【58】※ Customer support center (お客様対応室) Part① ※
区切り悪い所で投稿の間が空き過ぎ…反省してます(汗)
「それでは、部屋にご案内致します。」
ジェシーの案内で、ライラックと俺は、殺風景な部屋にある唯一の扉を抜けた。
そこは広いホール…その壁には、無数の扉がある。
「それではこちらにどうぞ。」
ジェシーはその一角にある扉の一つを開き、俺達を招き入れた。
……毎度、無駄に広い空間の割に、各部屋は狭いのな……
四畳半程の広さで、部屋の真ん中に大きな机があり、3人で入ると閉塞感があった。机にパソコンらしき物4台と電話らしき物が2台設置されている。
……PCは2台使うのか……
「……先程ユーキさんからご指摘がありました通り、当社のマニュアルには、かなり不具合があると思われます。
それにまだ実例も然程ございませんし…ご参考にはなりませんね。」
……意外に素直に意見を受け入れてくれたな……
「本来、やるべき事ではございませんが、最初に私がお客様対応を実践致します。ご参考になさって下さい。」
「ご厚情、感謝致します。」
俺が礼を述べると、ジェシーは微笑みながら言った。
「いえ、貴重なご意見、ありがとうございました。」
……まんま、コールセンターの決まり文句だ……
「それでは始めましょう。」
ここの設備も俺の知る物と寸分違わなかった。
PC、キーボード、電話の仕様。
……それにしても、俺の知らない技術がある割には、使用している機器には進歩がみられない…何故だろう?……
「こちらの画面をご覧下さい。」
インカムを頭に装着しながら、ジェシーは言った。
「……ガメン……?」
「ここだよ…。」
小声で呟くライラックに俺も小声で応じながら、小さく指を指した。
「……ライラックさん、ご質問があれば、大きな声でお願いします。」
「は、はい…。」
画面上には特に何も映っていなかった。
「ですが、今回は研修ですので、お客様との会話は室内に流れるように致します。
お客様対応中は、一切声を出されないように。
ご質問はまとめて後で伺いますので。
それでは回線を繋ぎます。」
ジェシーは慣れた手つきで、2台のPCを起動させた。
オンラインにした途端、早速着信音が流れた。
1台の画面が切り替わり、先程の説明通り顧客の情報画面が出た。
『名前:ゲール(魔法使い)
スキル・アビリティ:召喚魔術、高等黒魔術
転移先:【勇者パーティー田舎へ帰る】(ゲーム)
現在の状況:初期(最初の町)
前回の内容:「勇者パーティーが見つからない」とのお問い合わせがありました。
酒場、武器屋、教会などで聞き込みをして頂くよう、依頼致しました。
担当者名:スズキ』
……スズキ?…鈴木…日本人か?……
横にいるライラックは不安気な表情で、画面を覗いている。
ジェシーが、EnterKeyを軽く叩くと即座に言葉を発した。
「お待たせ致しました。異世界コンツェルンお客様対応室、スズキが承ります。」
「…あのさぁ、さっきも連絡したよね。まだ見つからないんだよね。」
「勇者パーティーが見つからない件でございますね?」
「そう…ちょっと町で聞いたんだけど、もう面倒だから…そっちにさぁ、攻略本とかないの?」
……トンデモない事言っていやがる、コイツ……
「お調べ致しますので、暫くお待ち頂けますか?」
「うん、早くしてよ。」
「畏まりました。では、このまま暫くお待ち下さい。」
スペースキー
PCがオレンジ色の画面に変わり、オルゴール音が流れた。保留中という事か。
ジェシーは素早くもう1台のPCに向き直り「勇者パーティー田舎へ帰る※最初の町※勇者パーティーメンバー」と打ち込んだ。
『※酒場で寝ている男(剣士)
※武器屋の前に座っている男(勇者)
※教会の礼拝堂にいる女(僧侶)
※町中を徘徊している男(魔法使い)』
画面に映し出された『攻略情報』らしき物を眺めて
……!…あるんだ!……
俺は呆れた気持ちでそう思った。
ジェシーは保留を解除した。
「ゲール様、お待たせして申し訳ございません。」
「わかった?」
「はい。パーティーはまだ存在せず、メンバーになる方々は町中にいらっしゃいます。」
「なんだ〜、だったら最初から教えてくれれば良かったのに…。
まぁいいや。で、どこにいるの?」
……コイツ、一体何を考えているんだろう?
