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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ライラック ※
58/86

【57】※ Practical training(実技研修) part10 ※



……まんま、コールセンターマニュアルだな。……



マニュアルには、全く当たり前の事しか書いていなかった。


曰く



※お客様相談室は「会社の顔」、顧客対応の質が問われる。


〈必須〉

・一般常識やマナー

・言葉遣い

・声の出し方やトーン


マナーや言葉遣い、「声の印象」や「言葉遣い」にも注意する事。



※使用するシステムの取り扱いに慣れる。


〈必須〉

・お客様との会話を漏らす事なく、入力出来る技能

・システム活用の為の操作



※トークスクリプト

(顧客対応の台本として)


・オープニング:挨拶・名乗り

(会社名、『氏名』を伝えて挨拶)

・メイントーク:問い合わせ対応

(困りごとをヒアリングして問題解決を行う)

・クロージング:確認・挨拶

(問題解決の確認、最後にお礼の言葉で締める)


誰でも同じレベルでトークできるよう、抑揚を揃える。



……だそうだ。

インバウンド専門のコールセンター業務らしい。……



そんな事を思っていたら、横から小声が聞こえた。



「ねぇ……何、これ?」



「?…これって?」



「しすてむ、って何?」



横のライラックを見ると、顔を伏せたまま、少し震えている。



……そうか、ライラックはおそらく知らないのだろう……



「多分、パソコン…いや、機械を操作するプログラム…いや、仕組みの事だと思うよ。」



「機械って何?」



……改めて聞かれると、言葉に窮する。『動力を用いて操作する装置』?……



「便利な箱だよ。」



「……何よ、それ……。」



「説明するのは難しいな。俺もそんなに詳しくないし…。」



「でも、知っているんでしょ?

