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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ニモ※
82/86

【81】※ el niño(少年) ※


「おにいちゃん!」



少年の呼ぶ声で、私は微睡(まどろ)みから目覚めた。



「エル・ニーニョ…?」



「お天気がいいし、風も気持ちいいもんね。眠くなるよね。」



「あぁ…私は寝ていたのか。何か変な夢を見ていたような気がする。」



「変な夢?」



「いや、思い出せないな。」



「そうなの?夢って楽しい物だよね?」



「そうだな……お前はそれでいい。」



私は少年の頭を撫でながら言った。



「今日も、おじちゃんは、あくびをしているかもね。」



「おじちゃん……ゴヤスレイか?」



「うん、お仕事の時以外は、だいたい寝てるよ。」



ゴヤスレイ……ミンブレス・アパッチ族のシャーマンであり、戦士だ。

彼らの主な仕事は略奪行為だ。



「お仕事か…。あまり褒められたものではないが……。」



「……どうして?」



「いや、エル・ニーニョにする話ではないな。」



再び少年の頭を撫でながら言った。



「今日は、これからどこに行くの?」



「そうだね、南のあの丘の先に行きたいな。また案内してくれるかい?」



「少し遠いね。なら、おじちゃんを起こしてくるよ。」



「そうか。よろしく頼むよ。」



「うん、ちょっと待っていてね。」



少年は小走りに走って行った。



私はアパッチの集落には入れない。

だが、少年を通じて、私は彼らと友好的な関係を結んでいる。

ミンブレス・アパッチは、(うば)いはするが、人は殺さない。

夜陰に乗じて牧場から家畜を奪い、留守宅から物を奪う。

『策略は勇気に(まさ)る』が部族の美徳らしい。

たまたま会えば、他のアパッチも「異邦人、おはよう。」等、挨拶もしてくれる。

普段の彼らは、自然とともに生きる、のんびりした人々だ。



私は、土地や地形の形状、大きさ、高さ、位置関係などを詳しく調べ、地図を作る仕事をしている。

イギリスで育ち、測量を学んだ私は、母国に戻ってすぐに、伯父の紹介で、ソノラ州知事の依頼を受けて、3ヶ月前に初めてこの地を訪れた。



……さて、どこから手をつけたものか。……



少なからず、メキシコ人に好意を持ってはいないアパッチ族の土地で、私は銃を携帯し、警戒しながら歩いていた。



……?……



誰かの視線を感じた。



「……誰?」



かけられた声に思わず銃を構えた。

しかし、目の前にいたのは(おび)えた様子の幼い男の子だった。



「ごめん!驚かせてしまったね。」



私は慌てて銃をしまい、少年に謝った。



それでも目を見開き、こちらを警戒している少年に



「これ、食べないか?」



そう言って、ポケットに入れていたキャンディを差し出した。



それでも少年は横に首を振り、後退(あとずさ)りしている。



私はキャンディの一つを自分の口に入れ、言った。



「甘いよ。」



すると少年は、恐る恐る手を差し出した。

その手にキャンディ数個を渡し、私は微笑んだ。



「私は、ミゲル・ホセという。メキシコ人だ。

きみの名前は?」



「………。」



少年は横に首を振り、急に逃げ出した。



……やはり、警戒させてしまったな。……



そう思いながら、少年が去って行った方角と反対の方向に歩き出した。



「……おにいちゃん……。」



暫くして、か細い声が後ろから聞こえた。

振り返ると、離れた場所に少年が立っていた。



「…ありがとう…。」



そう言うと、また走り去って行った。



私は英語とスペイン語を話す。だが、アパッチ族のアサバスカ語も、ある程度話せる。

父方の血筋はスペイン人だが、母方の血筋はアパッチ族と同じだ。



「少しは警戒心が解けたかな?……仲良くなれればいいんだがな。」



私はフッと微笑んだ。



それから数日後、拠点にしているテントから出た時、1人の男性に出くわした。

私は思わず身構えたが



「おはよう。いい朝だ。」



彼はのんびりした様子で、そう言った後、欠伸(あくび)をした。



「……あぁ、おはよう。いい朝だね。」



私が挨拶を返すと、彼は少し驚いた様子で



「言葉がわかるのか?」



そう聞いてきた。



「少しだけどね。私の祖母もきみ達と同じ、マヤの民だよ。」



「あの子が言っていた異邦人だな。

