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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ライラック ※
71/86

【70】※ ⑩tragédie(悲劇) ※


「お待たせ致しました。

よろしくお願い致します。」



「承知致しました。お早くお乗り下さい。

この国を出る迄は、不自由でしょうが、姿が見えないよう、姿勢を低くしていて下さい。」



「ありがとうございます。」



馬車に揺られながら私達は姿勢を低くし、息を潜めていた。

ライラックには何が起きているか、わからないだろう。



不安気なライラックの手を強く握り、ひたすら早く国境を越える事を願った。



……だが、この選択は正しかったのだろうか?

もし、ソーレ氏が国の貴族と通じていて、私達を売ったとしたら…

国境の検問で、私達が見つかったら…

悪い想像はいくらでも出来る。

いや、これが最善だと信じよう。

小説家の癖だな。恋愛話は『悲劇』の方が人気が出る……







「お待たせ致しました。

国境を越えたので、もう大丈夫です。外に出てみませんか?」



……鬼が出るか蛇が出るか……

とっさに頭を過ぎった言葉……何故このような変な文言が浮かんだのだろう?……



そう思いながらも、頭を上げ、ライラックを伴い、警戒しつつ馬車の外へ出た。



馬車は丘陵地に停まっていた。少し下に国全体が見える。



「本当に……!」



「やはり、お疑いがありましたか。」



信じられない!といった表情の私に、ソーレ氏は笑って言った。



「はい。大変申し訳ございません。夢のようです。……

ライラック、無事出国出来ました。全てソーレ様のおかげです。」



「初めまして。わたくし、リラ……いえ、ライラックと申します。

この度は、大変お世話になり、心より御礼申し上げます。」



「フフッ、リラ・ルグラン様ですね。本当にお美しい令嬢だ。

美男美女のカップルですね。素晴らしい!

初めまして。私はソーレと申します。」



「………ユーキ?」



「大丈夫、ソーレ様は私達の恩人ですから。」



「はい。以前はリラ・ルグランでございました。今はライラックと申します。

本当にありがとうございます。」



「いえいえ。私はユーゴ様の才能に惚れ込んでおりますので、当然の事をした迄です。」



「ユーゴ様ではなく、今はユーキ様ですわ。」



「成る程…お二人とも新しいお名前がある。

では、我が国では、そのお名前を名乗られると良いでしょう。」



「お心遣い、感謝申し上げますわ。ソーレ様。」



「いえ、それでは今度は車窓の景色など眺めながら、ごゆっくりお寛ぎください。」



私達は再び馬車に乗り込んだ。



ライラックは安心したのか、私の肩にもたれ掛かり、スヤスヤ眠っている。



私は彼女を起こさないように、渡された封書を静かに開けた。

彼女を連れ去らず、去って行った王国の騎士……

封書の中身は、やはり次兄からの手紙だった。



『ユーゴへ



おそらく、これがお前への最後の手紙になるだろう。


私は昔から、お前の奔放な性格を羨ましく思い、また、危ういと心配していた。


2年前、辺境伯令嬢との醜聞があった時、お前は貴族社会ではなく、平民の生活の方が幸せになれる、と私は思った。

だから、お前が令嬢を庇って嘘を言っている事はわかっていたが、敢えて何も言わなかった。

その後のお前からの手紙は、活き活きとして、私は嬉しく思ったものだ。


だが、最近、お前は『リラ・ルグラン嬢に会いたい』という手紙を私に寄越した挙げ句、侯爵令嬢との婚姻を望んだ。

兄上はとても喜んでいるが、私は可怪しいと思っていた。

侯爵令嬢が、お前に執着している事もよくわかっていたし、兄上が私宛の手紙でお前の住所を知り、侯爵家に居場所を教えた事を知って、お前は騙され罠に嵌められたのだろうと思い、憤慨した。


