【42】※ Purification of the soul(浄化) ※
「『浄化室』送りは消滅するのか?」
ニモがポツリと呟いた。
あっ!?……確かに『浄化室にて消滅』と書かれている……
『浄化室』?……救助隊が分離した魂を送る部署だ。
……浄化された魂は、元の肉体に戻って、魂の融合を果たすのではないか?
なのに『消滅』?どういう事だ……
「どうした?色男!!」
トーマが声をかけてきた。
「……その呼び方はやめろ……。」
「あら、あら、ユーキくんたら、また反抗期!?」
「……はい、はい、お母さんは悲しいんだろ!!……」
どういう心境の変化かは、わからないが、トーマはあの一件以来、また俺にちょっかいを出すようになった。
だが、トーマが以前通りではない事は、よくわかる。
人目がある時にだけ、俺に拘る。
2人だけの時は、全く無視だ。
……ならば、いつも放っておいて欲しい。……
本心からそう思う。
周りの目を気にして、俺に関わるなら、少しも嬉しくもないし、むしろ煩わしい。
「なぁ、トーマ。『浄化室』とはなんだ?」
「なんだとは?」
「色付き魂から分離させて、持ち帰った魂は『浄化室』へ送る。
その後、その魂はどうなるんだ?」
俺が聞くと
「……それについては、私も知りたいと思っていた。」
前回の研修で『救助隊室』を体験したアンリが言った。
「……残念ながら、俺は知らん。
今迄行った事がないからな。」
「誰か、『浄化室』の経験者はいないのか?」
俺が聞くと
「……ハルは行っている筈だ。……」
トーマは、汚らわしいとでも言わんばかりに、低く、吐き捨てるような言い方で、ハルの名を口にした。
「?」
「ハル、ちょっといいかな?」
アンリがハルの方を振り返り、声をかけると
「私に何か、御用でしょうか?」
ハルは微笑みながらやって来たが、トーマはハルを一瞥すると、不快な顔を隠さず、その場を去った。
……トーマはハルを嫌っている。
俺に対する態度とはまた違い、皆にも明らかにわかる程、態度に出している。……
「ハルは『浄化室』の経験があると、トーマが言っていたが、そこはどんな仕事をする所なのか、ご教授願えないだろうか?」
アンリが問うと、ハルはにこやかに答えた。
「そうですね……。私は以前に1度だけ、『浄化室』での経験がありますが、魂それぞれの行き先によって、分けられているようです。
『返』と『還』と『孵』に。」
「『返』?『還』?『孵』?」
「貴方達が行った『救助隊室』でも『特殊部隊』『救助隊』など、内部で役割が色々分けられていたでしょう?」
「そうね。『案内人室』も、中で細分化されて『本人の過去』とか『異世界』とか他にも色々あったわ。」
ライラックが言った。
……部署=会社だ。
だとしたら、中で会社組織として、色々な部や課があってもおかしくはない。……
「私は、以前『返』で研修を受けましたが、そこは救助隊が持ち帰った、迷える魂の不浄を落とし、元の持ち主の身体に戻す…という作業をする事が主でした。」
「そうか。それで他の『還』や『孵』は、何をする所なんだ?」
アンリが問うと、ハルは首を横に振りながら言った。
「それは……詳しい事は、私にもわかってはいません。」
「……そうか。」
「『還』は、完全に消滅させるんだよ、魂を。……
……あの色ボケ女達が送られた所だ。
それこそ、お前らが一番行きたくない場所だろ?」
薄ら笑いを浮かべ、サミーが話に割り込んできた。
「…あぁ、そうだ。だが、貴様とて同じだろう!?」
アンリが、挑戦的な言い方をした。
「まぁ、そうカリカリしなさんなって!」
そう言うとサミーは言葉を続けた。
「『孵』は浄化し、それまでの記憶を消した魂を世界に放つ。」
「放つ!?」
「そうだ。浄化して、不純物を含まない魂を、新しく生まれる肉体へ送り込むんだ。
赤ん坊は、皆無垢だろう?」
サミーの言葉に、その場にいた俺達は、一瞬呆気にとられた。
「何やら面白い話をしているようだな。我にも聞かせろ。」
ニモ、ライラック、アンリ、俺、ハル、サミーに続き、レオンもやってきた。
「面白い話……とは言い難いが、知識は得られる。サミーがまた嘘を言っていなければ、だが。」
俺はサミーをチラッと横目で見て言った。
「ユーキくん、心外だなぁ。
一度は親友になった仲じゃないか?」
「そんな覚えはない。
あったとしても俺の黒歴史だ。」
「黒歴史?なんだ、それは?……まあ、いい。
お前……何か違和感があるな。少し前よりはマシになった。
今なら、本当の親友になってやってもいいぜ。」
「断る。」
「フンッ、それじゃあ、またその内遊んでやるよ。」
サミーは、捨て台詞を吐いて、その場を立ち去った。
……レオン、シン、サミー、そして他でもない俺自身……
『違和感』『雰囲気が変わった』……皆、何かを感じている……
だが、何が変わったのだろう?…
思い返せば、『救助隊室』の研修を終え、部屋に戻る途中、俺は倒れた。
暗闇を落下する途中で、戦時下の日本に暫くいた。
それから更に落下し、男達の会話を聞いた。
その時、異様に胸の奥が痛かったと思う。
そして……そうだ、何かが俺から乖離した覚えがある。
原因は……それなのか?
だが、この世界では、これといった変化はないと思う。………
いや、そういえば……
《お前『俺』は………》といった、心の底の呟きが聞こえなくなった。
以前は頻繁に聞こえていたのに。
「ねぇ、掲示板!」
ライラックの言葉で、ハッとし、掲示板を見ると、先程迄の『拉致事件』の記事は消え、次の指令が浮き出ていた。
【あとがき雑学】
《かえる》:事、物、人などが、元の場所や本来の状態に戻ること。
漢字は幾つもありますが、それぞれ微妙に違うニュアンスや使い方があるようです。
『返る』
・単純に「元に戻る」という意味。
・一度変化したものが以前の状態に戻ること。
・向きや位置が反対になる意味もある。
『帰る』
・人が、家や故郷等、元にいた場所へ戻ること。
『還る』
・多くの地点を経由したり、様々な過程を経て、根源となる所へ戻ること。
(常用漢字表外の漢字。正式な文章では、「ひらがな」か「帰る」を使う)
『孵る』
・卵がひなや子になる、孵化するという意味。
※ 蛇足 ※
・「初心(原点)に帰る」「初心(原点)に返る」どちらも◎
・「トンボ帰り」✕「トンボ返り」◎
・「生き帰る」✕「生き返る」◎
・「生きて帰る」◎「生きて返る」✕
ひらがな、カタカナ、ローマ字……加えて、漢字の使い分け。
こんなに複雑な文字扱える国は他にあるのかな?
………以上、蛇足でした。




