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終章-時が満ちて

 教会の鐘が澄んだ音色を轟かせていた。

 それだけで、うっすらと視界が滲む。

 二人の姿を目にしたら、涙が止められないのかもしれない、と覚悟を決めた。

 でもいざその時になったら、隣でオイオイ泣くアンを宥めているうちに、俺自身の涙は引っ込んでしまった。

 

 二人は今、揃いのタキシードとウェディングドレスを身に纏い、微笑んでいる。

 こんな日が来るなんて、あの頃は夢にも思っていなかった。

 あの時俺がやったことは、どう取り繕っても、拉致のほう助に他ならない。

 少し歯車がずれていれば、誰も彼もが不幸になっていたはずだ。

 この新郎新婦の軌跡を思い出しながら、彼らの幸せそうな顔を見てると――やっぱり少し、目頭が熱くなる。

 

 新郎――セオドアは、どうあがいても不幸から逃れられないような男だった。

 この友人の苦痛が少しでも和らぐなら、少しくらい犯罪に手を染めても構わないと思った。

 だが、そのことが、逆に彼を苦しめることになった。

 どっちに転んでも苦痛しか見えない未来に懊悩していたはずなのに、気付けば家に女神がいた。

 

 新婦――エレノア。彼女も過去に色々あったと思う。

 でもそれよりもまず、彼女はモテた。明らかにモテていた。

 家のしがらみで手が出せないだけで、個人的に慕っている男は多かったと思う。

 中には、エレノアと結婚したい一心で剣の腕を磨き、貴族の養子となった熱い愛に溢れる元平民男もいた。

 でも、彼女はその男の手を取らなかった。何故かと聞けば、「この屋敷にいたいから」と顔を真っ赤にして答えた。

 

 セオドアは、三年かけて、エレノアを口説き落とした。

 いや、本人はそう思っているが、実際にはとっくの昔に、エレノアはセオドアに惚れていたと思う。

 あんな出会い方をして、どこで惚れたのかまったくわからないが、女神様には最初からセオドアの本質が見えていたのかもしれない。

 くっつくまでの三年間は、俺もアンも、随分とやきもきさせられた。

 

 それから、ようやく想いが通じてからも、何分いわくつきの二人だから、結婚までには沢山の困難があった。

 多分、これからも越えなければならない山もたくさんあるだろう。

 

 でもきっと、二人なら大丈夫だろう。

 本当に、この二人だから大丈夫だと思える。

 

 俺は精一杯、拍手を送った。

ここまで読んでいただき、深謝です!

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