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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ライラック ※
70/86

【69】※ ⑨fugitive(逃亡者) ※


自宅に戻り、小説の資料や細々した備品等を処分した。

もし今日爵位が戻れば、すぐに隣国へ行くつもりだ。



……早く新しい拠点を確保したい……



ゴミ置き場で、左手を見ながら深く溜息をついた時に声をかけられた。



「ユーゴ・リーブル様ですね?」



「はい。そうですが……。」



「失礼致しました。私は西方の国バーリアの者で、ソーレと申します。」



口髭を(たくわ)えた、品の良い紳士は、胸元から名刺を出し渡して来た。



「バーリアの…出版社の方ですか?」



「はい。左様でございます。

先程リアム出版社を訪ねましたが、昨日連載休止を告げられたとの事。

そこで勝手ながら、ご住所を伺い訪問させて頂いたのです。」



……そういえば、あの月刊誌は他国でも発売していると聞いたな……



「……そうですか。実は、ご覧の通り、ここを引き払い、暫く旅に出たいと思っていたので、連載休止を申し入れた次第です。」



「旅ですか?……しかし、何故溜息など…何かお困り事でも?」」



「はい、この国では無い何処かの国へ行きたいと思いまして。ですが、私は平民ですので。

特別な用事がある訳でもなく、なかなか国外への転出の許可が出ず、困っております。」



「特に行きたい国がある、という訳ではないのですね?」



「はい。出来れば遠い国へ。」



「……でしたら、私にお任せ頂けませんか?」



「お任せする……?」



「はい。私、こう見えましても一応バーリアの貴族でございます。

貴国に掛け合えば、本日中に出国許可は出ると思います。」



……貴族…あまり関わり合いにはなりたくないが……



「ありがたいお話ですが、そこまでして頂いても、お返し出来る物がありません。」



「いえ、我が国で新しい空想小説を書いて頂ければ充分でございます。」



「それだけでよろしいのですか?」



「はい。そもそも、私がこの国を訪れた目的は、新しい小説を執筆して頂きたいと、ユーゴ様に直接交渉しに参ったからです。

我が国でも『Si』は大人気です。貴族も平民も連載を楽しみにしています。

連載休止になるのは残念ですが、我が国で新しい小説を書いて頂ければ、皆喜ぶと思います。」



「貴族…も……?」



「はい、我が国では貴族と平民の間に何も隔たりはありません。

私も普通に会社勤めをしておりますし、妻は元平民です。」



「夢のような国ですね。……是非行ってみたいです。」



「フフッ、失礼ながらブルージェ王国は、時代遅れの身分制度が絶対の国ですからね。貴族と平民の街も隔絶されていますし。

では、決まりですね。朗報をお待ちください。」







……突然現れたソーレ氏。半信半疑だが、本当にそうなるなら、なんと幸運な事か……



私は家を片付けながら、ソーレ氏の朗報を待った。



昼過ぎ、家のドアが叩かれた。



「はい。」



期待に胸の鼓動が速くなる。



ドアを開けると、そこにいたのはクレール嬢の執事だった。



「ユーゴ様、正式に爵位が戻る事が決定致しました。

つきましては明日、侯爵家にて爵位返還、並びに侯爵位授与と婚姻の儀を執り行いたいと思います。」



「それは、早急な事ですね。大変ありがたい事ですが、まだこちらの片付けが……。」



「片付けに関しましては、後日当家より召使いを派遣致しますので必要ございません。

明朝、お迎えに上がりますので、ユーゴ様はそれ迄に他のご用事を済まされますよう、お願い申し上げます。」



「はい、承知致しました。」



「では失礼致します。」



「はい。ありがとうございました。」



ドアを閉めてから、頭を抱え、深く溜息をついた。



……なんて事だ。侯爵邸で爵位が戻っても意味がない。更にすぐに婚姻とは…まさか!もうリラ嬢の出奔が露呈したのか?……



コン、コン……ドアをノックする音が聞こえる。

執事が戻ってきたのだろうか?



「はい。」



私は努めて明るく返答をした。



ドアを開けると、そこにはソーレ氏が立っていた。



「ユーゴ様、大きな溜息が外迄聞こえました。気をつけられねば、相手に気取(けど)られます。」



私は心底ドキッとした。



「……そうですね。気をつけます。」



「失礼ながら、盗み聞き…コホンッ、いえ、たまたま聞いておりました。

御事情はよくわかりました。」



「……そうですか。ともかくお上がり下さい。」



私は力なくソーレ氏を部屋に招き入れ、紅茶を入れて出した。



「それで……どこ迄ご存知なのでしょうか?」



「まず、ユーゴ様は平民ではなく、男爵家のご子息である事。

2年前、妃候補の方とのスキャンダルで、爵位を剥奪された事。

そして侯爵令嬢がユーゴ様にご執心で、そのスキャンダルの元である事。」



「……よくご存知ですね…。」



「はい、閉鎖された貴族社会では、噂話が飛び交っていますから。」



「……申し訳ありません。私はソーレ様に嘘をつきました。」



「いえ、構いません。少なくとも遠い国に行きたい、という言葉に嘘はないのですから……。」



ソーレ氏は紅茶を一口飲み、言葉を続けた。



「そして、今、貴族社会は大変な騒ぎです。」



「えっ!?」



「妃候補の失踪……その反応は、やはりユーゴ様が関わっておられる。」



「…………。」



「大丈夫です。すぐに出国の準備をいたしましょう。

平民の聖印は教会で得られます。許可証はもう貰ってきました。平民『ユーゴ・リーブル』として。」



「……ソーレ様は、何を考えておられるのですか?

