【73】※ information exchange (情報交換会) part6 ※
チームの部屋に着いた。
部屋に入ると、まだマイケルとサミーしかいなかった。
「よう、『another world』と『oblivion』、レア2人組みが仲良くお帰りだぜ!」
サミーの揶揄する声が響いた。
「口を慎め!サミー!」
マイケルの不機嫌そうな声がする。
……今回はこの2人がバディーだったのか……最悪の組み合わせだ。……
「で、随分早いお帰りだな。また『another world』が、なんかやらかして、研修放棄でもしてきたか?」
「サミー、いちいち系統で呼ぶ必要はない。
それとも、既に俺達の名前を忘れる程、お前は馬鹿なのか?」
「なんだとっ!!」
「ライラックは、完璧に研修を終わらせたよ。」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃない。俺はライラックに助けて貰ったし、加点迄貰った。」
「嘘だろ……。」
サミーどころか、マイケル迄驚いたような顔で、こちらを見ている。
「……加点はユーキにでしょ?」
「いや、俺の作った物を、ライラックが完璧に使いこなしてくれたから、加点されたんだ。」
「……ありがとう。」
……気にした事はなかったが、ライラックは『another world』だったのか…『他の世界』?レア?……
「あまり人間を舐めるなよ!」
なんでそんな言い方をしたのかわからないが、ついそう言ってしまった。
「……そいつは人間じゃない。」
サミーが呟いた。
「……そうだな。
じゃ、俺もお前も人間じゃない。ただの魂だ。」
「……言うようになったじゃないか。」
「おかげ様でな。」
「……お前も異質だな。……研修から帰る度、何か変化している。」
……変化している?……
「そうか?まぁ、サミー程成長のない奴の方が珍しいと、俺は思うけどな。」
「なんだとっ!!」
「もう、やめろ!」
「チッ!」
マイケルの叱責で、俺とサミーの口論は終わった。
「ユーキ……本当にありがとう。」
「……ライラックが気にする事じゃない。俺は本当にそう思ったんだ…。」
俺は、軽く頭を振ってそう言った。
彼女は潤んだ瞳で俺を見ている。
……まるで、リラ・ルグランが、ユーゴ・マテューを見つめる眼差し…また顔が赤くなりそうだ……
だが……ふと、お客様対応室のPC画面の文言が頭に浮かんだ。
『お客様の行動如何で、小説の内容と違う展開結末もあり得る事を説明させて頂きました。』
……『他の世界』……まさか?…あの体験は……ライラックは……
だが、ライラックの出自が、例え小説の世界だったとしても、何も問題はないのだろう。
異世界コンツェルンは、『空想異世界』とも正式に取り引きを始めたのだから…。
異世界レセプションのマニュアルには、確か…『(空想)異世界』からのオファーは『第3営業部』へ連絡。必要な魂材を選定し、手続きを進める…と書かれていた。
普通の世界から魂を送るなら、空想異世界から魂が来てもなんら不思議な事ではない。
……なんか、ややこしいな。…だが、何故サミーは執拗にライラックをあんな言い方で否定するのだろう?
それに、俺が変化している?…以前自分でも感じた違和感は、特に今は感じていないが……
「ユーキ、早かったな。」
アンリにかけられた声で、我に返った。
「あぁ、アンリか……お疲れ様。」
「ユーキは、ライラックと一緒だったのか……大変だっただろう?」
アンリが小声で聞いてきた。
「ライラックは充分活躍してくれたよ。」
「……まさか…本当に?」
「彼女は、感情の波はあるが、かなり賢い女性だと思う。
それに、目標が出来た事で、仕事にも前向きになっている。」
「……そうなのか。少し信じられない気もするが、ユーキが言うなら、そうなのだろうな。」
「アンリはニモか?」
「……彼とは全く会話もなかった。なんというか……最初から、私は嫌われているようだ。」
「最初から嫌われている?……アンリが?」
ニモを見ると、難しい顔をして、こちらを睨んでいる。
……俺も嫌われているのだろうか?……
ニモはチームを『一時的な同士』だと言っていた。
研修中は、目的の為に協力はするが、仲間意識はまるでないのだろう。
……まぁ、今のこのチームは、かなりバラバラだしな……
チラッとトーマの方を見たら、目が合った。
すかさずトーマが目を逸らしたのは、言う迄もない。
……俺の事を気にはしているが、トーマも俺と仲良くする気はなさそうだ……
