【40】※ kidnap by force(拉致) ※
だが、……相変わらず周りは暗い。
また、あの暗闇に落ちて行くのか。……
しかし、あの下へ落ちる浮遊感はない。
「……………。」
「…………が、そうしろって言ったんじゃない。」
会話が聞こえる……女性の声は、アイラの声だ。
「今頃、アイツは探し回っているだろう。その内、あのチーム全員が出てくるかも知れん。」
「…どうするのよ!?私は完全に面が割れているのよ。」
「お前はコイツを連れて、あのお方の元に行け。
お前の望み通り、ユーキと転移が出来る。」
……『あのお方』?……転移?……
「……なら、いいわ。」
「…本当だったら、レオンのヤツも拉致したかったんだが……やはりヤツは強かったな。
チームの肉体自慢4人をもってしても、拘束出来なかった。
コイツを担いで、その場を逃れるので、精一杯だった。」
「だけど、この後どうするのよ……私にはもう関係ない事だけど。」
「お前の代わりは用意している。識別コードもお前の物をコピーしてある。
レオンが何を言おうと、顔が違う。
俺達は知らぬ存ぜぬを通す。」
……識別コードのコピー?そんな事が出来るのか!?……
「用意がいいことね。」
「この為に、お前はユーキ以外の人間に、極力顔を晒さなかったんだろ?
シンは薄暗闇で、しかも下を向いたお前の顔しか見ていない。
判別出来ないだろう。」
「そうね。ユーキは会った時から特別だったの。」
「これで、あのチームは脱落する。
コイツは、なかなか優秀らしい。」
「…そうね、私の嘘もすぐに見破った。頭のいい男って、素敵だわ。」
「まぁ、凡人であっても、チームから1人欠ければ、それだけで査定は下がる。」
……こいつらの狙いは、俺の拉致と俺達のチームの脱落か。……
「でも、嬉しい!これで私の望みが叶うのね!」
「……しかし、お前は本当に演技が巧いな。
あの研修時から、おとなしく純情なフリをして…その実、とんでもない野望を抱いていた。」
「それはそうよ。もう何度もやり直しているのに……私の望みが叶った例はないわ。」
「だが、先程の様子……あれだけオドオドすれば、疑われると思わなかったのか?
やり過ぎだ。」
「あれは演技じゃないわ。
ようやく私の望みが叶うかもしれない、私好みの男が目の前にいる、もうすぐ私だけの物になる、絶対に失敗出来ないって思ったの。」
……私だけの『物』だと!?ふざけるな!!……
「……まぁ、今度こそ成功するといいな。」
「するわよ。
だって、ユーキは『Oblivion』なんだから。
それに私の好きなタイプだから、何があっても離さない…。
絶対に私だけを愛する、私好みの男に育てるの!」
……私好みの男に育てる、だと?…反吐が出る!!……
「確かに『Oblivion』は都合がいい。
転移転生の強い望みも、特にないだろうから、素直に環境に馴染む可能性は高いだろう。
だが、転移して暫くは警戒しろよ。まだ、自我がある。」
……『Oblivion』……迂闊にアイラに言った事が後悔される。……
「大丈夫よ。
今だって、私の事、少なからず好きだと思うから。
それに、私の愛に溺れさせる自信はあるわ。」
……『お前を好きと思った事など一度もない!!何が愛だ!!』
そう叫びたい!!……
騙して、拉致して、育てて、愛に溺れさせる、だと!?……
アイラの一方的な『愛』とやらに、不快感と共に怖気がした。
だが、気持ちを抑え、俺は気絶しているフリをし続けている。
……もっと、情報を得ねば。……
周りの様子は見えない。目隠しをされているようだ…。
身体はグルグルに縛られているようで、身動きもとれない。
……魂なんだから、スーッと抜け出せないだろうか?……
……つまらない事を考えている場合ではない。
会話しているのは、アイラと……多分ロビンだ。声に聞き覚えがある。
どんな状況に置かれているかは、把握出来た。
俺は、おそらくアイラと共に、非合法の転移をさせられる瀬戸際にある。
……レオンの言った通りだった。
敵はあの時のメンバーの中にいた。
しかもチーム丸ごと加担しているようだ。
あのバイキングと繋がっていたのも、ヤツラだろう。
しかし、どうやって繋がる?………『あのお方』……!?
いったい誰なんだ?
もう少し情報が欲しい。……
「……ユーキくん、いい加減気絶しているフリは、止めたらどうだい?」
……バレていた。……
「うふふ、ユーキ。もう私だけの物よ。
2人で幸せになりましょうね。」
「っ!ふざけるなっ!!」
目隠しが外された。眩しい……
「お前たち、こんな事をして、バレないとでも思っているのか!?」
「バレないよ。会社は放任主義だ。それに『あのお方』がいる。
新入社員研修中、いなくなる研修生はたくさんいる。」
「…それもお前らの仕業か!?」
「全部じゃないさ。勝手に出奔する者もいる。
僕達は『あのお方』の指示で動いている。
それに、他にも僕達と同じように、動いているヤツラはいる。」
「『あのお方』とは誰の事だ?」
「僕達如きじゃ、正体も知らない。
もし知っていても、教える訳ないけどね。」
「……………。」
「ようやく吠えるのを諦めたか……。
君は大人しく、アイラの玩具になり給え……えっ、え〜っ!!」
ロビンの後ろに大きな影があった。その影は大きな手でロビンの頭を押さえつけた。
「シンっ!」
「ユーキ、大変な目に合ったな。」
「!!……離しなさいよっ!!
私はユーキと転移して、幸せになるの!!」
「ユーキはお前と転移などせぬ!
お前如きと一緒では、ユーキは不幸になるわ!!」
「レオン……。」
「ユーキ、待たせたか!?」
「……待ちくたびれたよ、レオン……。」
2人はロビンとアイラを拘束し、俺の拘束具を外してくれた。




