【76】※ Practical training(実技研修) part12
《浄化室マニュアル》
1.『選』
端末に反映された情報を再確認の上、魂の選別を行い、然るべき部署へ送る。
(端末情報:例①)
『※find out ※黄色 ※w‐7 ※return』
※w10以下…『返』へ送る
(端末情報:例②)
『※find out ※赤色 ※w‐13 ※erase memory』
※w11以上…※erase memoryは『孵』へ送る
(端末情報:例③)
1.『※find out ※赤色 ※w‐20 ※disappear』
2.『Reincarnation-0000000000‐3
name 〇〇〇〇
reason:重大な規則違反
※w-21 ※disappear』
※disappear…全て『還』へ送る
(端末情報:例④)
1.『Reincarnation-0000000000‐3
name 〇〇〇〇
reason:『第3営業部』要請
※w-21 ※reborn in another world』
2.『Transfer time-0000000000‐1
name 〇〇〇〇
reason:『第3営業部』要請
※w- 18 ※transported into another world』
※『第3営業部』要請は『遷』へ送る
【『選』での業務は最終確認業務である為、細心の注意を払って、魂の選別をするものとする。】
(研修における業務)
端末確認、該当部署への案内
端末確認は2名で行い、監督官の承認を得てから、該当部署へ案内する
新参会社よりはマシだが、やはりマニュアルに期待は出来ないようだ。
ある程度わかる…ウエダはそう言っていたが、他の部署の説明は特にはなかった。
監督官に質問し、実際に業務を行わなければ、よくわからない気がする。
……ここに来た時点で、もう魂の行き先は決まっているようだが…
『閻魔様の裁定はどこでしているのだろう?』……ふとそんな事を思った。
「ニモ、読み終わったか?」
「あぁ、読んだ。だが、よくわからん。」
「だよな。俺達の情報にもあったが、『w』とはなんだろう?」
「それは、聞いてみればよかろう。……俺は『disappear』が気になる。」
……disappear…消える、消失だ。ニモが気になるわけだ。……
「教えてくれるか、は怪しいが、点数によるチーム全員の消滅があるのかも聞いてみよう。」
「……そうだな。」
暫く、無言の時が流れた。
他の研修では、マニュアルを読み終えたタイミングで、監督官がやってきたが、なかなかウエダは姿を現さない。
「……遅いな。」
「そうだな。待たされるのは初めてだ。ニモもか?」
「うむ。いつも見計らって監督官はやってきた。」
「…声をかけてみるか?」
そんなやり取りをしていると、少し慌てた様子でウエダが姿を現した。
「お待たせして、申し訳ない。」
「いえ、お忙しいのでしょう。」
「……少しトラブルがありまして…いや、こちらの話ですね。」
「トラブルが解決していないのであれば、待ちますので、私達の事は気になさらないでください。」
「……いや、もう大丈夫です。では、何かご質問は?」
チラチラと後ろを気にしているウエダの様子からして、あまり大丈夫そうには見えなかったが、お言葉に甘えて、俺は質問をした。
「まず『w』が気になるのですが、これは何かの記号ですか?」
「『w』はweight、つまり重さの事です。」
……!!……
『魂の重さは21g程度らしいぞ!』……誰かの言葉が強烈に頭に蘇った。
「……それは…魂の重さという事ですか?…」
「そうですね。先ほどの情報画面にもお二人の重さが出ていたでしょう?」
「……はい…w-21と……」
「いわば、魂の体重ですね。最大で21です。」
「……最大で21……。
では、w-7とかは……」
「21に満たない魂は、本体から別れた魂の一部です。」
……生死不明だった…だが…でも…ならば…俺は…やはり死んでここに来たのだろう……
「……重さの違いで行き先の部署が違うようですが、それは何か意味があるのですか?」
なんともいえない複雑な気持ちを振り払うように、俺は頭を振って、質問を続けた。
「10以下であれば、元の魂に返しても、何も問題はありませんが、それ以上になりますと、元の魂に戻す事は難しくなります。」
「難しくなるとはどういう事でしょう?」
「別の自我が育ち過ぎて、本人の魂へ返しても、他人に憑依するのと同じ状態になってしまうからです。」
「魂の疲労……。」
「そうですね。一番避けねばならない状態です。魂の欠片は、長く他人に憑依すると育ちます。
だから、赤色の魂の多くは、erase memory…完全に浄化する『孵』へ送るか、disappear…完全に消失させる『還』へ送らねばなりません。」
「……消失は、点数の悪いチーム全員にもあり得るのでしょうか?」
「はぁ……また、その噂ですか。」
ウエダは溜め息をついて言った。
「噂?…という事は、実際にはあり得ないという事ですね?」
