【56】※ Practical training(実技研修) part9 ※
復活!と高らかに宣言してから、また5ヶ月……
毎日投稿の筈が半年に1回ペースになってしまいましたm(_ _)m
ともかくリアル生活に余裕なし!
……言い訳は以上
また読んで頂けたら幸いです。
「……ライラックは、異世界コンツェルンは初めてじゃないんだよな?」
次の研修先へ向かう途中、俺は聞いてみた。
かなり機嫌が良い様子に思えたからだが……
「…なんでそんな事聞くのよ!?」
少し苛立った口調で、返された。
「いや、アンリがライラックからこの世界の色々を聞いたと言っていたし、俺も多分初めてだから、知っているなら教えてもらえれば有り難いと思ったから……。」
「…ふ〜ん、そういう事?
あんたは、トーマから聞いたんじゃないの?
だったら、同じよ。
私も最初はトーマから聞いたんだから。」
……最初はトーマから?……
「……そうか。
ライラックは、以前もトーマと同じチームだったのか?」
「そうよ。それが何!?」
「……いや、ライラックのさっきの話から推測すると、今回が初めてなのかとも思ったんだけど……。」
「……この会社は2度目。前回は失敗したのよ。
行きたい場所なんて特になかったから、長々異世界コンツェルンで働いた挙げ句、適当に行き先を決めてね。」
「適当に決めた?」
「だって、望んでいたのは、『小説の世界』よ。
当時は、このコンツェルンは扱ってなかったんですもの。
あんた達の時空軸とやらで、普通に人生全うしたわ。
変わった子供で、変わった娘と言われ続けて、最悪の人生。
正直、またここに戻った事に、絶望していたのよ。
だけど、あんた達の話を聞いて、本当に嬉しかった!
それに今回の研修先は、その『異世界』に関係する部署じゃない!?
私は今度こそ、望む先に行く為に頑張るわ!」
嬉しそうに瞳を輝かせるライラックを見ながら、俺はもう一つの疑問を投げかけてみた。
「ライラックは、その転生転移先で、何か偉業を成し遂げて、歴史に名前を残したとかはないのか?」
「はぁ!?
ある訳ないでしょ!
片田舎の農家で産まれ育って、周りからは偏見の目で見られ、果ては『魔女』扱いされて、処刑された。最悪よ!」
「魔女?処刑!?……まさか、百年戦争とかに参戦したとか……」
「百年戦争?何よ、それ。」
レオン、アンリは、歴史に名前が残った人物だった。
ハル、トーマも多分そうだ。
一瞬ライラックも『ジャンヌ・ダルク』なのかと思ったが、違ったようだ。
……歴史の偉人縛りは、見当外れだったようだ。……
「……その、サミーには酷い目にあったね。もう、大丈夫なの?」
おそらくは、触れてはいけない話題だろうが、敢えて聞いてみた。
ライラックの表情が変わる。
「あんた……いったい、さっきから何!?
私に質問ばかり……」
微笑みから怒りの形相、そして何かを考え倦ねるような表情へと変化する。
「まぁ、いいわ。
サミーの時は取り乱して、恥ずかしい姿を見せたわね。
もう大丈夫よ、忘れたから。」
……もう忘れたんだ、凄いな……
「後ろばかり見てたら、前が見えないもの。
それに、今度こそ私の望む異世界に行けるなら、嫌な事も忘れられるってものよ。」
「前向きだね。」
「そうよ。あんたと違ってね!
……でも、あんたはやっぱり変わったわね。
他人に興味を持つようになった。
……それとも、私に興味を持ったのかしら?そんな訳ないわね。」
ライラックは小さく笑った。
……はい、そんな訳ありません。……
俺も何も言わず、小さく微笑んでみせたが、彼女の視線は既に別の場所に向いていた。
「着いたわよ。『お客様対応室』に。」
「失礼します!
研修で参りました……」
ライラックが少し上擦った声で、名乗りをしていると、ドアが開き、年配の女性が顔を出した。
「研修でいらしたんですね。
挨拶は結構ですので、中にお入り下さい。」
眼鏡のフチに指をかけ、早口で俺たちの入室を促した。
……ここの監督官はこの女性なのか。神経質そうな人(魂)だな。……
「は、はい。失礼します。」
「失礼します。」
室内へ入った。
中は広々とした空間で、余計な物は一切置いていない殺風景な部屋だった。
奥にポツンと事務机らしき物があるだけだ。
「ライラックさんと、ユーキさん。お名前はそれで間違いありませんね?」
「はい。」
「はい。」
「私は、担当監督官のジェシーと申します。
それでは、早速研修に入らさせて頂きます。
こちらへどうぞ。」
ジェシーに導かれ、奥にあった事務机の前に、2人並んで座った。
「まず、この『お客様対応室』ですが、設立されてから然程経ってはおりません。
……ユーキさんは、前回研修を受けられているので、多少ご存知かとは思いますが、こちらの部署は、『異世界レセプション』の分室のような物です。」
「質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
「『異世界レセプション』という会社の一つの部署と考えて、よろしいでしょうか?」
「……そうですね、仰る通りです。
『異世界レセプション』の設立とほぼ同時に、必要不可欠な部門として誕生した部署です。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺と監督官が話をしている間、ライラックは、瞳をキラキラさせながら、ただコクコクと頷いている。
「その名の通り、異世界レセプションから『異世界』に転移転生された魂……いえ、お客様からの相談、苦情などをお聞きし、対処するお仕事となります。」
……相談?苦情?……
「すみません、また質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
「よくわからないのですが……
通常の転移転生では、魂が融合すると、ここでの記憶は暫くすると無くなると聞いていましたが、この特殊な『異世界』では、今の自我を保ったまま、記憶も無くさず、その世界で生きられるという事なのでしょうか?」
「……ユーキさん、そのご質問にはお答え出来かねます。」
……ガスパーと同じ答えだ。……
「ただ、こちらで扱う『異世界』は、御自身の魂や、親和性のある魂と融合する訳ではございませんので、通常とは少し異なる面もございます。」
「同調訓練……。」
一瞬、ジェシーは眼鏡の隙間からこちらを伺う視線を寄越したが
「左様でございます。」
即座に答えた。
「御自身の魂ではなくとも、暫くすれば馴染みます。
そうなれば、ここでの記憶も自我も、無くなる物と考えております。
実際、今迄『異世界』に渡られた方で、お客様対応室を利用される方は、渡られて間もない方々でございます。」
「では、ある程度『異世界』で過ごした魂は、ここでの記憶等は無くす、という事ですね。」
「……そのように推測されております。」
……推測されて?
まさか、実際どうなるのかは、把握出来ていないのか?……
「それって……」
「ご質問はそれ位でよろしいですね。
では、まずマニュアルをお読み下さい。
まだ完全とは言えませんが、こちらでのお仕事の内容が記載されております。
以降は、仕事の内容のみご質問を受け付けます。
私は隣室に控えておりますので、読了後、声をかけて下さい。」
俺の言葉を遮り、一方的に言いたい事を言って、ジェシーは席を立って、奥に消えた。
「……何、あれ?」
ライラックが小声で俺に話しかけてきた。
「……わからないけど、俺の質問に不都合があったんだろうな。」
「……あんたが余計な質問するから……。」
「……そうかもな……。ともかくマニュアルを読んでみよう。」
小声の会話の後、ライラックと俺はマニュアルに目を落とした。




