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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ライラック ※
66/86

【65】※ ⑤réunion secrète(密会) ※


結婚式迄の間、侯爵家別邸にリラ嬢は預けられている。日中もあの部屋に籠もり、ドア付近にいつも置かれている食事には殆ど手をつけていない。

部屋には誰も入っては来ない。

2〜3日ならば、彼女がいなくなった事に気付く者はいないだろう。



彼女からあの場で聞いた話を参考に考えた、国家反逆級の計画。



貴族は、左手に聖印が刻まれている。私の左手の聖印は、今はない。

この国では平民の出国は、特別な事情がない限り認められていない。平民でも、国から許された者は、一時的に聖印を左手に刻む。

聖印がなければ、国を覆う魔法結界を抜ける事は叶わない。

爵位を得て、聖印を取り戻したらすぐに、隣国の平民街へ行き、家を借りる。

その後、リラ嬢と共に転移魔法で隣国に渡り、すぐに更に遠い国へ逃げる。



幸いな事に、貴族社会では、個人の魔法能力は家族しか知らない。門外不出だ。


一度行った事のある場所に転移出来る魔法……


「久しぶりだな。」


……自分のショボい魔法が、こんなにもありがたいと思った事はない……



魔法の言葉を詠唱しながらそう思った。






「リラ様……。」



小さな声で呼びかけた。



「……ユーゴ様?……どこからいらっしゃったのですか?」



暗闇から小さな声が返ってきた。



「固有魔法を使いました。」



声を頼りにリラ嬢に近づく。



「……本当に来て下さったのですね……。」



顔を寄せると、戸惑ったような人間らしい表情が見えた。



「はい。」



「わたくしは……本当にユーゴ様と行ってもよいのでしょうか?」



「……お気持ちに迷いがありますか?……」



「……わたくしの我儘で、ルグラン家、マテュー家の方々にご迷惑をかけます。

何より、わたくしがユーゴ様に重い罪を背負わせる事が……恐ろしいです。」



「私は何があっても大丈夫です。……貴女は優し過ぎます。ご自分を殺して迄、貴族社会に報いる必要はございません。」



「…………。」



「……迷いがあるのは当然です。

リラ様、平民は自由です。しかし、暮らしは決して楽な物ではございません。ましてや他国ともなれば……。

令嬢のリラ様に無理強いは致しません。」



「……他国…ですか?」



「はい。他国に行く為に、爵位を取り戻し聖印を手に入れる……その為だけに嫌悪感を抑え、あのような芝居をしたのですから。」



戸惑う表情から、悲しげな表情に変わった。



「……あのお芝居は…観ていて…とても辛かったです。」



「……すみません。」



「いえ、わたくしの為にユーゴ様はご無理をなさっていたのですね。こちらこそすみません。」



困ったような微笑みを浮かべている。



「いえ、リラ様を傷つけた事に変わりはないですね。本当に申し訳ありません。」



「……いえ。」



「私だけではなく、貴女様も重い罪を背負う事になるかもしれません。

そして、この計画が失敗すれば、最悪、私は命を落とすかもしれません。」



「そんな!……」



悲痛な表情に変わった。



「ですが、貴女様は生きて下さい。何があっても、1人でも。

そのご覚悟がなければ、この計画は中止致します。」



「……ユーゴ様……そんな悲しい事を仰らないでください……。ならば、わたくしは……。」



リラ嬢の言葉を遮り、私は微笑んで言った。



「少し脅し過ぎました。あくまでも最悪の場合です。」



「最悪の場合……。」



深刻な表情になる。



「やはり、リラ様の表情はよく変わられる。私は人間らしい貴女の笑顔が大好きです。」



「ユーゴ様、表情をずっとご覧になっていたのですか?」



今度は少し拗ねた表情だ。



「その表情も大好きです。

私は人間らしいリラ様が、本当に大好きなんです。」



『お慕い申し上げております』『愛しています』とは言わなかった。

平民流の単純な愛情表現…今の自分の気持ちに一番近い気がする。



「……ユーゴ様、わたくしも…大好きです。」



輝くような笑顔。



「……本当は、今すぐ貴女を自由にして差し上げたい。

しかし、平民の暮らしの中で、その笑顔を守りきるお約束は出来ません。

先程申し上げた事も起こり得る事です。

でも、ずっと笑っていられる未来があるのかもしれません。

