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第6話 冒険者ギルド。

突然だと思われるかもしれないが、異世界の道と言ったら土や石畳を想像する者が多いだろう。


実際にそういった街は多いが、この街は少し変わっているのか、魔法で整備されたコンクリートのような石のような材質で出来ている。


街によって違いやこだわりが見られるのは現代でも異世界でもとても面白いものだ。


「ねぇ…ねぇ、聞いてるのかい?探偵くん!」


そう言いながら前のめりになってリルアは俺の顔を覗き込んだ。

どうやら俺はまたどうでもいいことを考えて耽っていたらしい。


「す、すまん。何の話をしていたんだったか。」


リルアは不満そうな顔を見せた。


「さっきのトラブルの真相の話に決まってるじゃないか!全く、そんなだから異性からモテないんだよ?」

自業自得とはいえ重すぎるカウンターを食らった。


まだ朝だと言うのに、変な奴だのモテない奴だのと詰られるとは…全員俺を精神的に潰そうとしているのか?


「宿屋のあれか。恐らくあれは宿屋の娘さんが自分用の朝食ではなく、お客さん用のものを食べたんだ。」


と言いつつリルアの顔を再度確認すると先程までの不満そうな顔が嘘のように消えていた。


そしてその表情は「理由が知りたい!」と顔に書いてあるんじゃないかと思うくらい分かりやすい顔に変わっていた。


本当にコイツは好奇心の塊だなと思いつつも、俺は自分の考えを話し始めた。

「はぁ。あの子はまだ小さいが活発で責任感が強い。だから食事を伝えに来る役や食器の片付けなどの軽作業を毎日率先して担当している。そうだろ?」


確かにそうだと頷きながら、リルアは推理の続きを催促する。


「そんな彼女が何故か俺たちの食器の片付けもせずに奥に隠れていたんだ。しかも呼ばれているのに返事もせずにだ。」

「それで探偵くんは彼女が食べたと言いたいと…。でもそれだと変じゃないかい?なぜ彼女は習慣である行動の中でそんなことを…。あの子は一見、賢そうな子だからそういう悪戯はあまりしないものだと思ったけれど。」


綺麗な白髪をクルクルと指で巻きながらリルアは思考を巡らしている。



そんな横顔を見ていると、「コイツほんとに化粧とかしてないんだよな?」と、時々疑問に思ってしまう。



「あの子が悪戯をしたと思考を固定するのは良くない。何か原因があったと考えるべきだ。ポイントは朝食に呼ばれた時の状況、それを思い出してみてくれ。」

リルアは更に考え込んでブツブツと独り言を始めた。


「私は探偵くんの部屋にいた。必然的に私の部屋は無人になるね…。声で反応があれば部屋の中まで確認はしない。だから彼女は反応がなかったら、確認のため私の部屋に入るはず…。なるほど…私の部屋には誰もおらず客が居ないと判断した、そして朝食の数が1つズレてしまった訳か!その後、1つ多いと勘違いした彼女はお客さんの分を食べてしまった…と。」


「そういう事だ。だが実際は、その朝食は1階に降りてくるのが遅かったあの男の食事だったという訳さ。娘さんはあの男の返事を俺のものだと勘違いしたんだろうね。」


確かに大人びた賢い子という印象は受けたが、まだ子どもだ。


確認を怠るなんて大人でも多々あるのだから、子どもでは当然のことである。


「確かに声だけでは性別までしか分からないから、君の部屋で返事した私と奥の部屋で返事した男が一緒に食べている構図に見えたってわけだね。」


「極めつけは夫婦たちを見つめている彼女の口に、僕達が飲んだスープの跡が着いていた事だがな。」


謎が解けて嬉しいのか、足取りがスキップ混じりになっていることに自身も気づいてないのだろう。


指摘すべきか悩んでいるとリルアは突然振り向いて、笑いながら言った。


「しかし、君は相変わらずすごいね。君の観察力の前では君の異能は仕事を為さない、いや為せないんじゃないかい?」

リルアはその瞳を輝かせながら俺に賛辞の言葉を送った。


「そんなことはない。便利なときだって沢山ある。例えばこの街灯や街路樹が今まで何を経験してきたのか…とか知りたくなる時があるだろ?そういう時――」


「いやないよ…。と、くだらないことを話していたらギルドについたね。」


くだらない話扱いは酷すぎないか?と思いつつも俺はギルドに足を踏み入れた。


その瞬間、俺は久方ぶりに懐かしい空気を感じた。


そうこれは強者が放つ特有のモノ、俺が酒場で感じたリルアのオーラと同一のものだった。


「おいあれ見ろよ…!あの髪色ってまさか…。」

「マジかよ…。あれって緑光の二つ名じゃねえのか…?」

「それってあの最短でAランクに上がった慈悲の加護持ちのことか…!?」


どうやらリルアは相当有名人らしい。

しかも緑光なんて二つ名まで持ってるとは。


「少し聞きたいことがあるんだけれど今は大丈夫かい?」

そんな噂話の出どころに一瞥もすることなく、リルアは受付嬢と話を始めた。


「リルアさん!記憶の件、何か分かったんですか?って…その横のお方は…?」

当然の反応だ。1年も放置してれば受付嬢の1人や2人入れ替えがあるだろう。


ついでにここのギルド長も変わっていて欲しい…。


「俺はシュン。以前冒険者をしていた者だが、こっちのリルアとパーティを組むことになったから再開の申請をしに来たんだ。」


「初めまして!私はエリス・ハルバードと申します…ってリルアさんとパーティを組む…!?というかシュンってまさか兄様が言っていたあの…!!」


そんなに驚くことなのか?

というかハルバードってどこかで…。


そう思っていたのも束の間、背後から誰かが俺の肩に手を置いてこう言った。


「おいおい!こんなに非力で間抜けそうな男が緑光の選んだ相棒だって言うのか!?絶対俺の方が100倍マシだ!緑光!今でも遅くないぜ?」


そう言うと男は俺の事を睨みながら肩を握る力を込めた。


まさか転移後3年目にして、こんなあるあるを受ける時が来るとは…と少し感動した。


--2年前に登録した時はアイツが居たからな。

と俺は少し昔を思い出した。

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