バーチャルゲームをやっている訳じゃない。
転移した以上、本当の自分の人生だ。……
ジェシーが懇切丁寧に、メンバーの居場所を説明している間、俺の表情は強ばっていた。
ふと、横を見ると、先程迄不安気だった彼女の表情も変わっていた。
……怒っている……
「…お電話ありがとうございました。スズキが承りました。…はい、失礼致します。」
電話を切り、今回の問い合わせ内容と対応を打ち込み終え、ジェシーがこちらに視線を向けた途端、ライラックの怒りが爆発した。
「…この人は!…馬鹿なんですか!?なんで自分の進むべき道を探す事が面倒なんですか!?なんで自分の人生なのに、他人に聞かないと前に進めないんですか!?…こんな馬鹿の為に助言する貴女も馬鹿ですか!?」
「ライラック、言い過ぎだよ…。少し落ち着こう。」
彼女の言い分には大いに賛同するが、それ以上キレて暴言を吐かれると困るので一応宥めた。
「……ライラックさん、仰る事はご尤もですが、口を慎んで下さい。」
ジェシーが眼鏡の縁に指をかけ、冷たい視線をライラックに向けている。
「これはあくまでもビジネスですから、お客様が第1です。」
『お客様は神様です』…そんな言葉を聞いた事がある。特に日本では『おもてなし』精神が根付いていて、それはそれで素晴らしい事なのだろうが、過剰な上下関係はやはりおかしいと思う。
美味しいご飯を提供してもらい『ありがとうございました』と言われた事に対し『ご馳走様』と言えない客はどうなのだろうか?金を払えば偉いのだろうか?
食事の対価として金がある。お互いの立場は同等なのに…。
そんな事を思っていたら、以前抱いた疑問がまた湧き上がってきた。
……金を払う?…では、この世界のお客様はどんな対価を払っている?……
「……多分、答えて頂けないとは思いますが……」
切り出した俺の言葉に、ジェシーの冷たい視線は警戒の色に変わった。
「…なんでしょうか?」
「ビジネスとおっしゃいましたが、お客様からの対価とは何なんでしょう?お金ではないですよね?」
「……それは、お答え出来ません。」
「……だと思いました。ガスパールさんにも答えて頂けなかったので。」
「……左様でございますか。」
「ジェシーさんは対価が何かご存知なんですね?」
「申し訳ありませんが、その問いにはお答えする事は出来ません…今は。」
「了解致しました。いずれ正式な社員になれば、わかるという事ですね。」
……今迄考えた事もなかったが、正社員になればわかるなら、以前社員を経験したチームメイトに聞けばいいのだろう……
そんな事を思いながら、少しジャブを打ってみただけだが……
ジェシーは少し驚いた表情になったが、すぐに真顔に戻り言った。
「正社員になれたら…の話ですがね。」
……なれたら?…ニュアンスとしては『なれるものならなってみろ!』的に感じる……
「……それは、どういう……」
「ユーキさん、研修中のご質問は業務に関わる事に限定させて頂きます。よろしいですね。」
「……承知致しました。」
「ライラックさんもよろしいですね。」
まだ怒り収まらぬ表情のライラックは、まだ何か言いたげだったが小さく頷いた。
「…はい…。」
「では…まずライラックさん。先程からのご様子を見て察するに、貴女はこういった機器をご覧になるのは初めてですね。」
「はい。」
「……では、今回の研修では、機器の扱いはユーキさんに任せ、貴女はお客様の対応だけをお願い致します。」
「……はい?」
「機器の扱いから始めたのでは、研修中のノルマをこなせないと判断したからですが、何かご不満でも?」
「……いえ、大丈夫です。」
ライラックはどこか不満気な様子だったが、確かに監督官の判断は間違っていないだろう。
「ライラック、監督官の仰る通りだと思う。いずれここで働く事になれば、全て教えて貰える筈だから、今はそうしよう。」
「…そうね。わかったわ。」
「後、今はお客様に腹を立てても仕方がない。そういう物だと割り切って、対応するように心がけてくれ。」
ライラックは、不満そうな顔をしたが小さく頷いた。
「…それもわかったわ。」
「とにかく2人で頑張ってみよう。」




