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ようこそ、異世界コンツェルンへ♪   作者: 三芳(Miyoshi)
※ ハル ※
49/86

【48】※ Fall dawn(落下)③ ※


(せい)(せい)、起きろ。」



「………ん、……うん。」



「やっと目を覚ましたか。」



「ん、……法師?ここはどこ?」



「まだまだおネムか?」



「僕、じゃなかった……私は、もう子供じゃないよ。」



「いや、まだまだ子供だな。

泣きながら眠ってしまった。」



「泣いてなんかいないよ。」



「目の下がガビガビだぞ。」



「ガビガビ!?顔、変になっちゃった?」



「拭えば、治るさ。」



法師は、僕の顔を着物の袖で、そっと拭ってくれた。



「ありがとう。法師。」



「……悔しかったんだろう?

母君の事を色々言われて……。」



「……みんな、僕を化け物だって言う。

僕は違うよ。……法師は信じてくれるでしょう?」



「勿論、信じるさ。晴が嘘を言う訳がない。

晴は年齢(とし)の割には賢いが、人間だ。」



「ありがとう。やっぱり法師は僕の兄様(あにさま)だ。」



「兄様……というより年齢的には、おじさまだな。」



「おじさまじゃないよ!兄様!!」



「わかった、わかったから、そろそろ(みかど)にお目通りをせねばな。どれ……。」



「!…もう僕は赤ちゃんじゃないよ。下ろしてよ!」



「『僕』と言っているうちは、幼児だぞ。ちゃんと帝の前では、堂々と振る舞え。

例え、誰かが要らぬ意地悪をしたとしても、だ。そうしたら、認めてやる。」



法師は僕を抱き抱えたまま、宮の渡り廊下を進む。



「わかったよ。」



僕は少しむくれて言った。



法師は僕を抱いたまま、御簾(みす)を潜り、入口近くの末席に、僕を下ろし、自分も隣に座った。。



「………来おった……化け物の子が。……」



「……道満(どうまん)が連れて来おった。……」



「……あぁ、汚らわしい。……呪われた子じゃ。」



僕は耳を塞ぎたかった。

でも約束したから、僕は堂々としていなければ……

だけど、涙が出るのを堪えるのが精一杯だった。



「皆の者、静かに。帝のお言葉である。」



周りは一瞬で静かになった。



「近頃、宮内を騒がせている噂を耳にした。いずれ、審議の場を設ける事にする。」



帝の声ではない。側近の者が、帝のご意向を代弁しているのだ。

帝は下げられた御簾の向こう側にいる。



「晴明、これへ。」



「はい。畏まりました。」



僕は大きな声で、返事をし、前へ進み出た。

そして、両手を顔の前で重ね合わせ、袖で隠すように顔を少し伏せる……上級の所作を行った。

大人達の好奇の目にさらされながら……。



「お主も、もう7つになる。己への疑は、己で払拭する覚悟はあるか?」



「はい、ございます。」



「よろしい。幼いながらも良い覚悟じゃ。お主はもう下がってよいぞ。」



「はい、失礼致します。」





「……ほんに、子供らしゅうない。神童様じゃのう。」



大人の密やかな声が聞こえた。

決して褒めている訳ではない。



「……神童様ではのうて、狐童様ではないかの?」



「ほっ、ほっ、ほっ、違いない。」



僕は、唇を噛んで、我慢した。

御簾を一人潜り抜け、暫く廊下を歩く。



だいぶ離れた所で、今迄我慢していた感情が溢れ、滂沱の涙が流れ出した。

しかし、声も嗚咽も我慢した。



法師はまだ出て来ない。

僕は、暫くその場に留まっていたが、諦めて、いつも遊んでいた池の畔に行った。





池の中を覗き込んでいたら、後ろから声をかけられた。



「兄様!?」



振り返ると、知らない2人の大人が立っていた。

僕は思わず身構えた。



……また、意地悪を言われる。……



しかし、2人は柔和な表情で、僕に微笑みかけてきた。



「驚かせてしまったようだ。申し訳ない。」



「私達は『賀茂忠行』と『賀茂保憲』と申します。

貴殿は『安倍晴明』殿とお見受け致しますが。」



「………。」



「貴殿の事は、色々と耳にしております。幼き頃より、神童であらせられたとか。」



……神童……僕を苛めるつもりなのか?……



「……私に何か御用がおありですか?」



少し声が震えた。



「はい。貴殿は天文道や、陰陽道にご興味はございませんか?」



「テンモンドー?」



聞いた事はあったが、何かの学問という認識しかなかった。

陰陽道なら、法師が少しずつ教えてくれている。



「父君、安倍保名様は、貴殿の力になる知識を授けたいと仰っています。

宜しければ一度、我々の学問所に足をお運び下さい。いつでもお待ちしておりますよ。」



そう言うと2人はその場を去って行った。



「父君が……。」





「………晴、待たせたな。……」



法師の声がした。元気がない。



「兄様?……どうしたの?」



法師は、宮内で位が高くない。

それが『狐の息子』を抱いて、帝のおわす謁見の間に、現れたのだ。

法師も、何か嫌がらせをされたのかもしれない。



「嫌な事、言われた?」



「いや、何でもない。……それより、晴は約束通り、堂々としていた。

もう、子供ではないな。」



法師にそう言われた事が、とても嬉しかった。



「えっと、僕ね、これからね、学問をするんだ。そして、たくさん勉強をして、力のある大人になる。」



「学問か。しかし、私では、晴の父君が許してくださるかどうか……。」



法師は、元から宮に仕える陰陽師ではなかった。最近、宮に出入りするようになった、謂わば流れの陰陽師だった。

だが、宮の人々とは違う、その懐の広さ、暖かさに僕は惹かれていた。



「ううん、テンドーも勉強するんだ。」



「天道か。陰陽道はどうするんだ?やめてしまうのか?」



「それも勉強するよ。賀茂様が教えて下さるって。」



「………晴。……そうか、それがいいかもな……。」



「?」



法師は、少し暗い表情で、遠くを見ていた。



「陰陽道の師匠じゃなくても、兄様は僕の兄様だからね。」



「……そうだな。晴。学問頑張れよ。」



「うん、兄様。」



その時の僕は、何も知らず、無邪気に法師に甘えていた。


【あとがき雑学】


『滂沱』(ぼうだ)


意味:

※雨が激しく降る様

※とめどなく涙が流れる様

※汗や水などが激しく流れる様


「滂」水が盛んに流れる様子

「沱」水が流れ続ける様子や涙が流れ落ちる様子


静かに流れるものや一時的に流れるものを指して用いることはありません。


「滂沱」自体に「涙」と「流す」が含まれているので、正確には「滂沱の涙」「滂沱の涙を流す」は重複表現になります。


しかし、誤用とは言い切れず、「滂沱の涙」や「滂沱の涙を流す」は定型的な言い回しとして認められているようです。


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