リリイナ?」


 呼びかけの声と共に、ユリアが階段を上ってきた。


(大丈夫、森の相棒として話していなかった)


 ユリアはオズロの姿を見て息を呑んだ。不審そうな顔をしている。


「こんな所に何故」

「ハインクライス子爵が、魔道具の灯りに興味があるとおっしゃるのでご案内しました。点灯をお試しになりたいそうです」

「王都では見かけない魔道具だったので、厚かましくも拝見させて頂いております」


 オズロもユリアに丁寧に説明した。


「灯りが点いたり消えたりしたものだから、心配になって見に来ただけなの。何でも無いならいいのよ」


 ユリアは私に歩み寄るとぎゅっと抱き付いた。


「あなたが夕方に灯す6個の光は、遠く離れた街にいても見えるの。私は城に帰れない日でもこの光を見ると、あなたが元気なんだな、と安心するのよ」

「ありがとう」


 ユリアと目を合わせて微笑み合った。オズロが遠慮がちに言う。


「やはり、私の魔力では点灯させられないようです」


 私は魔道具に魔力を注ぎ点灯させた。日が落ちて薄暗くなっていた部屋の中に光があふれる。


「それでは私は失礼します」

「あの!」


 階段を降りようとするオズロに、ユリアが声をかける。オズロが振り返った。驚いたように少しだけ目を見開いている。


「あの」


 何事もはっきり言うユリアとは思えない様子で口ごもっている。オズロは急かしたりせずに、ユリアが話すのをじっと待っている。


「いつか兄の事件について、ハインクライス子爵からお話を聞かせて頂けないでしょうか」


 どくん、と心臓が波打った。ユリアは『宿敵』としてオズロを毛嫌いしていた。私のような接点も無いはずなのに、なぜこんな事を言い出したのだろう。


「今ではなく『いつか』ですか」


 ユリアは俯く。


「まだ、心の準備が出来ていません。でも、いつかは聞かなければならないと思っています」


 心臓の鼓動が早くなる。


「では、心の準備が出来たらお声がけ下さい」


 オズロは静かに言うと塔を降りて行った。


「ユリア?」


 ユリアは私をじっと見ると、また俯いた。泣きそうな顔をしている。


「ごめん、リリイナ。ごめんなさい。今は何も聞かないで欲しい」

「分かったわ」

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