【59】※ Customer support center (お客様対応室) Part② ※
また更新が遅くなってしまいました。
もう毎回の事ですが……反省
しかしダラダラと書き溜めたストックがまだありますので、次話は近日中に投稿する予定です。
読んで頂けたら嬉しいです!
一度手本を見せられたからと言って、ライラックはすぐに実践できないだろう…だが、これ以上を望むのは難しそうだ。
「あの、最初は自分が全てやってみてもよろしいでしょうか?」
俺はジェシーに提案した。
「ユーキさんが全てですか?……それは構いませんが。」
「ちょ、ちょっと……」
ライラックの不服そうな声は無視した。
「それと出来ましたら、筆記用具がありましたら助かるのですが。」
「筆記用具ですか?…紙とペンでよろしいですか?」
「はい、それと出来ましたら付箋、蛍光ペンもあれば有り難いです。」
ジェシーは不審顔で机の引き出しから紙とボールペン、付箋、蛍光ペンを出した。
……文具は当たり前にあるんだな、会社だから…か?……
「……これでよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます、助かります。」
俺は微笑んで筆記用具類を受け取った。
「この部屋にプリンターはないのですね?」
「はい、ございません。」
「了解致しました。」
俺はそう言うと、紙に正方形と長方形を描いた。
「ユーキさん、それは?」
「プリンターがあれば画面をプリントアウトしたかったのですが…
画面とキーボードを模した絵ですね。……模すと言うのもおこがましいですが…。」
そう言いながら付箋にもメモ書きをした。
「では、研修ご指導お願い致します。」
不満気な表情と不審な表情に対し、俺はつとめて明るい声を出し微笑んだ。
「対応中に何かございましたら、お客様の了解を得た上でミュートにしてください。本来お客様をお待たせする事は好ましくありませんが、研修なので致し方ありません。私が代わります。それでは始めてください。」
「了解致しました。それで、このシステムでは、ミュートにするのはスペースキーでよろしいのでしょうか?」
……全くお粗末極まりない。一度やって見せたからと言って、具体的なマニュアルもなく、なんの説明もせず、いきなりやれ!と言われて出来る者はそうそういないだろう。特に端末自体見た事もない人間、いや魂は。
それに用語……「ミュート」をライラックが理解出来るとは思えない。不親切にも程がある……
「…その通りです。」
ジェシーは俺の思いに気付いたのだろうか、少し気後れしたような声で返答した。
「…ねぇ、ミュートって?」
「保留……要するに通話途中でも相手にこちらの声や音が聞こえなくなるようにする事だよ。」
「ホリュウ?……そうなの?」
「監督官、すみませんが他に必要なキーとその用途について簡単にご説明頂けますか?」
「……そうですね、わかりました。」
ジェシーは、本当に簡単に各キーの役割を話した。なんの事はない。使うのは、『コントロール、エンター、スペース、終了』たった4個のキーのみだった。
『コントロール=回線を繋ぐ』
『エンター=電話に出る』
『スペース=保留、保留解除』
『終了=電話を切る、入力後初期画面に戻す』
……たった4個のキーでも、不慣れな者なら押し間違えるかもな……
「確かに、こちらの端末の扱いは簡単なようですね。」
顔を上げずにそう言いながら、俺は付箋と絵を描いたA4の紙に書き込みをした。
「その筈です。研修中は音声を外部にも聞こえるように設定してありますが、その切替方法もご説明しましょうか?」
「いえ、それは結構です。
しかし、簡単とはいえ、やはり不慣れな者にとっては、マニュアルに記載して頂いた方が良いと思います。押し間違いも減ると思いますし。」
……大体こんな簡単に説明出来る事なんだから、たった1、2行マニュアルに記載すればいい事なのに…徹底して習うより慣れろ方式か……
「……ご参考にさせて頂きます。」
不愉快なのか、声が低い。
顔を上げてジェシーの表情を見た。
少し驚いたような顔をしている。
……以前、押し間違いがあったのだろう……
「ありがとうございます。それでこちらの端末は検索専用なんですね。」
