第4話 旅の続き。
「ぐ、うわぁあぁぁ!!」
そんな情けない悲鳴と共に目を覚ますと、無様にも俺はリルアの膝の上で眠りこけていた。
「探偵さん。目が覚めたかい?能力の影響で倒れるなら倒れると言っておいてくれれば良かったのに。というか酷くうなされていたけれど大丈夫?」
今のは一体…異界の門が見えて、それで…
そんなことを考えているとリルアが心配そうにまた声をかけてきた。
「おーい。大丈夫かい?」
「あ、あぁ、すまない。リルアの記憶の事なんだが、読み取れそうにないんだ。」
「そっか…それは残念だね。」
俺が申し訳なさそうにそのことを伝えると、リルアは悲しげな表情を浮かべ、そしてすぐにニコリと笑った。
それが気丈に振舞っての行為だというのは誰から見ても明白だろう。
「仕方ないさ!それにしても私の記憶だけ読み取れないっていうのは少し悲しいね。何か理由があるのかい?」
俺は理由を必死に考えた。
しかし、出てくる案はどれも嘘のようで、信憑性にかけると言えるものばかりだった。
「俺の仮説では失われた記憶は読み取れない、つまり記憶喪失特有の問題だと睨んでいる。」
そんな風に俺は自分の能力についての推論を挙げ始めた。
「そうか…ふむ。記憶喪失特有の問題か…。それは一理あるね。」
哀しみとも怒りとも言えない感情が俺を包み、風の音だけが過敏に聞こえる。
そんな瞬間だった。
「ところで君のその異能は生まれつきなのかい?」
リルアはふと気になったようにそう問いかけてくる。
俺は未だ別のことを考えている最中だと言うのに。
全く気楽な奴だ。
「あぁ。その事についてだが実は俺はこの世界の住人では無かった。いわゆる転移者だよ。」
俺があっけらかんと話してみると、リルアは歩みを止めて俺の肩を掴んだ。
「そうだったのか…!やはり君は異界の神の寵愛を受けた者だったんだね!私の勘はやはり正しかったのか!なるほど、とても面白いよ探偵さん!」
あぁ。首がもげそうだ。
俺は首振り人形じゃないし、そんなに揺らされてはむしろ話しづらいんだが。
というかそれ以上揺らされると俺の首の可動域から外れてしまう!
「面白いって言ってもお前だって異能を持ってるだろ?俺だけ教えたのはフェアじゃないんじゃないか?」
リルアは少しビクッとして揺らすのを止めたが、やはりか…と言ったように観念して話し始めた。
「全く…君に隠し事は出来ないみたいだね。これは話すよりも実際に見せた方がいいか。」
そう言うと彼女は剣を抜いた。
そして…剣から光が溢れ、彼女の体全体を覆い尽くした。
その瞬間、彼女は俺の視界から忽然と消え、一瞬で俺の背後を取って見せた。
「私は慈愛の神テレスの寵愛を受けた使徒なのさ。どうだい?すごいだろう。」
とてつもなく早い移動で目ですら追えない。そんなものは異能でしか再現できないだろう。
「なるほど…慈愛の神の異能、物理系の異能だったのか。凄まじい剣技やオーラはそれが理由だった…と。だが、慈愛の神の使徒は異能を見せびらかす行為をあまり良しとしないんじゃなかったか?」
それを聞いてそのことを思い出したのか、少し抜けた顔でリルアは笑った。
「あ、あはは…君は物知りなんだね…誰か他の教徒から聞いたのかな…?」
自分の行動が今になって恥ずかしくなったのか、目を伏せてモジモジしているリルアを尻目に俺は言った。
「それより、これからの事なんだが。お前は何処かに向かうのか?」
「うん?そうだね。私の旅は記憶を取り戻すために続けているからね。と言っても、記憶に関する異能を持つ君でも無理なら無謀かもしれないけれど。」
困り果てたリルアの顔を見て、俺はより一層強く決心した。
まぁこの選択肢以外、今の俺にはありえないのだけれど。
――「リルア。俺もお前の旅について行っていいか?」
一瞬静かになった後、リルアは返答した。
「私はとても助かるが…なぜだい?君にはなんのメリットもないだろう?」
全くもって分からないといった顔でリルアは俺の目を見る。
そうだ。確かに俺にメリットなんてない。
それに俺の性格からすれば帰ってベッドにダイブが理想でルーティンだったはずだ。
だが、今の俺はそれを良しとしない。
「メリットか…メリットはないが、生じるデメリットはあるぞ。」
「デメリット?それは一体…」
リルアは思い当たる節がないのか首を傾げた。
「俺の依頼達成度は驚異の100%だって言っただろ?お前の依頼を解決しないと99%になってしまう。商売は信用が第一だからな!」
「ぷっ、ふふっ。」
「何がおかしいんだよ?」
急に笑いだしたリルアに俺はそう問いかけた。すると-
「君はやっぱり変わってるね!でも君は商売人ってタチじゃないだろう?あははっ。」
そんなに笑うことないだろ、と心の中で少し悲しみを覚えた。
しかし、達成率100%…か。
実の所、ついさっき2件ほど過去に失敗した依頼を思い出したため既に100%では無いのだけれど、それを話すのは蛇足だ。
夜の闇が俺たち2人を引き離すかのように、その後すぐに俺たちは解散した。