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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ハル ※
51/86

【50】※ Fall dawn(落下)⑤ ※


帰京後、初めて私が宮中で帝に謁見した際、法師の姿はそこになかった。



「賀茂保憲殿、道満法師のお姿が見えないようですが。」



「……道満法師は宮中から、追放されました。」



「…!!…どういう事ですか!?」



私は、京中で持ち切りの噂話を、初めて聞いた。



「……そんな……法師……。」



「宮中でも、京に住まう人々の噂話を放っておく事は出来なかったのですよ。

それに、以前、道満殿は、貴族達の決定に異を唱えた。」



「……以前?…」



「晴明殿がまだ幼き頃、『化性の血を受けた者は、いずれ帝に害を為す。その者を排除する』という決定がなされました。」



……私の事だ。……



「それに真っ向から反論したのが、まだ新参であった道満殿でした。

私はお止めしましたが、道満殿は聞かなかった。

思えば、その頃から貴族の不興をかっていたのでしょう。」



「………。」



「『化性の血を持つなどと、有り得ない噂がある程、力のある者を排除するなど、実に勿体ない事です。()の者はいずれ、必ずや帝のお役に立てます。』そう、仰って。」



「……それで、私の実力を試す為、あの『長持占い』が催されたと……。」



「えっ?…はい。その通りでございます。」



……やはり法師は、わかっていたのだ。それをわかっていながら私の命を助ける為に。……



「法師殿は……法師殿はどこにおられるのですか!?」



「……残念ながら……市井の片隅で、お亡くなりになったと…。」



「…………。」



私は、その場に崩れ落ちた。



「……晴明殿、大丈夫でございますか?」



「保憲殿、それで……その数々の噂の出処は……。」



「……私にもわかりません。

おそらくは多数の貴族が、出入りの商人らに、それとなく流した物ではないかと……。」



………『そんなに泣くな、晴。』

『晴は賢いな。私がこれから色々教えて差し上げよう。』

『晴、烏帽子が落ちるから、そんなに頭を下げてはいけない。』……



私は泣かなかった。

胸に去来する悲しみ、怒り、全てを飲み込んで、立ち上がった。



「……晴明殿?…」



「保憲殿、私はこれから、戦います。陰陽師の名前を汚すかもしれません。表舞台には、二度と立たない。

陰陽道の頭は、保憲殿にお願いしたい。

宜しければ、『作られた虚な人気』の私の名前を利用して頂いて、構いません。」



私は、安倍晴明(あべのせいめい)の名前を捨てた。



それから、私は密かに宮中に舞い戻り、貴族の一人に匿われた。

勿論、表には立たない。

貴族同士の足の引っ張りあい、帝の跡継ぎ争い、その度に、裏で暗躍する者。

『道満法師』の仕業と噂された。

だが、それは全て私の復讐劇。

果ては、私を匿っていた貴族すら、落とし入れた。

呪術を駆使し、天文道で学んだ計算も用いた。





そして、歳月は経ち、私は京の町で、一人の少年に出くわした。



「……(せい)、何をやっている!?

陰陽道も捨てたのか?」



「!?」



「人の生き方は、顔に現れる。

酷く、醜い顔付きになったものだな。」



「……まさか……。」



「復讐心など何も生まぬ。

私がそんな事を望んだと思うのか?見縊(みくび)られたものだな。

私は己の命運をかけて、晴に期待をかけたのだ。

才能に恵まれていた若者に。」



「……兄様(あにさま)!?」



「これ以上、私の(かつ)ての名を(おとし)める事はやめてほしい。」



「……兄様……」



「晴、私は貴殿を見誤ったようだ。」



「……兄様、兄様!……」



未来永劫(・・・・)二度と会う事は(・・・・・・・)ないだろう(・・・・・)。」



「………道満……法師………兄様(あにさま)………。」



年端も行かぬ少年に、縋り付きたい気持ちを抑え、私はその場に立ち尽くした。

嘗ての法師が立ち去った後、私は泣き崩れた。

町の真ん中、人々が行き交う街道で、人目も憚らず、初老の私は泣きに泣いた。



「道満……兄様……」「ドーマン……アニサマ……」



地面が歪んでいる。涙で歪んで見えるのか?……いや、己の身体ごと歪み始めている。……悲しみや後悔で身体が溶け出していくようだ……

溶けて……漆黒の土に埋もれていく。既に視界もない。



『トーマ……アニキ……』………………………



……トーマ!?………晴……セイ……晴明……( せいめい/ はるあき)……ハル!?



……私…は……セイ?……ハル…なのか?……

……私は…………………



『ユーキ!』



混濁した意識に、活を入れるような声がした。



………そうだった、俺はユーキだ。……



そう思う間にも、沈んで行く。暗闇を更に深く……



『俺』の意識は、はっきりと戻った。



だが、泣き濡れた顔が、まだ涙で冷たい。



「トーマ……今、俺を呼んだよな。」



先程迄の道満法師に対する恋慕の気持ちが、まだ残っているのだろうか。

無性にトーマに会いたくなっている自分に気づき、頭を振った。



ハルは何かにつけ「貴方にはトーマが必要です。」と言う。

そして「トーマにも貴方が必要です。」とも。



ハルが安倍晴明だとしたら、何かが見えているのかもしれない……優秀な陰陽師だった筈だから……いや、違うな。

逸話では、人間離れした能力を持っていたとされる晴明だが、少なくとも、『俺』晴明は、凡人だった。



ハルは何を思ってそんな事を言うのだろう?……

ハルの転移転生の望みとは?



……思い切って、ハルに聞いてみるか……



更に闇を浮遊し、下へ落ちていく。



……研修は、どうなっただろう?

俺のせいで、今回は減点になるな。

ハルには悪い事をした。……



フッ、と笑いがこみ上げた。

人間は、環境、状況に慣れる動物らしい。

以前と比べると、この暗闇を落下する浮遊感にもだいぶ慣れたようだ。



……落下しながら、研修の事を心配するとは、我ながら、薄情…いや、余裕だな。……



先程迄の痛むような悲しみ、後悔は薄れ、以前のような焦りも不安感もない。

それが良い事なのか、悪い事なのか……自分にもわからない。


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