夏空と雹(1)
暖かい手で運ばれた気がする。
気付いた時には、知らない場所にいた。私は横たわっていて、その私の顔を母が覗き込んでいる。傍らに父もいる。
「お母……様?」
「エル! ああ、気付いたのね!」
「……」
私は何が何だかわからなくなって、ぼーっと母の顔を見つめてしまった。
「エル、わかる? マクスウェル公爵令息が、ポータルを使ってあなたを首都まで運んできてくださったのよ。でも、卿はすぐ帰ってしまうし、あなたは、うわごとのように、公爵令息に助けていただいた、と繰り返すだけだし……。いなくなったと聞いてから何日も何の連絡もなくて、私たち……」
うわごと? 私が……?
「エル……? 聞こえてるの?」
母は一旦言葉を切ると、不安げな表情で、私に問いかけた。
「え、ええ……」
――声が出る。
「あの、ここはどこですか……?」
「首都の病院よ」
「首都……!? 何故、首都に……私は六日も眠っていたのですか?」
私はひどく混乱していた。両親が偶然東部に居合わせていた、と言われた方がまだ現実的だった。東部から首都へは馬車で六日かかる距離なのだから。
だが、母も困惑した顔をした顔をしていた。「だから……」と説明し始めた母を押しとどめるように、父が口を開いた。
「エル。東の砦にはポータルがあることを知っているだろう。お前はそのポータルを通って首都まで来たんだ。……皇室の許可がなければ使えないもののはずなのだが、マクスウェル公爵令息が融通してくださったようだ」
「え……」
「何があったか聞きたいところだが、今は混乱しているみたいだ。体も辛いだろうし、今はゆっくり休んだ方が良い」
「ええ、そうね。それがいいわ」
父が言うと、母もうなずいた。
「ありがとうございます、お父様、お母様……」
ぼんやりとした思考がまとまりだし、状況が把握できると、思い出したかのように体のあちこちがズキズキと痛んだ。
マクスウェル公爵令息が――。
結局、あの屋敷では何が起こっていたのだろう。両親には何と説明すれば良いのだろう。
答えが見出せず、私は瞼を閉じてやり過ごすとにした――。