だが、我々はマヤの民ではあり得ない。

それに、お前が喋っているのは、我々の言葉だ。

マヤの言葉ではない。」



「そうか……失礼した。

では、祖母もマヤの民ではないな。

私の名前は、ミゲル・ホセだ。

きみの名を聞いてもいいかな?」



「俺達は、神聖な名前を明かさない。だが今はゴヤスレイと皆が呼ぶ。」



「ゴヤスレイ……『眠たがり』か。面白い名前だね。」



「お前はこんな所で何をしている?」



「この辺りの地図を作る為に色々測っているんだよ。」



「地図とはなんだ?」



私は、荷物の中から1枚の地図を出し、見せた。



「こういう物だ。」



「俺にはわからんが、それがお前の仕事か?」



「そうだね。……もし良ければだが、私の仕事を手伝ってもらえないかな?」



「手伝う?」



「私はこの辺りの土地勘がない。案内してもらえれば助かるんだが……勿論報酬も出すよ。」



「報酬?」



「仕事を手伝ってもらう代わりに、貨幣か物を支払うよ。」



「貨幣?必要ない。

物も特には要らない。」



「そうか。残念だな。」



「……だが、気が向いたら手伝ってやる。

集落から遠く離れないなら、あの子に頼め。

貰った菓子をとても気に入っていたようだからな。」



「それは助かる。ありがとう。」





そして翌日、ゴヤスレイとあの少年が現れた。



「おはよう。さっそく来てくれたのか…ありがとう。」



「あぁ、おはよう。異邦人。」



「……おにいちゃん、この前はありがとう。」



少年は少し恥ずかしそうな様子で、お礼を言ってくれた。



「いや、先日は驚かせてすまなかったね。ゴヤスレイから話は聞いたのかな?」



「うん。近くなら僕でも案内出来るよ。」



「お手伝いのお礼は、どうしようか?……キャンディーだけでは申し訳ないな。」



「ううん。キャンディがいい。友達も喜んでいたよ。とっても甘かった。」



「そうか、それはよかった。」



「……異邦人、言っておく事がある。」



ゴヤスレイが真顔で私に言った。



「聞こう。なんだ?」



「集落には近づくな。

それと、この子に案内させる場所は、集落が見える範囲にしろ。

それより遠くなら、俺に声をかけろ。

わかったな。」



……突然やって来たメキシコ人だ。無害そうに見えても、アパッチ族からの信頼はそう簡単に得られるものではない。……



「そうだな。了解した。」




それから、私はこの少年とゴヤスレイの案内で色々な所の測量を進めていった。



そうして少年と仲良くなったが、彼はやはり名前を明かさなかった。



「じゃ、これからお前の事はエル・ニーニョと呼ぼう。」



「エル・ニーニョ?」



「スペイン語で『少年』という意味だよ。」



「なんか、カッコいい名前だね。」



少年は少し照れたように微笑んだ。





3ヶ月程で、ミンブレス・アパッチの集落の近くは、ほぼ測量を終えた。

これからは、もっと遠くへ行かねばなるまい。その前に一度国に帰り、装備を整えなければならないだろう。



「もう少ししたら、私は一度国に帰る。

これからは、集落から離れた場所に行かねばならない。ゴヤスレイに頼む事が多くなるだろう。

エル・ニーニョには本当に世話になった。

これ迄のお礼に、キャンディや他の菓子をたくさん仕入れてこよう。」



「……もう、僕では役にたてないの?」



「エル・ニーニョが、集落から離れる事は、部族の皆が心配するだろう?」



「でも……寂しいな……。」



「ゴヤスレイと一緒なら、大丈夫かな?

だったら、私もエル・ニーニョがいてくれたら嬉しいよ。」



「うん!おじちゃんに頼んでみる。」



少年は、そう言って、嬉しそうに笑っていた。



【あとがき雑学】



『el niño』エル・ニーニョ


スペイン語で「少年」という意味ですが、

(El Niño)大文字になると、「神の子」イエス・キリストのことになります。


気象関係で耳にするエルニーニョ現象は、南米の太平洋岸沖合を含む中央太平洋、東中部太平洋域で発達する暖かい海流が関与して起こる現象です。

この暖流がクリスマス( キリストの降誕祭)の頃、毎年強くなることから名付けられたとの事です。

エルニーニョ現象が発生すると、日本では主に冷夏と暖冬の傾向が見られます。

またラニーニャ(La Niña「少女」)現象は逆で、寒流が異常気象を起こし、日本では夏がより暑く、冬がより寒くなる傾向になります。


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