リラ嬢を諦めろ、と言ったのは、既に国王の妃に決まっていたからだ。

一時の感情で身を滅ぼして欲しくはなかった。


だが、今般のリラ嬢の失踪事件…お前が関わっているのだろう。

警備の厳しい侯爵家別邸から忽然と消える……そんな芸当が出来るのは、お前の固有魔法だけだ。

多分、お前が侯爵令嬢との婚姻を望んだ事と関係があるのだろう。

兄上は侯爵家と縁が結べる事に浮かれ、今は何も気付いていない。

だが、もしお前が婚姻を放棄し、姿を消したら、兄上も流石に気付くだろう。


昨夜、自宅を訪ねたが、お前はいなかった。

平民街で聞き込みをすれば、お前が別荘を所有している事、女性物の服を購入した事など、簡単にわかった。

お前は賢いが、詰めが甘い。

固有魔法は門外不出…とはいえ、家族は知っている。

恐らく、お前は追い詰められて、固有魔法を使ったのだろうが、それはとても危険な賭けだ。

だが、その勇気には敬意の念を抱く。


私もかつて、身分違いの恋をしていた。

相手は、第3王妃アデル様だ。……彼女は公爵家の令嬢だった。

私よりも2つ歳上の穏やかで優しい人だった。

アデルは、私との婚姻を望んだが、当然公爵家が許すはずもなかった。

彼女は思い余って、私と国外へ逃げる事を希望したが、私は応じなかった。

『公爵家や男爵家に迷惑がかかる、兄上に申し訳がない。』…そんな言い訳をして。

なんの事はない、ただ勇気がなかったからだ。

……その罰だろうか……今は感情を失った、かつて愛した第3妃の警護の任務についている。…やるせない気持ちで。


今思えば、必死で家を守る兄上には申し訳ないが、最下層の貴族…男爵家の存続など、あまり意味のない事だ。


もう既に行動を起こしたお前を止めはしない。

結果はどうあれ、お前は後悔しないように最善を尽くせ。


ただ、お前の想いが奇跡を起こす事を、私は望んでいる。



アダン・マテュー』



手紙を読み終え、改めて次兄への感謝の気持ちが湧き上がる。



……そうか、『私が見落としている』と危惧していた不安感は、次兄の存在と自分の不用意な行動だったんだ……



手紙に記された次兄の推測は、ほぼ合っていた。

もし、私達を捕らえようと思えば、簡単に出来ただろう。

そもそも、固有魔法を使って家族にバレない訳がない。

長兄は烈火の如く怒るだろう。

だが、次兄はエールを送ってくれた。



「すみません、兄上。ありがとう、兄上…。」



思わず呟いた言葉にソーレ氏が反応した。



「良いお兄様をお持ちのようですね。」



「はい。私には過ぎた兄です。」



「お兄様の思いに応える為にも、お二人は幸せにならねば…なりませんね……。」



「はい。ソーレ様には、本当に感謝してもしきれません。」



「……ですが……ユーゴ様、私を良い人間、などと思わない方がいいですよ。」



ソーレ氏の雰囲気が突然変わった。

言いしれぬ恐怖が背すじを這い上った。



「………。」



「この後、リラ様は王宮に連れ戻され、ユーゴ様は国家反逆罪で処刑される……。」



「!!……それは…どういう事でしょう……。」



結末は結局『悲劇』……発した声は震えていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜


……小説家は、『悲劇』で終わる恋愛小説を書きたがる。

だが、自分の恋愛の結末が『悲劇』を迎える事は望まない。

小説の中に生きる人々の運命は……

神である『作家』のみぞ知る、という事なのだろうか?


〜〜〜〜〜〜〜〜



「私は、出版社でも有名な鬼編集者です。

良い人間とはいえません。締め切りに対しては非常にシビアですので。」



「………!?」



「先程申し上げたのは、ユーゴ様のご体験に基づく、新しい小説の結末です。

やはり、悲恋物語は読者の心を惹きつけますので。」



「………。」



ソーレ氏は、笑いながら言った。



「状況も考えず、脅かし過ぎましたね。……失礼致しました。

しかし、バーリアでは、この手の悪フザケが当たり前です。早く慣れてくださいね。」



「……本当に…心臓に悪いです。……」



「誠に申し訳ありません。

お詫びと言ってはなんですが、バーリアの首都に住居をご用意致します。

然程広い邸ではございませんが、お二人で暮らすには充分かと思います。」



「……心底、震え上がりました……。

ですが、身に余るお心遣い、本当にありがとうございます。」



「いえ、私の都合でもあります。

〆切からは逃げられないように、私の自宅の近くですので。」



ソーレ氏は微笑みながら言った。



「そのご心配は無用かと。

貴族社会からは逃げますが、〆切からは逃げません。

私は締め切りをキッチリ守るタイプですので。」



「それは頼もしいですね。

それでは、早速、新しい空想小説のお話しをいたしましょう。」



「はい、喜んで。」



……恋愛小説を書くなら、結末は悲劇の方が売れる。

だが、もし私が書くなら、ハッピーエンドの結末にしたい。

アダンとアデルの恋物語……



バーリアに向かう馬車に揺られながら、そんな事を思っていた。



…………fin…………



【あとがき雑学】


《鬼が出るか、蛇が出るか》:

おにがでるか、じゃがでるか


意味:

前途にはどんな運命が待ち構えているのか予測できない。

鬼が出るか、神が出るか


由来:

元々、からくり人形師の言葉だと言われています。

人形師が、箱を観客に見せながら「鬼が出るか蛇が出るか」と言って、観客の好奇心を刺激したという説があります。

「鬼」と「蛇」は、突然現れる不気味な物に思われますが、「蛇」は昔は神の化身として敬われる存在でもありました。

なので、箱を開けたら、『悪い物が出るか、それとも良い物が出るか』といった意味合いで使われていたと考えられています。


《シビア》:

「厳しい」という意味で使われる最も一般的なカタカナ言葉です。

「非常に厳しいさま」「過酷なさま」「辛辣」「厳重」「厳格」「深刻」を表す言葉です。

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