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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ライラック ※
67/86

【66】※ ⑥réunion secrète Ⅱ(密会Ⅱ) ※


夜更けを待って、再び転移魔法を使い、侯爵別邸の一室へ忍び込んだ。



「リラ様……。」



「ユーゴ様?」



「今宵もお顔を拝見しに参りました。」



「……とても嬉しいですわ。」



躊躇(ためら)いがちな声……これは……



顔を近づけて表情を見ようと思ったが、彼女は顔を伏せている。



「……残られるご決心が固まったのですね。……リラ様のご決断を尊重致します。

また、(いたずら)に私は貴女の心を迷わせてしまいました。申し訳ございません。

ですが、ご自身で選んだ道であれば、王宮に入られても、貴女はもう大丈夫だと信じます。」



「……いえ!わたくしは、罪を背負う覚悟が出来たのです。

3日後、わたくしの身柄は王城に移される事になりました。

ユーゴ様は、わたくしに考える時間をくださいましたが、もう時間がございません。

ですから今日1日、熟考致しました。」



突然顔を上げて言った彼女の顔は、紅潮して見えた。



「……時間はまだあります。明晩でも、明後日の夜でも間に合います。」



「いえ、どれだけ考えても結論は変わりません。もう決めたのです。」



彼女の感情は(たか)ぶっているように見えた。



「……本当によろしいのですか?」



「はい。わたくしは自分の運命を嘆く事しかしてきませんでした。父上に逆らう勇気もなかった。ユーゴ様に庇われ、父上の思い通りの人形になる事を、仕方ない事だと受け入れていたのです。

ルグラン家、マテュー家を守る為だ、と自分に言い訳をして…。」



「それはお立場的に、致し方ない事だと思います。」



「いいえ、ジャンヌならば、自分で道を切り開きます。」



「……リラ様、空想小説と現実は違います。」



「そうですわね……でも、ユーゴ様。

お話はお話ですが、自分がどう生きるか、を考え進む事が出来る者が『人間』だと思います。

今迄のわたくしは何も考えず、何かをしようともしなかった……『人形』でした。」



「……リラ様のお立場では、それは難しい事だったのでしょう。」



「でも、今のわたくしは、全てを運命のせいにしたくはありません。

わたくしは、ユーゴ様とともに参ります。」



「昨日の今日で、お考えになる時間はあまりにも少なかったと思います。

一時の感情で動く事は危険ですが……。」



「一時の感情ではございませんわ。わたくしはユーゴ様が思われる程、子供ではありません。

庇われるばかりではなく、自分の行動に責任を負う、そして何があっても、強く生き抜く覚悟も出来ました。

その覚悟が出来たのは、ユーゴ様が選択肢を与えて下さったからです。」



「………。」



「……例え悲劇で終わろうとも、わたくしは人形ではなく、人間として生きたい。」



「……やはり、『聖少女の冒険』の結末を予想されていたのですね。」



「はい、多分そうなるのだろうと……。でも、わたくしの人生は悲劇にはしたくないです。

末永く笑って暮らせるように、わたくしに出来る事はなんでも致します。

ユーゴ様は昨晩、わたくしに本音を語って下さいました。

ですから、わたくしもユーゴ様に本音をお話し致します。

聞いて頂けますか?」



「……勿論でございます。」



「……ユーゴ様は『貴女には笑顔が似合う。どこにいても、誰といても貴女には幸せになってほしい』と仰って下さいました。

わたくしが、笑顔で幸せになれる場所は、ユーゴ様のお側以外には有り得ません。

ユーゴ様は1人でも生き抜く覚悟がなければ、計画を中止すると仰いました。

今のわたくしは1人では生きられません。貴方がいなくなったら、わたくしは生きる意味を失います!例え生き存えたとしても、二度と笑う事は出来ません。本物の人形になってしまいます。

お願いです!ユーゴ様、わたくしをずっとお側に置いて下さいませ。

わたくしの幸せを願って下さるなら、命を落とすなどと仰らないで下さい!……もしその時があれば、わたくしも、ともに参ります!」



……彼女は、やはり一時の感情で決断したのかもしれない。

運命に流されるばかりだった彼女にとっては、突然差し出された、危険を(はら)んだ手は、救いの手に感じられたのだろう。

そしてその手を伸ばした私こそ、運命の相手だと思い込んでいるのかもしれない。……



「……私が命を落とす……それは最悪の場合と申し上げましたが、リラ様はそこ迄想定されて、お話しされていますね?」



「………はい……。」



「私は死ぬつもりなど全くございません。

万が一そうなったとしても、リラ様を道連れにする事は絶対に嫌です。

私の望みは『人間らしいリラ様』を取り戻す事なのですから。

万が一があったとしても、貴女には人間として、自我を無くさず生きて頂きたい。」



「………出来る自信はございません。」



「ならば、この計画は中止させて頂きますが……。」



「それは嫌です!

