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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ニモ※
75/86

【74】※ conversation with~(会話)  ニモ①  ※


その後、情報交換会はいつも通り終わった。



……準社員……

『正社員になれたら…の話ですがね。』ジェシーが言っていた意味が漸くわかった。

監督官は、おそらく全員正社員なのだろう。

だが、異世界コンツェルンの給料、いや魂への報酬は『望む先への転移転生』だった筈だ。

望む望まないに関わらず、正社員にされたら、転移転生は出来ない…では、正社員への報酬は何なのだろう?



……いや、今はそんな疑問を抱いている場合ではないな。……



俺は次のバディーと2人で向かいあっている。


今回の相手はニモだった。

近くで顔を見た事はなかったが、よく見ると顔色は黒というより赤銅色をしている。

先程睨んでいた鋭い目つき……正直、協力出来るか不安を覚える。



……とりあえず、こちらから話しかけてみるか。……



「お前はここに来る前の自分の記憶がないと言っていたな?」



………!?………



アンリは全く会話がなかった、と言っていたが……ニモの方から話しかけてくるとは意外だった。



「あぁ、そうだな。今も全く思い出せないよ。」



「だが、名は覚えていたのか?」



「いや、ここに来てからトーマがつけたんだよ。」



最初のトーマとの、あのやり取りを、ニモは聞いていなかったのだろうか?



「そうか……。」



暫くの沈黙があった。

ニモと話すのは、気を遣う。彼は寡黙だ。そして俺も自分から話を振るのが苦手だ。

だが、俺は沈黙し続けるのは、何か相手に悪いような気がしてしまう。



「……なんで名前の話なんか……」



言いかけた俺の言葉に被せるようにニモが口を開いた。



「俺も生前の名前は忘れた。俺達は何度も名を変えるし、真名は家族以外には明かさない。」



「……何度も変える?……真名?」



「そういう風習があった。だが、名を忘れてもやるべき事は忘れない。

この名に誓って!」



「……?……」



ニモの言っている事がよく理解できない。

本当の名前は忘れたが、やるべき事の為に『ニモ』と言う名前は忘れていない…と言っているのか?



