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殿下! その婚約宣言は反則です!?  作者: 冬野ほたる


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13/53

【13】 ルナの告解

 


 この凡庸どころかお花畑だった頭で、昨夜も一晩考えていた。

 昼間にはノア様から確証も取れた。横に目が泳いだことがなによりの証拠だ。まさに、目は口ほどに物を言う。

 なので……。

 

 「お父様、お母様……お話があります」


 夕食の席で、そう切り出した。

 

 やはり、お父様とお母様には、きちんと話をするべきだった。

 クリスタとのことも、テオ殿下とのことも。


 アーバン子爵家の令嬢に対してわたしが取った行動は、お父様の仕事にも影響が出るかもしれない。


 テオ殿下からは近いうちに、婚約に関する通達があるかもしれない。


 いきなり衝撃の結果を突きつけられるよりも、少しでもショックを緩和させるために、わたしから事前に話しておいた方がいいに違いない。


 不出来な娘でごめんなさい。お父様、お母様。

 

 「どうしたんだ? そんなに(かしこ)まって」


 「なにかへんなものでも食べたの? いつものルナらしくないわよ?」

 

 ううう、緊張する。

 手のひらにヘンな汗が滲んでくる。

 

 「あの、実はね……昨日のアーバン子爵邸でのお茶会で、ね……」


 お父様とお母様を上目で交互にちらちらと見ながら、温室内であった出来事を、包み隠さずにすべて話した。

 

 

 「なんと……」


 「まあ……」


 お父様とお母様のナイフとフォークを持つ手は、しばらく止まっていた。


 「ルナ」

 

 お父様に噛み締めるように名前を呼ばれる。

 優しい声だ。


 「はい……」


 「……済んでしまったことは仕方がない。言い返して気持ちは晴れたか?」


 下を向いて、黙って首を左右に振った。


 クリスタに言いたいことを言って反撃はしたものの、心はそんなには晴れなかった。

 いや、そりゃあ、あの場では多少はすっとした。

 だけど、だからといって、気分爽快! なんてことにはならなかった。結局は、クリスタと同じことをしてしまっただけのようにも思う。


 お父様とお母様は、ちらりと視線を交わして肯き合ったようだった。


 「ルナ。『沈黙は金。雄弁は銀』という言葉がある。世の中には黙っておいた方がよいこともある。しかし……今回のことのように、立ち向かわなければならないときもある。ルナとセオドア殿下の名誉を軽んじられて黙っているのは、間抜けなだけだ。おまえはセオドア殿下と自分を守ったのだ。よく……頑張ったな。私からアーバン卿にはうまく謝っておくよ」


 お父様……!


 顔を上げると、お父様の栗色の瞳が優しくわたしを映していた。


 「いいえ。あなた。謝る必要はありません」


 いつもはわりと温厚なお母様が、珍しく厳しい声を発した。

 かつてないほどの眼力を発揮させて、お父様を横目に見ている。


 「いくら……アーバン子爵家の令嬢でも、言ってよいことと悪いことがあります。それなのにその区別もつかず、ルナとセオドア殿下を辱めるなんて……。セオドア殿下の新しい恋人? はっ! いったいなにを言い出すのやら」


 お母様は鼻で嘲笑(わら)った。 

 声もいつもより高い。相当怒っているようだ。


 えーと……。

 わたしのために怒ってくれるのは、とてもありがたい。だけど、たいへんに申し訳ないんだけど……。

 ああ……。

 もう一つの件が言い出しにくいっ。


 「あの、お母様? もう一つ、お話があるの……」


 ええいっ! 覚悟を決めなければ。

 心の中で自分の頬を張って気合を入れる。


 「もう一つ? なんなの?」


 一ヵ月ほど前にテオ殿下と湖に遊びに出掛けたときのこと。

 そのときにテオ殿下との間で起こった出来事を、こちらもすべて話した。


 話を聴いているお父様とお母様の顔色は、見る間に蒼白になっていく。


 「おお……。ルナ。なんということだ……」


 ナイフとフォークを放り出したお父様は、頭を抱えてしまった。

 

 「……」


 お母様にいたっては、指で額を押さえたままうつむき、無言である。


 「……だから、テオ殿下はここにも来なくなったし、わたしも第三王子宮には呼ばれてないし……。今日、ノア様に金髪碧眼美人さんのことを訊いたら……本当、みたい、で、その……ごめんなさいっ!!」


 テーブルクロスに、額が貼り付くくらいに頭を下げた。


 本当に、本当にごめんなさい。

 それしか言えないです。


 しばらくの沈黙のあとに、お母様が口を開いた。


 「ルナ。お話があるからお会いしたいと、ノア様に手紙を書きなさい」


 「ノア様にお手紙を?」


 ぱっと顔を上げると、お母様は重々しく肯いた。


 「セオドア殿下はなぜ、すぐにでも婚約を破棄しないのか、我が家がお咎めを受けないのかを考えてみて。セオドア殿下は、そんなことを知りつつもまだ、ルナのことを好いていたからよ。でも……金髪碧眼の女性とのことが本当なら、今度こそ婚約は……。セオドア殿下から婚約を解消したいと申し出られたら、うちには拒否権はないことは解るわね? ルナ……婚約を破棄ではなく解消なら、セオドア殿下の恩情よ」


 抱えていた頭をのろのろと上げて、お父様もため息をついた。


 「……そうだ。仮に破棄だとしたら……。爵位を譲って隠居した貴族の後添えにと、望んでもらえればいいほうだ……。それに子爵家の存続自体も……」


 やっぱり……。

 そういう話になるんだよね……。


 今度は三人揃って、深くて、長いため息をついた。







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― 新着の感想 ―
こちらもすべて話した > まるで黒歴史を蕩々と語るが如く、雄々しくも恥ずかしげに頬を染め、他者には理解の及ばぬ思考を披露したのだろうか? ツラタン…………。
[良い点] ガビーン(;´Д`) な、なんか ルナさんの気持ちがもう 痛いを通り越して分かってしまって ああああああ なんか、なんかもう どう言葉をかけたらよいやら いやさ そうゆう時…
[一言]  すべてってことは。ずっとノア様を見てました…も話したんですよね。  …かなりの苦行……。  やり返したあと後味の悪さを感じるルナは、やっぱり優しい人なのですね。
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