俺は話題をもう一方の端末に変えた。
「左様でございます。こちらは質問内容を入力後、エンターキーを押して頂ければ、解答が得られます。また、初期画面に戻す際は、終了キーです。」
こちらが聞く前に概要は教えてくれたが、もう少し詳しく説明出来ないものか。
「質問内容は、先程監督官が入力されていたように、転移転生先の次に※印、更に質問内容に沿って端的な文言、区切りは全て※印でよろしいのでしょうか?」
「左様でございます。」
「了解致しました。少しお時間を頂きたいのですが…よろしいでしょうか?」
「それは構いませんが……。」
「ありがとうございます。」
俺は再び視線を落とし、暫くA4用紙と付箋に書き込みを続けた。
「それでは、実施研修を受けさせて頂きます。なにか不都合がありましたら、心の声でご指導の程、よろしくお願い致します。」
……やっぱ、最初はアナログだよね〜♫……
そう思いながら、俺は両方の端末のキーに付箋を貼り付けた後、インカムを手にとり言った。
「はい、色々とご尽力ありがとうございます。それでは始めてください。」
先程とは違い、俺の意図がわかったのか、ジェシーは表情を和らげて開始の許可を出した。
コントロールキーを叩きオンラインにした途端、早速着信音が流れた。
画面が切り替わり、顧客の情報画面が出た。
『名前:マリー(聖女)
スキル・アビリティ:回復魔法、精霊召喚
転移先:【転生聖女…新たな妃候補の誕生】(小説)
現在の状況:初期(第三章王都)
前回の内容:初期(第二章精霊の祠)
「新たに別の聖女が現れた。小説の内容と違う。」とのクレームがありました。
契約書の約款に記されていた通り、お客様の行動如何で、小説の内容と違う展開結末もあり得る事を説明させて頂きました。
「行動も何も最初から違うじゃない!」とお怒りのご様子でしたが、一応ご納得頂きました。
担当者名:クリスティ』
……やたら細かい文字が羅列されている(多分誰も読まない)約款ね……
俺は、EnterKeyを軽く叩き即座に言葉を発した。
「お待たせ致しました。異世界コンツェルンお客様対応室、クリスティが承ります。」
「ほんっとうに待ったわよ!どれだけ待たす気っ!!」
……どこのコールセンターも回線が混み合い、なかなか繋がらなかった記憶がある…ここも然りか。しかし、最初から戦闘モードだ……
「お待たせ致しまして、大変申し訳ございません。」
俺は頭を下げながら応じた。
「本当にふざけないでよねっ!!」
……別にふざけてはいないが……
「お待たせ致しました事につきましては、誠に申し訳ございません。」
俺は更に深く頭を下げて言った。
「もういいわよ!そんな事より王子様達の気持ちがあの淫売聖女に傾いているのっっ!!なんで!?」
……なんて言葉遣いだ…仮にも聖女だろうに……
「そもそも小説では、聖女が2人存在なんてしてなかったわっ!!どういう事よ!!」
「マリー様、お怒りは十分理解致しました。原因をお調べ致しますので、暫くお待ち頂けますか?」
「まだ待たせる気っ!?
アンタの会社のシステムとかいうヤツ、壊れてんじゃないっ!?」
「原因をお調べし、何かお役にたてるようなアドバイスをさせて頂きたいと愚考しております。
弊社と致しましても、マリー様にご満足頂ける人生を送って頂きたいと切に願っておりますので、今暫くお時間を頂けないでしょうか?」
「……わかったわよ……早くしてよね!」
……少しトーンダウンしたが、急いだ方が良さそうだ……
「ありがとうございます。それでは、このまま暫くお待ち下さいませ。」
スペースキー
PCがオレンジ色の画面に変わり、オルゴール音が流れ、保留状態になった。
【あとがき雑学】
※極まりない
※極まる
本文中に「全くお粗末極まりない」と書きましたが、ふと「極まる」でもよかったかな?と思いました。
そういえば両方とも同じ意味で使いますよね。
因みに『極まる』は動詞、『極まりない』は形容詞です。
『ない』がつくので、否定形のように感じますが、『極まる』の否定形は『極まらない』です。
『極まる』の意味は「物事がこれが果てという所まで来る」なので『極まり・ない』は「果てがない」という事になります。
『極まりない』の方が少し強めの表現なのかもしれませんね。