それに、トークって、誰と話しするって言うのよ!?」



「それは、『異世界』に渡った魂とだろ。」



「ふざけないでよ!!異世界に渡った魂がここに来るとでも言うの!?」



「いや、来ないだろう。

多分、電話的な物を利用して……」



「デンワテキって何!?」



……電話も知らないのか……



「電話、な。遠く離れていても、会話が出来る便利な道具だよ。

ただ、ここで電話を使うかどうかは俺にもわからないけど。」



ライラックの震えが激しくなったように思える。



……なんか…ヤバいかも……



ライラックが顔を上げた。怒りの表情で、俺を睨みつける。



「あんたはいいわよね!!知識があって!!」



なんと返答していいのか、そもそも返答しない方がいいのか……

更に怒鳴られる事を覚悟して、俺は黙って次の言葉を待った。



「……せっかく……せっかく私の望む『異世界』に繋がる会社に研修に来れたのに……何もわからない……」



怒りの表情から一変、悲しそうな表情で呟くように言った。

ポロポロと涙を溢し、泣いている。



……更に言葉をかけづらくなったな……



暫く俺は黙っていたが、思い切って声をかけた。



「何もわからなくても構わないと思う。」



ライラックは泣き濡れた顔を俺の方に向けた。



「そもそも、研修なんだ。

わからなければ、聞けばいい。

時代が違えば、知らない事があって当たり前、ってトーマも言っていたしな。」



「……トーマが?」



「そうだよ。

俺だって知らないシステムもここにはある。」



「ユーキも?……だけど出来ないじゃ済まされない。研修の点数次第で消えるかもしれないのよ……私達……。」



「そんな、短絡的に考えなくても大丈夫だろ。

俺達のチームはみんな頑張っているし、ライラックだって望む行き先が出来て、ヤル気が出てきたんだろう?」



「……そうだけど……」



「向き不向きがそれぞれあるから、バディーはお互い助け合うんだってさ。これもトーマが言っていたんだけど…。

俺もここで何が出来るかはわからないけど、ライラックが苦手な事は、出来る限り助けるよ。」



「……本当に?……」



「勿論。その為のバディーだろ。」



「……だけど、私は助けられない……」



「わからないぞ。俺がダメダメで、ライラックが得意な事だってあるかも、だし。」



ライラックはフッと微笑んで言った。



「ユーキ、ありがとう。」



……微笑んでいるライラックは本当に美少女だと思う……メンタルの波さえなければ完璧だろうに……



そんな事を思いながら、俺も少し微笑んだ。





「お話は終わりましたか?」



奥からかけられた声に一瞬、ビクッと身体を強張らせたライラックが応えた。



「は、はい。すみません。」



……何も謝らなくともいいのに……



「『すみません』は余計です。」



ジェシーは俺と同じ事を思ったのだろうが、言葉はキツかった。



「ライラックさん、お客様対応で一番良くない事は、無闇に謝る事です。」



奥から姿を現したジェシーは、眼鏡を光らせ厳しい表情でライラックに言った。



……う〜ん、アメリカのやり手キャリアウーマンって感じだな……



「謝罪する時は、『何』に対して謝っているのか、ハッキリお客様に伝えねばなりません。

ただ『すみません』と言えば、なんでもかんでも、全てこちらが悪いと認めたようなものです。」



「は、はい。」



「例えば『私の説明不足で、申し訳ありません』とか、『お返事が遅くなり、申し訳ありません』等。わかりますか?」



「はい。」



「……でしたら、以後気をつけて下さい。」



「はい。」



ジェシーは、また下を向いたライラックの前に座り、今度は俺に視線を向けた。



「ユーキさん、マニュアルについてご質問はありますか?」



……マニュアル限定ですか……



「はい。マニュアルを読む限り、使用するのは電話だと思うのですが?」



「…その通りです。」



「トークスクリプトの名乗りですが、私の場合『ユーキ』でいいのですか?」



「いいえ。一人のお客様には専任の担当者が毎回対応している事になっています。」



「やはり、お客様のプライドを満足させ、信頼を得る為ですか…。

変声機か何かで、誰が発しても同じ声に聴こえるようにでもなっているのでしょうね。」



ジェシーは少し驚いた表情をみせたが、すぐ元の無表情に戻った。



「その通りです。特にここではクレーム、悩み相談を受け付けていますので、何よりお客様との信頼関係が大事なのです。」



……信頼関係ね……全くの別人を1人の専任担当者に仕立て上げる…ある意味詐欺だな……



「なるほど。では、名乗りはどうすればよいのですか?」



「コールの際、画面にお客様情報が表示されます。

お客様のお名前、スキル、アビリティ、転移転生先、現在の状況、前回のお電話の内容等ですね。担当者の名前は画面右下に表示されます。」



「その右下の名前を名乗れば良いのですね。」



「そうです。必ず画面を確認した上で、電話に出て下さい。」



「……誰でも同じレベルでトークできるよう、抑揚を揃える…これも『同一人物』に成りすまし、偽装する上で、必須なんですね。」



棘のある言い方に、ジェシーはムッとしたようだ。



「まぁ、その通りですね!」



「失礼致しました。抑揚を揃えるのは、コールセンターなら当たり前でしたね。」



「……ユーキさんは、何か含みのある言い方をされますね。」



「いえ、私の言い方がお気に障ったのであれば謝罪します。」



ジェシーが先程言っていたコールセンター風に俺は謝った。



「……まあいいでしょう。…他に何かありますか?」



「……そうですね、マニュアルが心構え主体に思えます。」



「心構え?」



「前回も思ったんですが、マニュアルを読んではいましたが、実際の業務においては、ガスパールさんの心の声だけが頼り、みたいな状態で仕事をこなしました。」



「……それは……」



「会社設立から日が浅いと伺っていますので仕方ないと思いますが、もう少し具体的な内容を記載して頂けたら、研修生の我々も助かります。」



「具体的ですか……。」



「例えば、先程伺った画面の内容や使用する機械、あるいはシステムについて。またその操作方法等。

『マニュアル』とは、本来それを読んだだけで、仕事内容の60%は理解出来る物です。

失礼な言い方になりますが、御社のマニュアルでは、知識のない者にとっては、10%の理解も難しいと思います。」



「……10%ですか……。」



「それに、クレームの内容等で自分では対処が難しくなった場合の取り次ぎ先、SV…スーパーバイザーはいないんでしょうか?…」



「スーパーバイザー…ですか。特にはいません。」



「……あぁ、『専任担当者』が重要なんですもんね。でも、担当者より上の者であれば、お客様も悪い気はしないと思いますけど。」



「悪い気はしない?」



「専任の者でも難しい案件の場合、それより上の者も自分の問題に関わってくれる。それだけ自分の事を大事にしてくれている。

お客様は良い方に思うと思いますが。」



「……そう、かもしれませんね。」



「色々申し上げて、失礼致しました。

より良いマニュアルとそういった流れで、少しでも御社の仕事が円滑になればと、僭越ながら申し上げた次第で……。」



俺はジェシーに口を挟ませない勢いで饒舌に語った。



……まぁ前々から思っていた事だから、流暢に語れた訳だが、もしや更に監督官の気に障っただろうか?……



「……仰る通りかもしれませんね。参考にさせて頂きます。」



意外にもジェシーは、怒りもせず、少し微笑みながらそう言った。



「そう言って頂けて、嬉しく思います。」



俺も笑顔で応えた。



「…それでは、本日は私がSVをさせて頂きます。ユーキさん…はともかく、ライラックさん、わからない事がございましたら、遠慮なくお聞き下さい。」



「は、はいっ!」



急に振られて、ライラックは畏まった様子で頷いた。

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