【52】※ conversation with~(会話) ハル② ※
「あの……、私、初めてなんですけど、その……『魔法の使える世界』に行って見たいんです……。」
……!!……俺は……?……
いつものように、誰かに揺り起こされる事もなく、俺は戻っていた。
……お辞儀をして、別世界に落ち、数秒もしない内に戻って来たのか?
あんなに長い間、暗闇を落ちていたのに。……
「魔法の使える世界でございますね?」
(((カウンター右三段目にパンフレットがございます。『魔法』の棚から、一部出し、お渡し下さい。)))
俺は、ガスパーの言葉通りの場所からパンフレットを出し、申込み用紙とともにハルに手渡した。
「こちらに、ご参考となるパンフレットがございます。
ご覧頂いて、お気に召す世界がございましたら、お申し付け下さいませ。」
ハルはそう言って、カウンター前にいる少女にパンフレットと申込み用紙を渡した。
それからも、次々と『お客様』はカウンターにやって来る。
新しい会社らしいが、商売繁盛といった盛況ぶりだ。
……しかし、これだけ多くの『異世界』希望者がいるとは……
確かに、生存している世界と全く違う世界、そこで何らかのアビリティ、スキルを持って、活躍出来たら、さぞかし胸躍る人生になるだろう。
俺もゲームやアニメは、ここに来る前にプレイしたり、観たりしていたのだろう。
『知識』として知っている。
疑似体験……一時、現実を忘れ、主人公に成りきって楽しむ物だった。
……だが、ここに来る『お客様』達は、その世界で、どう生きるのだろう?
「どうせ結末はわかっているんだから」
そう言った女性もいたが、本当に結末は同じなのか?
もし、同じだとして、結末がわかっている人生をなぞる事は、本当に自分の人生と言えるのか?……
(((……左の4番目の棚でございます。)))
ガスパーの声で、ハッ、と我に返った。
4番目の棚から『勇者募集』のパンフレットを取り出し、申込み用紙とともに、ハルに渡した。
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
(((ハル様、もう少し頭を……はい、その位で大丈夫でございます。)))
マニュアルが完璧ではないので、ガスパーの心の声だけが頼りだ。
しかし、書類の置き場所や、実践対応の仕方くらいは、載せておくべきだろう。
『異世界レセプション』のマニュアルは、心構え主体で、あまりにもお粗末、と言わざるを得ない。
……いや、ここだけではないな。
他の部署(会社)のマニュアルも、監督官の助言なしでは、研修が成り立たない物ばかりだった。……
(((お二人とも、お疲れ様でした。
研修修了でございます。)))
ガスパーの心の声とともに、先程の女性達がカウンター内に入ってきた。
(((お疲れ様でした。交替致しま〜す。)))
(((ありがとうございます。後はよろしくお願い致します。)))
((よろしくお願いします。))
ハルと俺はカウンターの扉を抜け、外へ出た。
「お二人ともに、大変優秀でいらっしゃいました。
私、感服いたしました。
是非とも、研修後はこの『異世界レセプション』へお越し頂ける事を願っております。」
「勿体ないお言葉、痛み入ります。」
「ありがとうございます。」
「もし弊社を選んで頂けましたら、ハル様の数々のご質問にも、お答えする事ができるやもしれません。
何卒、ご検討をお願い致します。」
「……感謝申し上げます。」
「ありがとうございます。」
「こちらがマニュアルとなります。
まだ不完全でございますが、どうぞお持ち帰り下さいませ。」
マニュアルを、恭しく、ハルと俺に手渡してくれた。
……マニュアルについて、少し改善点を進言した方がいいかな?……
そう思ったが、特に聞かれなかったのでやめておいた。
俺は、選べる立場になったら、まずここには来ない。
なら、余計なお節介になるだろう。
「大変お世話になり、有難く思っております。」
「お世話になりました。」
「それでは、またお会い出来る日を楽しみにしております。」
ガスパーは、扉を開けながらそう言い、おそらく俺達の姿が見えなくなる迄、お辞儀(45°)をして見送ってくれた。
「……ふぅ〜。……」
「お疲れになりましたか?」
「肩凝ったよ。俺、絶対あそこだけには、行きたくないな。」
「フフッ、しかしユーキは完璧に研修をこなしていましたよ。」
「普段からこんな感じの話し方だから、接客には向いていない。
……敬語や挨拶は疲れる。」
「そうでしょうか?
臨機応変に、対処出来る貴方は、すばらしいと思いますが。」
……そうだ、ハルに聞きたい事があった。……
「……ありがとう、ハル。……
少し聞いてもいいかな?」
「……はい。何でしょうか。」
「ハルは、今回望みを持って、過去への転生、もしくは転移を望んでいるって言ってたよな?」
「はい。申しました。」
「それって、どんな事か……俺に教えて貰えるかな?」
「フフッ、やはりユーキはだいぶ変わられましたね。
以前の貴方からは、出なかった質問のように思えます。」
「……そうかもな。」
「正直に申し上げますと、私は後悔しているのです。
自分が為してきた人生に汚点がある。
それを正したいと思っています。」
「汚点?」
「魂は転移しても、暫くすると今の記憶はなくなる。
また同じ誤ちを犯すかもしれない。
以前、挑戦致しましたが、結果は同じでした。
それでも、ここでの経験や、自分の思いが、何かを変えてくれるかもしれない。
淡い期待ですが。」
……ハルの答えは、漠然としている。
やはり直接『ハルはその時、なんという名前だったの?』と聞いた方が良かっただろうか?……
「……その……ハルがお辞儀が下手なのは……烏帽子が落ちると思うからかな?」
……何を言っているんだ、俺は!?……
「お解りでしたか……その通りです。
元々の私は烏帽子を頭に載せていましたので、転生し、時代が移っても、その癖が抜けず、苦労いたしました。」
「元々は、トーマと同じ時空から来たんだよね?」
「はい。トーマは前にも申しました通り、頭の良い男。
時代に合わせる事が出来ていると思います。」
「ハルはトーマを評価しているんだな。
……でもトーマはハルをどう思っているんだろう?」
「残念ながら、私はトーマに、嫌われていますし、その溝はなかなか埋まるものではないでしょう。
因縁がありますし……でも、あなたはトーマを嫌わないであげて下さい。」
「……うん……。」
…因縁!?……同郷、しかも同じ時空が起源の2人……
やはり……晴明なのか?