また、王妃として平穏に過ごす事は、一生辛いかもしれません。あるいは今は辛くとも、いずれ幸せになれるのかもしれません。

私はリラ様のご決断に従います。

私や周りの事は一切気にせず、ご自身が幸せになる事、後悔しない事だけお考えになって、結論を出して下さい。」



「……あの……。」



「なんでしょうか?」



「何故ユーゴ様は、わたくしの為に、そこ迄してくださるのですか?」



……何故?…何故だろう……



「……私は初めてお会いした時から、リラ様に惹かれていました。お会いする度にその気持ちは増していました。

しかし、貴族社会を嫌いながら『身分違い』を一番気にしていたのは自分でした。

どんなに貴女を好きになっても、所詮結ばれぬ運命……いずれ貴女は高貴な方と婚姻され、幸せになる方だと、自分に言い聞かせていました。」



「………。」



「リラ様と過ごしていた時の私は、とても幸福でした。しかしその結果、リラ様をより苦しめる事になった。

それなのに、私は無責任にも貴族社会から逃げました。

そして貴族社会で生きていかねばならない貴女が、辛い思いをされている事も知らずに、私は安穏と過ごしていたのです。

お手紙を頂いてからも、私は何も出来なかった。

貴女が運命を受け入れ『幸せになられる』事を祈念する事しか出来ませんでした。

しかし、思いがけず今日お会いした貴女は『幸せ』とはかけ離れたお姿でした。」



……そう、私には彼女のあのような姿が耐えられなかった……



「……責任…を感じておられるだけ……なのですね?」



「いえ、責任感だけで命は張れません。

私はリラ様が今でも大好きです。

貴女には笑顔が似合う。

どこにいても、誰といても貴女には幸せになってほしい。……

そう望んでいるからです。

今日、侯爵家別邸に来る事が出来たのは、天が私に与えてくれた唯一の機会だったのかもしれません。

今迄、私は大好きな女性の為に何も出来なかった。

……せめて、選択肢がなかった貴女に自分の人生の選択の機会を差し上げたいのです。」



「……もし、わたくしが行かないと決断したら…ユーゴ様はお姉様と婚姻なさるのですか?」



「いえ、絶対に致しません。

リラ様が、王妃となられ、ご自分が幸せになれると判断されたなら、私は1人で逃げます。

大事な事ですので、結論は急ぎませんが、また明晩お顔を見に参ります。

それでは、お休みなさい。」



微笑んで別れを告げ、魔法を詠唱し、自宅に戻った。






リラ嬢の迷いは当然の事だ。突然現れた私が、無茶な事を言い出したのだから…今日の今日、すぐに決められる訳もない。


私に手紙を送った時なら、迷わず冒険を選んだだろう。

だが、今はどうだろう?


もし、現状維持を望むなら、それはそれでいい。


自由を選ぶなら……

高貴な令嬢が、国や家族を裏切り、他国の平民になる。国家反逆の大罪人として、何処にいても、一生追われ続けるかもしれない。先行きは見えない。

それでも、人間らしく自由に生きたいと彼女が望むなら、私は全力で守るだけだ。

そして、自由を手に入れ、彼女が他の誰かと幸せになるなら、私は身を引こう。

今の彼女にとって、自由への唯一の希望は、私だけなのだ。頼れる相手は、今は私しかいない。



……彼女にはいつも選択肢がなかった。自由になった彼女を私が縛る事はしたくない。……



運命に流されるのではなく、自分で選んだ道なら、どちらの選択でも、この先辛い事があっても大丈夫だろう。


1人で逃げる……それでも構わない。この国の貴族社会は歪だ。

平民の生活は悪くなかったが、この国にいる限りクレール嬢の手から逃げる事は叶わないだろう。

聖印の為、最初から騙すつもりで嘘を重ねた。だが、彼女に対しての罪悪感は全くない。



クレール嬢の顔を思い出した途端、悪寒がした。

…しかし、途中で見えたあの浅黒い顔の女性は?…全く記憶にない。



……男娼になど、なって堪るものか!……






翌日、仕事先に辞表を提出しに行った。

出版社にも、手持ちの原稿を渡し、連載休止の旨を伝えた。

クレール嬢には『猶予を』と言ったが、事務的な手続きは1日で終わる。

リラ嬢の決心が固まる迄の時間と、聖印を得て魔法結界を抜け、隣国に渡り、新たな転移場所を確保する時間の猶予が欲しかった。



念の為、当面の食料や日用品、平民女性の服などを購入し、郊外の別荘に行った。

『聖少女の冒険』や自分が書いた小説などは既に別荘に置いてある。

もし彼女が、逃亡を選んだなら……

彼女は『リラの冒険』を気に入ってくれるだろうか?



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