私が、国家反逆の罪人と知りながら、逃がすと仰る。」



「想い合う2人が、身分の違いで引き離され、家の為、望まぬ相手と婚姻を結ばされる。

この理不尽な現実を打破し、愛を貫こうとしただけで国家反逆の罪人ですか……馬鹿馬鹿しい話ですね。」



「……それがこの国の現実です。」



「失礼ながら、私はこの状況が嬉しくて仕方ないのです。」



「……嬉しい!?」



怒りを抑えたつもりだったが、相手には伝わったようだ。



「そんなに怖い顔をなさらないで下さい。」



「すみません……。」



「私はソーレ、母国の言葉で『太陽』を意味します。

大丈夫です、クレール・ド・リュンヌ『月の光』の光には負けません。」



「……すみません、何を仰っているのか、意味がわかりません。……」



「失礼致しました。私の国は皆、陽気でロマンチシストなのです。

私が嬉しい…と申し上げたのは、私がお力になれると確信したからです。

ユーゴ様の実体験がそのまま小説の題材になると、確信したからです。

ユーゴ様程の才能を、本人が望みもしない侯爵家に埋もれさせるのは忍びない。

勿論、お相手の方も一緒にお連れします。

我が国に行けば、身柄の安全はお約束致します。

私を信じて頂けませんか?」



「本当ですか!?」



信じるも何も、こうなった以上、それしか悲劇を回避する道はなさそうだった。



「それでは早速、教会へ参りましょう。」







私は教会で、ようやく聖印を手に入れた。



「お相手の方は、勿論聖印をお持ちですね?」



「はい。」



「では、その方をお連れ下さい。馬車を走らせる準備は整っています。」



「すぐに戻ります。」







私は自宅に戻り、固有魔法を使い、別荘に転移した。

その場で転移してもよかったが、まだソーレ氏を信じ切ってはいない。

最終手段は見せない方が得策だと思ったからだ。



「ライラック?」



呼びかけたが返事がない。



……まさか!?……



「…ユーキ?……」



「どこですか?」



「……ここです。」



彼女は玄関の近くに座りこみ、傍らには『Si(もし)』の本が落ちていた。



「何故そんな所で……。」



「……王国の騎士が…来ました。」



「!!…ともかく、一刻も早くここを出ましょう!」



……もうこの場所は安全ではない。

だが、何故彼女は連れ去られなかったのだろう?……



疑問はあるが、ともかく急がねばならない。

彼女の手を引いたが、脱力しているのか、立ち上がれないようだ。

身体を抱き上げ、転移魔法の詠唱をした。

自宅に戻り、彼女の顔が見られないよう、布を頭から被せた。

何があったのか、まだ震えている彼女から話を聞いた。



突然、1人の騎士が窓を破り、入ってきたという。



〜〜〜〜〜〜〜〜


「リラ・ルグラン様ですね。」



「いいえ、違います!」



「無駄でございます。私は辺境伯令嬢様のお顔を存じ上げております。」



「……………。」



「ユーゴ・マテューは何処にいますか?」



「知りません!わたくしは1人で逃げてきたのです!」



「ユーゴ・マテューを庇うのですね?」



「……ユーゴ様には、最近お会いした事もございません!

……わたくしを捕まえなさい!もう覚悟は出来ております!」



「……そうですか。」



騎士が動いた。



「!!」



……やはり『万が一』は、ありました。でもわたくしは幸せでした。ユーゴ様、せめてもう一度お会いしたかった……



「これを、ユーゴ・マテューにお渡しください。」



「!?」



〜〜〜〜〜〜〜〜



そのまま騎士は帰っていったという。



彼女の手には封書が握られていた。



……まさか?……



【あとがき雑学】


ロマンチシスト

《romanticist》から転じて、ロマンチストが一般的に使用されています。


①ロマン主義を信奉する人。ロマン主義者。

(ロマン主義とは、18世紀末〜19世紀前半にかけてヨーロッパで広がった芸術運動を指します。従来の古典主義・合理主義に抗い、感情と個性、自由を尊重する芸術の事です。

日本では、明治中期の文学運動をロマン主義という事もあるようです。)

②甘美な空想などを好む人。夢想家。空想家。


対義語として、現実を真正面から見据えて考え、行動する人「リアリスト」という言葉があります。


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