【71】※ conversation with~(会話) ライラック② ※
「 …………fin(終)…………って……映画の終幕じゃないかっ!!」
自分の発する大声で、意識を取り戻した。
「ユーキさん、大丈夫ですか?」
「ユーキ!いい加減に手を離しなさいよ!!」
「ここは……。」
「意識が戻りましたか……。安心しました。」
「本当に寝惚けないでよね!?」
「ライラック……?」
何故か俺は、ライラックの手を強く握っていた。
「ご、ごめん!」
慌てて手を離す。
「…………。」
ライラックは顔を赤くし、プイッと横を向き、何も言わない。
……かなり怒っているな……
そうだ、俺は……研修途中にまた意識を失ったんだ。
長い映画に出演していた……いや、あれは確実にいつもの感じ、俺は間違いなく、ユーゴ・マテューだった。
「すみません!!……俺、いえ、私はどれ位意識を失っていたのでしょうか?」
「ユーキさんは、ライラックさんの研修途中、突然椅子から崩れ落ちたのです。時間にして…10分位でしょうか。」
……10分で2年間……
「……それで、ライラックの研修は大丈夫だったのでしょうか?」
「予想外…は失礼になりますね…。
検索PCは、私が補助致しましたが、ライラックさんも完璧に研修を終わられました。」
「えっ!?」
ライラックの方を見ると、相変わらず顔を赤くして、こちらを睨んでいる。
……間違いなく、リラ・ルグランだ。俺と彼女は、あの晩……
俺は思わず赤面した。
「ほ、本当にごめん!サポートするとか言っておいて、俺が意識失っていたら世話ないな。」
「……いいわよ。ユーキがわかりやすいように準備してくれたから、なんとか出来たんだから。」
……相変わらず顔は赤いが、怒ってはいない?…のか?……
「そう言ってくれると救われるよ。」
「……別に。」
またプイッと横を向いた。
「……やはり減点ですよね……研修途中で意識を失うなんて。」
「いえ、寧ろ加点を差し上げたい位です。」
「えっ!?」
俺は驚いてジェシーの顔を見た。
「ユーキさんに作って頂いたマニュアルや付箋、『あの』ライラックさんにも、わかりやすい物でした。」
……『あの』って……
「当社の研修の一助として使わせて頂けるなら、加点を致します。」
「加点ですか?それはありがたいですが、私に断らずとも、使う事は可能でしたでしょうに。」
「そのような訳にはいきません。使わせて頂いてもよろしいですか?」
俺の作った物など、後で勝手に使う事が出来る。
ジェシーは公明正大な女性なのだろう。
「勿論です。ジェシーさんは、研修生を思いやる事の出来る、本当に素敵な女性なのですね。」
……何を言っているんだ、俺は……
今度はジェシー迄赤面している。
「いえ……そんな事は……。」
ジェシーは顔色を隠す為か、下を向いてそう言った。
ライラックは膨れ面だ。
……怒っている!今度は確実に……
……何か変だ。つい口をついて出た自分の言葉……普段の俺なら、あんな言い方はしないだろう。……
「使って頂けるなら、私も作った甲斐があります。」
「ご厚意ありがとうございます。
それでは、研修はこれで終了となります。
研修後、当社に来て頂けるのなら、先程のご質問の解答を得る事も可能になるかもしれません。
ユーキさん、是非御検討くださいね。
お二人とも、お疲れ様でした。」
ジェシーは既に監督官モードに戻ったようだ。
「はい。消滅を免れましたら、検討させて頂きます。」
「……消滅?……ですか?」
反応は疑問形だ。
「いえ、なんでもありません。ご指導ありがとうございました。」
「あ、ありがとうございました。」
俺とライラックは『お客様対応室』を後にした。
ライラックは一言も喋らない。
俺はまともにライラックの顔を見られず、下を向いて歩いている。
「……本当にごめんな。」
「……何に対して謝っているのよ。
ちゃんとコールセンター風に言いなさいよ。」
「その…途中で意識失ったり、……手を握ってたり……。」
「……そんな事はいいわよ。」
「……怒っているよね?」
ライラックが立ち止まった。
俺も立ち止まり、顔を上げる。
「……ユーキが、あんな女ったらしだったとは思わなかったから…よ。」
「……?」
「本当にわかってないのね!
さっき、監督官に言ったでしょ?……なんか、いつものユーキらしくなかったわ。」
まともにライラックの顔が見られない。
「……いや、俺自身も戸惑ってるよ。」
あれは、貴族であるユーゴ・マテューが言いそうなセリフだ。
あの映画……いや体験は、やはりライラックの過去を体験したものなのか?
……リラ・ルグランは『強い女性になる』と言っていたが……確かにライラックは強い…というか、キツイ性格をしている……
しかし、途中でナレーションみたいな物も入っていたし、何かいつもとは違う感じもする。
「……ライラックは、過去を覚えていないと言っていたね。」
俺は下を向いたまま、言った。
「何よ!急に……。」
「転生したい本ってaventure de la sainte fille(聖少女の冒険)』なのかな?」
「!!……なんでわかるのよ!?」
「で、ジャンヌのように生きたかった。」
「……そうよ。」
……『ジャンヌ・ダルク』が空想小説の主人公だったのはどういう事だろう?内容は史実通りだったと思うが……
そう思いながら、顔を上げた。
ライラックは警戒するような眼差しを俺に向けている。
俺は再び目を逸らして言った。
「『ユーゴ・マテュー』という名前に心当たりはないか?」
「!!」
「あるんだね。」
「……ないわ。だけど……。」
「だけど?」
「何故かしら?……凄く胸が熱くなる……。」
やはり………
「『リラ・ルグラン』は?」
「……私の……昔の名前よ。」
「……やっぱりそうか……。」
「何よ!?ユーキは何を知ってるの!?」
意識を失っていた10分間に2年、別の人生を送っていた………なんて言える訳もない。
「……知っているというか……夢を見たんだよ。」
「はぁ!?魂は夢なんか見ないでしょ!?」
「……俺にもよくわからないんだけど、今迄も俺は意識なくした事あっただろう?」
「……そうね……。」
「俺は皆と違い、『oblivion』だから、もしかすると夢見る事もあるのかもしれない。」
「そんな事、関係あるのかしら?」
「俺にもわからない。
だけど……誰にも言っていないけど、今迄も意識失った時は夢らしき物を見ていた。」
「……そうなの?」
「ライラックは、自分の記憶を取り戻したい?」
「……それは勿論よ。」
「だったら、俺の見た夢は役に立つかもしれない。」
……ユーゴ・マテューが俺だった事は伏せておこう……気まずいし……
「……記憶は取り戻したいけど……なんだろう?とても悲しい思いをしそうで怖い気もする……。」
「悲しい思い?」
……少なくとも俺の体験では悲劇ではなく、ハッピーエンドだったと思うが……
「そうか……。」
「……でも、やっぱり教えて頂戴。
何か大切な事を忘れている気がする。悲しくても、思い出したい。」
「わかった。でも、俺は夢を見ただけだから、実際のライラックの過去とは違うと思うよ。」
「いいわ。何か思い出せるのなら…。」
俺は夢の話……いや体験した事を、掻い摘んでライラックに話した。
……勿論、ユーキという名は伏せ、あの晩の出来事はサラッと流した。
【あとがき雑学】
掻い摘んで(かいつまんで)
意味:
事の次第など、要点を抜き出す事。
『※あらまし』を簡略に述べることを「かいつまんで説明する」などと表現します。
※あらまし
意味:
・出来事の大まかな展開のこと
・大体のストーリー
・あらすじ
・話の概略
・話の概要




