【04】 婚約、決定 2
お互いをよく知るためにと、マッチョ王子様……テオ殿下は忙しい公務と婚礼式の準備の合間を縫っては、手土産を持って子爵家に訪れていた。
お土産は甘くて見た目も可愛らしいお菓子や、季節に咲く花が多かった。
わたしは甘いものはほとんど食べない。
花の花粉にもアレルギーがあるので寝室には飾らない。せいぜい遠くから鑑賞するだけ。
正直に話してお断りしようとしたのだが、お母様に止められた。お気持ちをいただいておきましょうと。
その言葉通りに、甘いお菓子はお母様や屋敷の皆で美味しく食し、花束はエントランスに飾らせていただいている。
前からちょっと疑問に思っていることがある。
テオ殿下は夜会で婚約宣言をする前から、お父様にわたしとの婚約をたびたび打診していた。それにもかかわらず、わたしのことをあまり知らないみたいなのだ。
しつこいくらいに婚約の話を持ち掛けていたのに、わたしのことを調べなかったのだろうか? 甘いものや花が苦手とか。
それに一体、わたしのどこを、どこで見染めたのだろう。
自慢じゃないけど、わたしの容貌はごく一般的。
小石を投げれば当たるような、どこにでもいる栗色の髪と瞳だ。目も鼻も口も、大きくもなければ小さくもない。
悲しいかなどこかで出会って一目惚れをされるような容姿ではない。
身長はほかのご令嬢たちと比べると、少し高いかもしれないけど。ホントにほんの少しだけね。
お父様は弱小子爵だし。
そんなお父様は「蓼食う虫も好き好き、というからな」などと言って、お母様とわたしから冷たい視線を浴びせられた。
まあでも。
確かにわたしについて云えることは、今、大流行中の物語に登場するような、家族には虐げられ周囲に味方はいなくて、婚約者には婚約を破棄されて、でも最後には見目麗しくスペックも高い公爵様や王子様に見初められる主人公ヒロインの要素など、もちろん何ひとつもありはしないということだ。
一人娘なのでお父様とお母様には大切に育てられた。
性格は素直(だと思っている)、頭脳は凡庸。どちらかと言えば、人前ではかなり大人しいと自負している。
それなのに……なぜ?
うむむ。解せない。
わたしにしても……。
テオ殿下のことは、婚約の打診がくるまでは名前しか知らなかった。
サリファ王国の第三王子、セオドア・サリファ殿下。
基本的に……マッチョは視界に入らない。視界に入らないから興味を持つこともない。
それでも最近ではだいぶ、マッチョな体格にも慣れてきた……かもしれない。少なくとも見慣れてはきた。
興味はというと……うむむ。
実は……テオ殿下と一緒にいる近衛護衛騎士のノア様。
彼のほうが好みだったりする。絶対に口には出せないけど。
さらさらの長い黒髪を高い位置で一つに結んでいる。しゅっとした輪郭。青い瞳に涼やかな目元。その左側の目じりにはほくろがある。それがたまらなく艶っぽい。おまけに細身で長身。
九割方、いや、直球ど真ん中でタイプだ。
テオ殿下の護衛騎士というくらいだから、剣の腕も確かなのだろう。ノア様が剣を抜いたところはまだ見たことはないけどね。
ノア様は貴族のご令嬢たちにも人気が高い。
お茶会で「護られたい騎士ランキング」なるものが催されると、必ず毎回のように上位に入るのだ。




