第5話 消えた朝食。
いつも通りの朝だ。そして俺はそんな朝が嫌いだ。
人間という生き物は何故ずっと寝ていることが出来ないのだろうか。
どうせ戦闘系の異能じゃないのなら「寝れば寝るほど強くなる」みたいな異能が欲しかった、などという意味の無い小言を垂れて俺は朝を迎えた。
「おーい!探偵くん!起きてるかい?」
ドアを叩く音とその声を聞き、思い出す。
リルアと旅を始めて、3日が経った。
「起きてるぞ。だがその探偵くんはやめないか?せめて探偵さんにしてくれ。」
そう言いながら俺は扉を開ける。
「では君も年上の私には敬語を使うべきではないかな?」
扉の先にはそんなことを言いながら笑みをこぼすリルアの姿があった。
年齢を教えた途端にこれだ。たった1歳しか違わないというのに、全くこいつのおふざけには困らされる。
心の中で悪態をつく俺に目もくれず、リルアは部屋のソファに腰掛けた。
「それよりも今日の予定を確認しておきたいんだ。実は昨日、冒険者ギルドで興味深い話を耳にしてね。」
「興味深い話?何かお前の記憶に関することなのか?」
そう言うと同時にリルアはある新聞を机に広げた。
――号外。街郊外にて謎の大爆発が発生。
死者、負傷者共に確認されず、原因は未だ不明。
「何だこの記事?というか森の半分が崩壊ってとんでもないな。文字通り、俺からしたら机上の空論ってやつに聞こえてしまう。」
これのどこに記憶との関係があるのか必死に考えていると、それを見たリルアが申し訳なさそうに口を開いた。
「あの…考えてくれてるところ悪いんだけどね?気になると言うだけで依頼には関係ないんだ。」
そういえばコイツは好奇心の塊。
まさか本当に気になるだけだったとは…。
俺は思わずため息をついてしまった。しかし、この規模の大爆発はもしかすると…
「いや。全くの無関係という訳でも無いかもしれない。それにこの事件を解決すれば、約2年間放置していた俺の冒険者ランクも昇格するだろ。」
そうなのだ。現状2年弱も冒険者ギルドに属していた俺のランクがCで、記憶も無いリルアがAなのは大変好ましくない。
そのため俺は何としてでもAランク、最低でもBランクには上がらなければならない。
「でも大丈夫かい?君の異能は確実に戦闘向きでは無いし、他の冒険者のように体躯が優れているわけでもない。Aランクなんて厳しいんじゃ…?」
と、少しニヤけた顔で俺を見つめる。
この女、クールそうに見えてクールぶっているだけだな。
そんなことをわざわざ口に出しはしないが、こうして対抗心を燃やしてしまう俺もまた子どもなのだろう。
「確かに戦闘向きではないが、そこは実戦で見せるとしよう。」
「む、では楽しみにしておこうかな?」
――と、それと同時にコンコンとドアのノックされる音が聞こえた。
「お客さーん!もうご飯できてるよー!」
そんな可愛らしい声が食事を伝えにやってきた。
恐らくこの宿屋の小さな女の子だろう。
「はーい!今行くよ!――探偵くん。続きはご飯を食べながらにしようか?」
どうやら俺たちは話し込んでしまったらしい。
そう思いつつも俺たちは軋む階段を2人、ゆっくりと降りていった。
「おぉ。意外と言っては何だが美味いな。」
この宿を見たときは少し心配だったが、どうやら宿の外観と食事の質には関係がないらしい。
なにせ俺は日本からの転移者。食事にはうるさい。
「美味しいだろう?それで、さっきの依頼の件なのだけど。」
リルアは食事の手を止めて先程の話の続きを始めた。
「あれは恐らく高ランク依頼に属しているはずだよ。だったらその前に低ランク依頼で連携や君の実力の確認をしておくべきだと思うんだけど、どうかな?」
「それに関しては俺もそう思っていたところだ。」
いくら冒険者稼業を放置していたからと言って基礎は忘れていない。
そう。新しいパーティに入った際は必ず連携確認をした後に依頼を受注する。
俺がこの世界に来るまでは異世界のルール的なことまで考えたことは無かったが、生きるために俺もこの世界に馴染んできたものだ。
――なにせ、この世界でも死は1度しか訪れることはないのだから。
「さ、食べ終わったことだし、早速冒険者ギルドに行こうか。」
そう言ってリルアが席を経つと同時に、店に声が響いた。
「おーい!店主さん!だいぶ前に嬢ちゃんに呼ばれたんだが飯はまだかい?」
どうやら食事の提供がまだだった客の1人が声をあげたらしい。
「あら!ここに置いてた奥の部屋のお客さんへの食事、どこにやったか知ってるかいアンタ!」
「あぁ?それならそこに…ってあれ?おっかしいなぁ確かにさっきまで…。おい、シエル!お前は知らないか!ってアイツどこに行った?」
この宿は夫婦2人と子ども1人で切り盛りしている。
シエルというのはきっと先程部屋をノックした、あの小さな娘さんのことなのだろう。
どこの世界でも飲食業というのは大変そうだ。
もしかしたら全世界線共通なのか…?
と、そんなことを考えていると宿屋の娘が小さな体を隠し、壁から顔を覗き出して夫婦を凝視しているのが視界に入った。
あの活発な子が返事もしないとは珍しいな。と考えていると、そんな俺と目が合って気まずかったのか、少女は隠れた。
--なるほどなぁ…
「探偵くん。何かトラブルがあったらしいね。ここは自称何でも屋の探偵くんの出番じゃないかい?」
そう言いながら、リルアは少し嬉しそうに笑みを零していた。
「もう探偵ってことでいい。しかし、探偵が冒険者をするっていうのも中々風変わりな奴だと思われそうだがな。」
まぁこの宿屋の食事を甘く見ていたのと少し迷惑をかけた詫びと言っては変だが、少し手伝うか。
などと考えながら夫婦の会話に失礼ながらも割り込んだ。
「すまない。少しお伝えしたいことがあるんだが。」
何だ?といった顔でこちらを不思議そうに見てくる店主に、こっそりと耳打ちをする。
「ん?お客さん…?話って…? それは本当か……?なるほど、だからアイツ…」
「でもお客さんすげーな。確かあんたちょっと前からこの宿に来たんだったよな?よく見てるってーか…まさか人間観察が趣味なのか?それともただの変な奴なのか?」
馬鹿にする気のない、そういった純粋な疑問が1番心にくるのだが。
そんな自分自身を慰めつつ俺は店主にこういった。
――「一応、探偵ってやつをやってますからね。」
ここまで読んでくださって本当に嬉しく思います( ; ; )
もしよろしければこれからも末永くよろしくお願いいたします<(_ _)> 読み辛い箇所が多いと思われますが、脳死で気楽に読んで頂けると嬉しいです(՞ . .՞)"