【46】※ Different world Reception desk(異世界レセプション) part① ※
「マニュアルにありました通り、来訪されるお客様に寄り添い、なるべく御本人のご希望を詳しく聞き出して下さい。
不安等の相談があれば、専任の担当者に引き継いで下さい。
身だしなみとお辞儀、そして敬語、これは必須です。」
ガスパーは、チラッと俺に視線を向け言った。
……はい、はい、気をつけますよ!
これでも一応、ビジネス上の会話で困らない程度には、敬語を使える筈……多分。……
俺が心の中で、ガスパーに文句を言っていると、突然ハルが口を開いた。
「しかし、この『異世界コンツェルン』では、何故、魂を『お客様』扱いするのでしょうか?
私は前々から、不審に思っておりました。
是非、ガスパール殿の見解を伺いたいのですが?」
「……大変申し訳ございませんが、そのご質問にもお答え出来かねます。」
「 ガスパール殿は、ご存知ないのでしょうか?
もし、ご存知ないとしても、私は、ガスパール殿が、どのような見解をお持ちなのか、伺いたいと思ったのですが?」
意外な事に、ハルがグイグイ攻めている。
「……ハル様は聡明な方でいらっしゃる。
しかし、私の見解など、特にはございません。」
「承知致しました。
色々と失礼な質問を致しました。大変、申し訳ございません。」
「いえ、いえ。
……しかし、ハル様が、研修後の勤務先に『異世界レセプション』を選ばれたとしたら、何か解る事もあるように思われます。
是非、ご検討をお願い致します。」
「それは、『同調訓練』の事ですか?
あるいは『お客様』の件でしょうか?」
「……その件で、今お話し出来る事は、私には、一切ございません。」
「失礼致しました。
御厚情、心より感謝致します。」
……なんと言うか……怖かった。
お互い、言葉は丁寧だったが、緊迫していた。
しかし、ハルも魂を『お客様』扱いする事に疑問を持っていたのか。
訪れる魂がお客様なら、魂は何らかの対価をコンツェルンに払っている、という事になる。……あるいは、別の誰かが……か。……
「それでは、私も同行させて頂きますので、担当の部屋へ参りましょう。
まずは、制服に着替えて頂きますように。」
ガスパーの号令で、俺達は制服に着替えた……というか、布を被った。
ハルは、黒いスーツ姿がとても似合っていた。
やはり、気品という物は、衣装が違っても滲み出る物なのだろう。
俺は……自分で全体を把握出来ないが、おそらく『くたびれたサラリーマン』といった感じだろう。
「お二人とも、よくお似合いです。
ユーキ様、御髪が乱れております。失礼。」
そう言って俺の髪を直してくれた、ガスパーのお世辞は、真実味がある。
ハルは上品に着こなしているし、俺は多分着慣れている。
「それでは、参りましょう。」
広いロビーを横切って行く。
その先には、白い扉が無数にあったが、その1つの前で、俺達は立ち止まった。
「こちらでございます。どうぞお入り下さいませ。」
扉を開けてくれたガスパーが、ハルと俺に、先に入るよう促した。
入った先は、カウンターの中だった。
驚いた事に、カウンターの前には、説明を聞いていたロビーとソックリな広い空間があった。
そして、ロビーにある椅子とテーブル席には、たくさんの人々…いや、魂々が座っていた。
ガスパーは、カウンター内にいた前任者達に声をかけた。
「研修で訪問された『ハル様』と『ユーキ様』です。
ここは代わりますので、休憩に入って頂けますか?」
「畏まりました。
『ハル様』『ユーキ様』、研修頑張って下さいね。」
「ファイトです!」
その女性達の言い方は、ガスパー程、慇懃無礼っぽくなく、少しホッとした。
「彼女達もまだ来たばかりで、敬語が得意ではないのです。
失礼致しました。」
……いや、少しも失礼じゃないから。……
「それでは、最初はユーキ様が主に接客をご担当下さい。」
……最初、俺かい!……
「わかりました。」
『お客様達』は行列も作らず、席にいる。
『ピンポーン!番号札30769番のお客様、カウンター迄お越し下さい!』
アナウンスが流れた。
……銀行のようだな。……
(((……お客様がカウンターに来られたら、お二人とも「お待たせ致しました。」と言って、30度のお辞儀をして下さい。)))
ガスパーの指示通りに、最初の魂に挨拶をした。
「お待たせ致しました。」
「お待たせ致しました。」
……30度は『敬礼』、言葉を発し、言葉の語尾と共に頭を下げる。
確か、先言後礼…だったな。……
(((ハル様、もう少し頭を下げて下さい。ユーキ様と同じ位迄。)))
ハルは、下を向いたまま、俺を確認しながら、頭の位置を調整したようだ。
「俺さぁ、冒険の旅がしたいんだけど、何処か面白そうな所、紹介してよ!」
まだ、十代と思える『お客様』はそう言って、カウンターに肘をついた。
「冒険の旅でございますね?」
(((カウンター右にパンフレットがございます。『冒険』の棚から、一部出し、お渡し下さい。)))
「こちらに、ご参考となるパンフレットがございます。
ご覧頂いて、お気に召す世界がございましたら、お申し付け下さい。」
俺はそう言って、ハルが棚から出したパンフレットを受け取り、渡した。
(((申込み用紙も、お忘れなく。)))
「失礼致しました。
お客様、申込み用紙もお持ち下さいませ。」
「……このパンフレット見て、気に入った世界があったら、書けばいいんだよね?」
「仰る通りでございます。」
「わかった。」
「ご記入頂く内容は、可能な範囲で、詳細にお書き下さい。
また、ご不明な点がございましたら、何なりとお聞き下さいませ。」
「うん、ありがと。」
(((「ありがとうございました。」と言って、再びお辞儀をして下さい。)))
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
(((ハル様、もう少し頭を…そうです。
ユーキ様、完璧でございます。)))
((ありがとうございます。))
……変身!ビジネスモード!って感じだな。……
思った通り、俺はある程度、敬語の使い方やお辞儀の仕方を知っているようだった。
【あとがき雑学】
『先言後礼』(せんげんごれい)
まずは「ありがとうございます」などの言葉を発してから、その言葉の語尾と共に頭を下げます。
頭を下げながら発声すると声が聞こえにくくなり、表情が見えないと言葉は心に届きにくいものという理由から。
接客の現場ではよく使われる言葉だそうです。
また、お辞儀ですが、首だけ曲げるのはNG!
背筋を伸ばし、腰から頭にかけて一直線になるように腰を曲げます。
種類や角度(深さ)にも色々あります。
①会釈(角度は15°)
ちょっとした挨拶。
②敬礼(角度は30°)
初対面で挨拶する際やお見送りの際にする挨拶。一般的に『お辞儀』と言えばこれ。
③最敬礼(角度は45°~90°)
謝罪やクレーム応対時などに使う。深く謝罪をする時などは90°位。それ以上ではかえって大仰に見える場合もあるそうです。
(角度については諸説有)