「おそらくは。
これも守秘義務違反になるかもしれませんが、まぁ、いいでしょう。いたずらに研修生の不安を煽る噂は好ましくありませんから。
私の知る限り、点数云々ではなかったように思います。
ですが、チーム全員消滅の事例はあります。
それはチーム全員で重大な規則違反を犯した場合ですが、ユーキさんはご存知なのでは?」
……アイラとロビンのいたチーム……
「……はい、チームWIS713209』…ですね…。」
「最近ではそれ位ですね。」
……ウエダは無意味な嘘はつかない人間だった……
何故か…そう思えた。ならば本当に点数云々の消滅はないのだろう。
突然、ニモが口を開いた。
「……そうか、よくわかった。感謝する。」
「おい、敬語!」
「構いませんよ、ユーキさん。」
ウエダは取ってつけたような微笑みを浮かべ、そう言った。
「申し訳ありません。…それと、重さに違いがあるのは、どういう事でしょうか?」
「違い?……」
「赤色や黄色が他人に憑依した魂である事はわかります。
ですが、例④の魂は、情報から、おそらく異世界コンツェルンにいた魂だと思いますが、その重さの違いは…」
「あぁ、そういう事ですね。
元々の魂が、Reincarnationであれば、ほぼ21ですが、転移の場合は、それに満たないものもあります。
Transfer time等、転移の魂は、本体とは限りませんので。
本体から別れた魂の欠片の重さには個人差があり、異世界コンツェルンで仕事をしても、魂は経験を積み、それなりに育ちます。
まぁ、例④は特例ともいえますので、あまり気になさらずに。」
「空想異世界が関係しているのですね?浄化室で同調訓練を行うのでしょうか?」
ウエダは少し驚いたような顔をしたが、すぐに真顔になって言った。
「どこでお聞きになったかはわかりませんが、社員には守秘義務の遵守を徹底させねばなりませんね。
まぁ……第3営業部絡みは、滅多にありませんので、ユーキさんは何も気にしなくて大丈夫ですよ。」
空想異世界、同調訓練、第3営業部、そもそも己の過去に転生を望んでいる魂を空想異世界に送る事の是非……まだ色々聞きたい事はあるが、ウエダの言い方からして教えてはくれないだろう。
「……そうですか。」
「他人に憑依し、探索室で発見され、救助隊によって救われた魂の欠片が『find out 』です。
w10以下なら、『返』で不浄を落とし、本人の魂に返す。
w11以上なら『孵』で完全に記憶を消し、新しく生まれる肉体に送る。
あるいは『還』で完全に消滅させる。
それだけの知識があれば、充分です。
イレギュラーな案件は滅多にありませんので。」
「…わかりました。」
「それと、少なからず腕力も必要になりますが…それはニモさんがいらっしゃるので大丈夫そうですね。」
「腕力?ですか……。」
「まぁ、浄化室ですから……抵抗する魂もいるのですよ。」
……浄化室ですから?…『return』はともかく『erase memory』は自我が、『disappear』は存在そのものが消える。
それを素直に受け入れる事はそうそう出来ないだろう。だから抵抗する。
そういう事か……
俺は暗い気分になった。
「そうでしょうね……。ですが、浄化出来るのであれば、『disappear』は必要ないのではないですか?」
「……ユーキさんは、優しいですね。ですが、あまり気に病まない事です。
魂の行き先の基準を決定するのは、私達ではないのですから。」
「……閻魔様ですか…。」
「……ユーキさんは、面白い事を仰る。まぁ、そうですね。
そうなると、私達は獄卒といった所ですね。
閻魔様には逆らえません。」
「……そう…ですね…。」
確定した『自分の死』…生きていようが、死んでいようが、ここに来た以上特に何が違う訳でもないだろうが、少なからず動揺している。
それに、抵抗する魂を暴力を振るってでも、無理やり各部署へ送る仕事……全くやる気が出ない。
「他にご質問がなければ、実技研修を始めましょう。」
「よろしく頼む。」
「……はい、よろしくお願いします…。」
ニモの言葉遣いを注意する気力も失せた俺は、力なく言った。
【あとがき雑学】
《守秘義務》
一定の職業や職務に従事する者や従事していた者または契約の当事者に対して課せられる、職務上知った秘密を守るべきことや、個人情報を開示しないといった義務のこと。
家族、友人にも明かしてはならない。
在職中はもちろん、退職後も守らなければならない。
(社員のみならず、バイト、パート等にも適用される)
《遵守》
法律や道徳、規則などのきまりを守り、従うことを意味する言葉。
「遵」は「道理や法則に従う」という意味があり、「守」は「守ることや持ちこたえること」を指す。
オマケ:
「順守」
読みは同じですが、漢字が違います。
意味合いはほとんど同じですが、微妙な違いがあります。
「遵守」は公的なルールや規則に従うことを意味する一般的な言葉であるのに対し、「順守」は特に法律や社会的な規範を守ることを意味する表現です。