「それでは全員揃ったな。情報交換会を始めよう。」
いつものようにマイケルが言った。
「……その前に、少しいいかな?」
「なんだ?ユーキ。」
「俺達は、あまりこのコンツェルンの事がわかっていない。特に初めての人間は。」
「そうだな。」
「だから、社員を経験している者に色々教えてほしいんだけど…。」
「何を今更…。」
「トーマは、とりあえず黙っていてくれ。」
「………。」
「経験者は、マイケル、サミー、ハル、トーマ、ライラック、……フィンもかな?」
「うん、そうだよ。」
……だが、経験者でもハルは、客からの対価について知らないようだったな?……
「じゃ、レオン、アンリ、ニモ、俺が未経験者だな。」
「うむ。我も初めてだ。」
「行く先々で、監督官に色々質問したが、皆、守秘義務があるのか、答えてくれなかった。
いずれ社員になれば、わかる…的な事を言われて、はぐらかされた。」
「そうか。」
「だから、社員経験がある皆に色々聞きたいんだけど……いいかな?」
「わかる事なら、なんでも答えよう。」
マイケルがそう言ってくれた。
「まず、消滅するチームがあるかどうかだけど…これは前回も聞いたが、不明だよな。」
「そうだな、申し訳ない。」
「いや、いいんだ。マイケルが謝る事じゃない。
それから、お客様からの対価なんだけど…それは何だ?」
「対価?」
「俺達はお客様の為に、サービスを提供している。当然、そのサービスに対して受け取る報酬や物品がある筈だ。それが対価だ。
ここが会社である以上、何らかの利益は出さなければならない。
対価は、商売をする上で不可欠だし、取引の公平性を保つために重要な役割を果たす。
例えば、商品を購入した場合、購入者は商品の価値に見合った金額、あるいは物を支払い、これが対価となる。」
「……そうか。…だが、対価が何か、は分からない。」
「……正社員になってもわからないのか?」
「またお前達は、隠し事をするのか!?」
マイケルとの会話中に、急にニモが怒りを感じさせる勢いで口を挟んできた。
「隠し事は何もしていない。
色々誤解があるようだが、経験者の我々でも、正社員になった事はない。……少なくとも、私はない。」
「!?……どういう事だ?」
「正社員になれる者は、限られた者だ。それに正社員になった者は、研修を終えても、転移転生をしない。
おそらく…だが、ここでずっと働いているのだと思う。」
「ここで…ずっと?…」
「……だと思う。本人が望む望まないに関わらず正社員に選ばれたら、転移転生は出来ないのだと思う。」
……どういう事だ?ここでの魂への報酬は『望む行き先への転移転生が叶う事』ではなかったのか?……
俺は思わずトーマを見た。
「俺を睨んでも、意味ねぇよ。そこ迄説明する時間も必要もなかったからな。」
「………。」
「それに、それこそ正社員になるレアなヤツは滅多に現れない。
まぁ、お前はレアな『oblivion』だから、可能性がなくはないかもしれないがな。
いずれは俺らの上司様かもな。」
「……トーマ、お前、ふざけるなよ!!」
「別に、ふざけちゃいない。お前が聞かなかったから、特に言う必要も感じなかっただけだ。
……会社がどう儲けようが、俺らが知ったこっちゃない。そんな事は上の奴らが気にする事だ。
前から言ってるが、俺らがやる事は、そんなどうでもいい事をあれこれ詮索する事じゃない。
点数を稼いで、望む行き先に転生、転移を果たす事だろうがよ!」
「だが……。」
「俺もトーマと同意見だ。」
「……ニモ?」
「俺が知りたいのは、本当に俺が望む先へ転生出来るか、という事だ。それ以外に興味はない。
だから、俺の転生の障害になる事があるなら、隠さずに言え。」
「隠し事をするつもりは全くない。
ユーキが気にする気持ちもわかるが、我々には会社の色々は本当にわからないのだ。申し訳ないが……。」
「……いや、マイケル、俺の方こそ申し訳ない。少し動揺した。
……では、研修後は正社員ではなく何になるんだ?」
「なんと言ったか…確か……。」
「準社員だよ。もういいだろ!」
トーマは俺を睨んでそう言った。
「……わかった。……時間取らせて悪かったな……。」
俺は誰にともなく、力なくそう言った。
【あとがき雑学】
誰にともなく
意味:
独り言など、特定の誰にも向けていない様子
『ともなく』は、動作や状態がはっきりしない様子を表す連語です。
たとえば、「どこからともなく聞こえてくる」のように使います。 (AI解説)




