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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ライラック ※
73/86

【72】※ conversation with~(会話)  ライラック③  ※


「………多分だけど、違うわ。」



「やはり違うのか。」



「私、ソーレって名前に何も感情沸かないし、多分知らない人よ。」



「……そうか。」



「……でも、クレール・ド・リュンヌ、『月の光』ね……何かしら、なんか、凄く悲しくて、腹立たしい。」



……それは、信頼していたのに裏切られたからか?しかし月の光?……ソーレも言っていたな。……



「俺にはわからないけど、そういう意味なの?」



「そうだったと思うわ。でも、ありがと。」



「えっ?」



「頭にモヤがかかっていたのが、少し晴れた気がする。」



「なら、良かった。」



「でも、ユーキは凄いわね。」



「何が?」



「多分、私はユーキが作ってくれた、まにゅある?とかメモとかがなければ、何も出来なかったと思うわ。」



「そうか、役にたてたなら本当に良かった。」



「でも、なんで最初からそういう物作らないのかしら?お客様対応室は……。」



「……さあね。でも、この世界では、監督官も時間に追われている。次から次に研修生が来るんだろうから。

所詮、一回きりの研修なんだから、出来ない者は減点するだけで済むし。」



「そうなのかしら?」



「もう『やっつけ仕事』になっちゃっているのかもしれない。」



「『やっつけ仕事』って何?」



「急いでやるその場限りの仕事、いいかげんな仕事、雑な仕事、みたいな意味かな?」



「確かに、数をこなすにはそうなるかもしれないわね。」



「この会社には休憩の時間なんてないから、これではダメだとか、振り返る暇もないんじゃないかな。

それに、知識のある人間には、全く知識のない人間のわからない事がわからない。」



「そうかもしれないわね。でも、ユーキなら出来るんじゃないの?」



「俺だって、その立場になったらわからないよ。

ただ、俺が作ったマニュアルは、本当に研修に必要な事だけだったし。

とりあえず、これ押せば、こうなる……みたいな単純な物だから。」



「それでも私は助かったわ。」



「まぁ、そう言って貰えるのは嬉しいよ。」



つい、顔を上げると、ライラックと目が合った。

カァーッと顔が赤くなる。



「何、赤い顔してるのよ?」



そう言う、ライラックの顔も赤い。



「い、いや、別に……。」



どうしても、あの晩の出来事を思い出してしまう。



「あんた、私と……何かあった?」



「……!?……なんの事だか……。」



「………そう……。」



「し、仕事ってさ、最初は単純な事覚えれば、いいんだよ。

こうすれば、こうなる、みたいな…。

慣れたら、なんでこうするのか、とか、なんでこうなるのか、を自分の頭で考えるようになれば、もっと複雑な業務もこなせるようになるんだ。だから……。」



「話を逸らしたわね。」



「そんな事は……。」



「とにかく、感謝するし、私もユーキを認めるわ。

やっぱり貴方は凄いんだって。」



「えっ?あ、貴方?…あ、ありがとう。」



……あんた、じゃなく貴方?……



「………感謝申し上げますわ。ユーゴ様。」



「!!」



俺は絶句した。

ライラックの顔は紅潮し、瞳が潤んでいる。

そして、悪戯っ子のような、あの微笑みを浮かべている。



「……な、なんで……。」



「……別に。ちょっと言ってみたくなっただけよ。」



フィッと顔を横に向けた。



「……そう……。」



俺の顔は青くなっていたかもしれない。






その後は2人とも何も言わず、黙々とチームの部屋を目指して歩いた。



ライラックは記憶の断片に触れ、自分の過去を思い出そうとしているのだろう。

俺は、今回の経験について考えていた。



俺は2年間ユーゴ・マテューだった。

いつもと同じく、魂の抵抗もなく、間違いなく本人だった。



……しかしユーゴという男、勝手に色々考え過ぎだ。結果、好きな女性を泣かせるとは。……



それに、追い詰められていたとはいえ、かなりリスキーな計画だったと思う。

あの絶望的な状況が(くつがえ)ったのは、ソーレという人物の存在があったからだが、ライラックにはソーレの記憶がない。



……ソーレ…『太陽』という意味だと言っていたな。……



太陽……ふと、レオンの姿が思い浮かんだ。

以前『頭がデカい』とレオンに言われたっけ。

1人で色々考えるが、自分の力だけでは、なんの成果も結論も出せない……

姿形は違っても、やはりユーゴは俺だったんだろう。


まるでロマンス小説のような世界。魔法迄存在していた。

自分の常識を当て嵌めて考えれば、あり得ない話だが、世界は幾つにも分岐して、途方もなく広がっているらしい。

以前に分岐した世界が発展したのであれば、魔法があったっておかしくはない。


それに、あの時一瞬見えた、黒髪で浅黒い顔の女性の姿は、この会社で出会ったアイラに違いなかった。

クレール嬢が語る言葉は、以前拉致された時に耳にした、アイラの言葉とピッタリ符合した。

俺に執着する事も似ている。……まさかライラックの過去にアイラもいたのだろうか?