ニモは少し声を落として言った。



「お前は、マイケルやアンリ、サミー、レオン、ライラック、フィン()をどう思う?」



……ニモは、己の転生だけに興味があるのかと思っていたが、チームメンバーにも興味はあるのか……



「どう思うって…同じチームだし、仲間だろ?」



「仲間ではない…今だけの『同志』だ。」



……『同志』…意味としては、『仲間』と同じだと思うが、何か拘りがあるのだろうか?……



「同志って、結局、仲間って事じゃないのか?」



「あいつらとは、仲間になり得ない。今は仕方なく徒党を組んでいるだけだ。」



あいつら…とは先程名が上がった6人の事だろう。

言い方からして、彼らに興味があるわけではなさそうだが…。



「……マイケルもアンリも紳士だと思う。常識人だしな。

サミーは不思議な魅力を持つが、良い奴だとは思わない。

レオンは、話す事は下手だが、頭がいいし力もある。頼りがいのある人物だと思う。

ライラックは、感情の波は激しいが、頭も勘も良い。実は優しく淑やかな女性なのだろうと思う。

フィンは……不思議な子だけど、多分優しいと思う。」



ニモは俺の顔をまじまじと見つめた。それからフッと微笑んで言った。



「お前はよく其々を見ているな。

お前は『個』で人をみられるのだな。」



「個で?」



「お前はきっと幸せな世界から来たのだろう。」



「……幸せ…というか、ぬる)い世界だったかもしれない。」



……意識を失い、これまでに体感した世界は、どれも過酷だった。

記憶に残る、俺のいた時空の日本より恵まれた世界はなかったと思う。……



「……そうか。だからお前は、転移転生に執着がないのだろうな。

だが、ならば何故ここに来た?」



「……そうかもな。…記憶がないから、自分が何故ここに来たのかもわかってはいない。

だけど、チームの皆のように、切望する物があれば、少なくとも何がしたかったのかくらいは憶えていたかもしれない。」



「……そうか。……

だが、お前が今何をしたいのかは…わかるぞ。」



「えっ!?」



「お前は、この異世界コンツェルンの事が知りたいのだろう?」



……!!……



「……なんで?……」



「なんでも何も、お前の異世界コンツェルンの仕組みに対する疑問は、既に興味の域を超えているように思う。」



「………。」



初めてトーマにこの世界の話を聞いた時に感じた怒り、それ以降もこのお粗末な会社の形態に対する苛立ちや疑問は、確かに興味本位以上の物だ。

だが、何故そこ迄『異世界コンツェルン』の事を知りたいのだろう?…自分でもわからない。



……皆と違い、望む転移転生先がないから、会社の在り方に目が行くのだろうか?……



「まぁ、俺のように(おのれ)の転生に執着している者には関係ない事だが、お前がこの会社に対して苛立つ気持ちもわからなくはない。」



「そうか……。」



「だが、俺は不条理や理不尽な事には慣れ過ぎている。

異世界コンツェルンがどのような会社組織であったとしても、俺にとってはありがたい会社だ。」



「……ありがたい?」



「過去に戻り、もう一度やり直す事が出来るのであれば、俺はどんな過酷な試練でも超えてみせる。

その機会を与えてくれる会社なのだから、ありがたいのだ。」



「……そうか。」



俺以外の魂にとっては、多分ニモと同じように、この異世界コンツェルンの存在はありがたい物なのだろう。

ハルが言っていた。

少なくとも過去に転生する為に必要な会社だと。

皆、それぞれ過去に戻りたい理由がある。



……俺にもあるのだろうか?……



「お前は、人を憎んだ事などないのだろうな。」



……ある……そして……



何も思い出せないが、俺は少し震えた。



「……憶えていないが、あったかもしれない……。」



「そいつを殺したい程にか?」



……そんな事は露程も考えなかった……なのに……



「……いや……多分なかった……と思う。」



何故だろう……俺の身体の震えは止まらない。



……やはり俺にも、過去に戻りたい理由があるのかもしれない……



「そうか。お前は記憶がないのだから、無駄な問いかけだったな。

……俺は殺したい程憎んだし、実際に殺した。」



「………。」



「俺は、マイケルやアンリ、サミー、レオン、ライラック、フィンが苦手だ。

個で接していれば、ヤツラが悪い人間ではないと理解は出来る。……しかし…。」



「しかし……なんだ?」



「Caucasiansとmexicanは大嫌いだ。

俺の一族は、騙され蹂躙され、死に絶えた。

俺は他の一族と共に復讐をしたが、結局俺は虜囚となり、挙げ句、白人どもの見世物にまでされたのだ。生まれ故郷に帰る事も叶わず、俺は敵の国で、屈辱感を抱いたまま果てた。

俺の魂は一つではない。一族の魂の集合体だ。」



……白人とメキシコ人?…魂の集合体?……どういう事だ?……まさか、ニモは……



「………。」



俺は返す言葉もなく、ただニモを見つめた。



ニモの境遇……彼が俺の予想通りの人物なら、相当過酷な世界だっただろう。



それきりニモは口を開かなかった。

彼にどんな話を振ればよいのか…迷ったが、結局何も言い出せず、会話は完全に途切れた。






ニモと2人、黙々と次の研修先『浄化室』へ歩みを進めている。



……気まずい……



場の空気を読む……それは良くも悪くも、日本人特有の価値観だが、ニモ相手だと、どう読んだらいいのか、わからない。

話しかけてほしくない雰囲気を纏っているようにも思えるし、何も言わないのも悪い気がする。だが、話題を振ろうにも何も思いつかない。



「……なぁ、ニモ。お前も俺が嫌いか?」



つい、無意識に変な質問をしてしまった。



「不思議な事を聞く。『俺を嫌いか?』と聞くならともかく、何故『お前も』がつく?」



「……いや、なんとなく……。」



「……お前を嫌っている者がいるとするなら、それは、トーマやサミーではない。

『お前自身』だけだろう。」



「!!」



ニモの言った言葉に、俺は何も言い返せなかった。



「……少なくとも俺はお前を嫌いではない。だが、仲間ではない。」



「……俺が白人やメキシコ人ではなく、一族でもないからか……。」



「そうだ。

だが、仲間ではないが、良き同志だとは思う。

俺の転生の為の(かて)として、充分に働いてくれているようだからな。」



「……そうか。」



……ニモの言う『仲間』とは、やはり一族の事だけなのか。……



暫く会話の間が空いた。



「…だが…ニモは俺が『個』で人を見られると言ったが……ニモだって、『個』で人を見ているんじゃないか?」



「……何故そう思う?」



「トーマやサミーと俺の確執を見抜いていたからな。…それに俺が俺を嫌いな事も…。」



「……それは、誰から見てもわかる事だ。」



「そうか……。

だが、さっき『個で接していれば、ヤツラが悪い人間ではないと理解は出来る』って言っていたよな。

それは、人種の(くく)り抜きで、個人を見ていたって事じゃないか?」



「……お前にはわかるまい。俺は、忘れてはならんのだ……一族の恨みを。」



「……恨み?……ニモの転生の目的は……」



「そうだ。再び復讐を果たす為だ!」



そう言い切ったニモは、暗く(うつ)ろな目をしていた。

俺はそれ以上何も言えなかった。



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