……今のわたくしは弱いです。1人ではこの状況を覆す事も、王宮の中で自分を保つ事も出来ません……

王宮に入り、心が壊れていく事をわかっていながら、ただ嘆く事しか出来なかったわたくしに、希望を与えて下さったのは、ユーゴ様です。」



「……私に殉じて命を落とされる……それでは、希望ではなく絶望です。

そのように思われるのは、失礼ながら、一時の気の迷いではないかと……。」



「いいえ。わたくしは、ずっとユーゴ様をお慕い申し上げております。

貴方に会えない日々は、本当に辛かったのです。

本当に『Si』があれば、ユーゴ様に攫って頂きたい……到底無理な事だと思いながらも、そんな思いでお手紙を差し上げました。

もう二度とお会い出来ない……ならば、わたくしは感情を持たない人形になりたい……そうして、わたくしは表情を無くしました。

ユーゴ様が貴族社会から逃げ出したと仰ったように、わたくしは現実から逃げ出していたのです。

もし、ユーゴ様と出会わなければ、ユーゴ様を好きにならなければ、わたくしは感情を無くす事もなく、王室に入る事になったでしょう。」



「……やはり、私のせいなのですね。」



「いいえ、違いますわ。

感情を無くさずとも、結局は父上の思うまま、家の為、王室に差し出されるただの人形に過ぎません。

普通の令嬢ならば、高貴な身分になる事を喜び、御子を産み、幸せを感じる事も出来るかもしれません。

しかし、意志も感情も全て仮面の下に隠して、王族として暮らす日々は、わたくしには耐えられません。いずれは自分を失い、心が壊れていき……本当の人形になってしまったでしょう。

自分がどう生きるか、を考え、人間らしく生きる事など思いつく事も出来なかったでしょう。

ユーゴ様に出会って、心に温かい気持ちを抱いていたから、わたくしは『人間』として生きたいと思えたのです。」



「………。」



「昨日、ユーゴ様にお会い出来た時は、本当に嬉しかったのです。

でも、わたくしはもう人間としての表情を無くしていました。

そのような姿をお見せするのは、身を切られるように辛かったです。

ですが……ユーゴ様はわたくしに再び『人間』として生きる道を示して下さった。」



「……リラ様……。」



「一時的な気の迷いでは、決してありません!

わたくしを『人間』として生かして下さいませ!」



……彼女は自由を求め、『人間』として生きたいと望んでいる。その気持ちは揺るぎないのだろう。

ならば私は……



「申し訳ございません。

初めから、お一人で強く生き抜いて下さい……などと無茶な事を申し上げました。

……空想小説とはいえ、強いジャンヌにも協力者はおりました。

……私がリラ様の自由の一助となりましょう。」



「では!?」



「はい。リラ様が『これから、1人でも人間らしく生き抜く強い女性になる』と誓って下さるなら、ともに参ります。」



「……誓います!ですから……。」



「その覚悟、しっかり受け止めさせて頂きます。

私は非力ですが、全力でリラ様をお守りすると誓います。」



「嬉しいですわ。でも、わたくしは守られてばかりになるつもりはございません。ユーゴ様のお側で、強い女性になります。

ですから……どうか今は、か弱い籠の鳥を、大空に羽ばたかせて下さいませ。ユーゴ様!」



華奢な身体が私の胸に飛び込んできた。



忘れかけていた恋心に、小さな火がついた……ついてしまった……



……彼女の私に対する気持ちは、一時の思い込みなのかもしれない。だが、真摯に今の気持ちを吐露してくれた……ならば私も正直に今の自分の気持ちを伝えよう……



私は彼女を抱きしめたが、口づけはしなかった。

彼女の純潔を、全てを奪いたい……欲望が身の内に湧き上がる。だが……



「私は…正直に申し上げますと、今すぐにでも、リラ様の全てが欲しいです。

ですが、口づけも軽々しくしたくはありません。」



……今の彼女への想いは、多分まだ『愛情』だ……



「………。」



「そして、自由になられた貴女を私が束縛する事もしたくはない…。

広い世界を見れば、リラ様のお気持ちが変わる事があるかもしれません。」



「……そんな事は決して、ございません!」



……だが、愛情以上に恋心が勝れば、自分は自分を律しきれないかもしれない……



「……ですが、他国に無事逃げられた暁には、理性で抑えられるか、自信がありません。貴女の全てを奪ってしまうかもしれません……。」



「わたくしは、ユーゴ様に全てを奪ってほしいのです。……期待しておりますわ。」



彼女は頬を染め、そう言った。



さて、どうしたものか。まだ爵位は戻っていない。隣国で家を借り、必要な荷物を運び、それから侯爵邸に戻り、彼女を伴い転移するつもりだったが、もうあまり時間がない。



「リラ様、急な事で、まだ準備は出来ておりませんが……。」



「今宵共に参ります。」



「本当によろしいのですね?」



「はい。」



彼女は迷いなく返答した。


【あとがき雑学】


愛情・恋愛感情・束縛:


《愛情》

2人の間で、育まれていくもので、相手からの見返りを求めない物です。

見返りを求めず、相手に与えることで自分も幸せな気持ちになり、満たされます。


《恋愛感情》

1人でも抱けるもので、一方的に思いを寄せる片思いもあります。

往々にして、相手に見返りを求めてしまう物です。


《束縛》

愛情の深さと勘違いされがちですが、愛情とはまったく関係がありません。

相手のことを考えず、一方的に自分の感情を押し付ける事が束縛です。

相手の価値観を否定し、自分の価値観を押し付けることも束縛にあたります。


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