そして、意識が薄れる中で聞いた声……

『なぁ、お前、人魂って見た事あるか?』

…… あれは誰の声なんだ?



色々考えても、何も答えは出そうもない。堂々巡(どうどうめぐ)り……いつもの事だ。



……そうだ、ライラックは一度社員を経験している。色々聞いてみるか?……



チラッとライラックを見たが、必死に考え事をしているようだ。



……まぁ、他にも経験者はいるし、今はそっとしておこう……



そう思ったが、視線に気付いたのか、ライラックが俺を見た。



「……ユーキのおかげで少しだけ思い出せた事があるの。」



「そうか。何を?」



「『ユーゴ・マテュー』という人が、私にとって凄く大事な人だったという事よ。」



「……それは、俺の話の中で、リラ・ルグランの恋人だったと聞いたからじゃないかな?」



「いえ、ユーキの夢と私の過去は、おそらく完全には一致していないと思う。だから、恋人だったかどうかもわからない。」



「まぁ、そうだね。」



「だけど、その名前を口にするだけでも、とても温かい気持ちになれる。」



((だから、さっき俺に向かって「感謝申し上げますわ。ユーゴ様。」と言ってみたのか……良かった))



少しホッとして、思わず相手にわかる心の声で、そう思ってしまった。



「良かったって何よ?…違うわよ。…」



「いや、なんでもない……。違うって?」



「……また変な女だと思われるかもしれないけど……。」



……感情の起伏が激しい『恐い』女性だとは思っていたが『変』と思った事はない……



「いや、そんなふうに思った事はないよ。」



「……一瞬、ユーキが、ユーゴ・マテューに見えたのよ。」



「!!……そう……ユーゴ・マテューの姿を思い出したんだね……。」



「……そうね。金髪で白い肌、長身で端正な顔立ちをしていたわ。」



「そうか、姿を思い出せたなら、少しずつ記憶も戻るかもしれないね。」



(((……それだけじゃないんだけど……)))



「えっ?」



「なんでもないわよ。

それより、ユーキは、夢を見ていた事は誰にも言ってない、って言ってたけど、私には何故話したの?」



「……それは、ライラックも俺と同じで、記憶があやふやだって言っていたからだよ。」



「……そう。」



「全く関係ないかもしれないけど、少しでも記憶取り戻せるキッカケになれば、いいかなって……。」



「全く、お人好しね。

多分……だけど、以前もチームの誰かの過去を夢見ていたんでしょう?」



……鋭いな…やはりライラックは勘も頭も良いようだ……



「うん……そうだね。」



「なんで他の人には話さなかったの?」



「……なんとなくだよ。必要ないだろうし。

誰しも自分の過去とか他人に覗かれたくはないだろう、と思った。」



「……覗くだけじゃなく、過去に関わり合いになって欲しくない…じゃないの?」



「!!」



「当たってるみたいね。」



「……やっぱり、ライラックは賢いんだね。」



「そ、そんな事ないわよ……。」



ライラックはまた顔を赤くして、下を向いて言った。



「でも一番肝心な自分の過去は、夢に見ないの?」



「……よくわからない。

なんか、無意味に断片らしき物なのかな?

そんな光景を見たり、誰かの言葉は聞いたんだけど、全く俺の記憶に繋がらない。」



「まだ前途多難って感じなのね。」



「そうだね、なんか自分でも、もどかしいよ。」



「お互い焦らず、思い出す努力をすればいいんじゃない?

いつか私は自分の過去を取り戻す。だから、ユーキも頑張ってね。」



「……そうだな。頑張ってみるよ。」



「……期待しておりますわ。ユーキ様。」



「!!」



ライラックは真正面から俺の目を見つめ、赤い顔をして、微笑みを浮かべている。



……記憶が戻った?…そしてユーゴが俺だと確信しているのか?…

だが、ユーゴは金髪の白人で美形だったが、俺は東洋人だ。まさか?…ね……



ただ、俺の顔が青ざめた事には違いなかった。



【あとがき雑学】


堂々巡(どうどうめぐ)り:


語源:

僧侶が祈願の為、または儀式として、仏や仏堂のまわりを周回している様子から。


意味:

考えや議論などが、同じことをいつまでも繰り返して進展しないこと。



他にも『堂々巡り』という言葉を使う物はあります。

・遊戯の一つ。手をつなぎ輪をつくって歌いながらぐるぐるまわる遊び。

・国会で、演壇上においた箱に議員が投票する方法の俗称。


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