【3】※ discussion(話し合い) ※
「お、ユーキ、お詫び行脚は終わったか。」
(((律儀なヤツだな…ぷふっ)))
トーマはいつもの調子で、俺に話しかけてきた。
あれは一瞬の出来事だった…いや、俺の気のせいだったのか…
「本来、お前がやるべき事だぞ。ワガママ言いやがって…」
心の動揺を隠すように応えた。
「ユーキくんは、初心者だから、これから色々このアニキが教えてやらなければならんな。」
((…アニキって…そんなに呼んでほしいのか?))
「ぷふっ!別にそういう訳じゃない。」
本当にトーマは俺をからかうのが好きなようだ。
いや、俺だけではなく、ライラックも…
最初にトーマにからかわれ、マジギレした彼女は、相変わらずトーマに何か言われる度、ヒステリーを起こしている。
ライラックは、紫の瞳に紫紺の長い髪、長身でほっそりとした四肢…一言で言えば美少女だ。だが、性格はかなりキツいように思える。
「あんたみたいな男は、絶対にモテないんだから!!!」
ライラックのトーマへの捨て台詞はいつも同じだ。
語彙力がないようにも思える。
しかし他の奴らとは…
俺やライラックとは違う接し方をしているように思える。
((そういえば、フィンにも最初はちょっかいを出していたな。だが、あの独特の雰囲気に気圧されたのか、今は普通だ。
ニモはトーマが軽口を叩いても、ほぼ無言。それでも懲りずに話しかけている…
マイケルやハル、サミーやレオンとは…))
「こらこら、勝手に俺様の交遊関係を探らない!ほんと…ユーキくんは、アニキが大好きなんだから…ぷふっ!」
「そういう事じゃない!」
「ユーキは、他に考えなきゃならない事が山ほどあるだろうが?」
「何を?」
「まず、ここで点数を稼ぐにはどうすればいいのか?とか、ここでの暮らしはどんなものなのか?とか…」
一呼吸置いて、トーマは言った。
「自分は何者なのか?とか」
ギクッとしてトーマの顔を見た。笑っていない…真顔だった。一瞬探るような目付きをした…のは気のせいか…
先ほどの射すような視線…
再びあの時の事を思いだし、不覚にも俺は少し震えた。
「…そ、そうだな…」
「だろ?」
トーマはいつものにやけた顔に戻っていた。
バディー組みの後、それぞれの相手と話す時間があった。
お互いを知り、高得点を得る為の、いわば作戦会議であるらしい。
((…時間…ここにも…そういう概念があるのだろうか?))
「そうそう、ユーキくん、なかなか鋭い。」
「この世界には時間の概念がないようなもんだ。だが、少なくとも会社内には独自の時間の流れがある。特例って事だな。だから、実技研修前にやる事はやっとかなきゃならん。」
「…やる事…バディー相手との相互理解、話し合いか…。」
呟いて、周りを見回した。
フィンとニモは、静かに何事かを話し合っている。
マイケル、ハルは向かい合ってはいたが、黙してそれぞれ何事かを考えているようだった。
ライラック、アンリペアは、一方的にライラックが何かを喋り、アンリが静かに聞いている。
サミー、レオンペアは、レオンが何か熱く語っているようだが、サミーは全く聞いている様子はない。
((…何のコミュニケーションも、とっていないグループもいるが…))
「何も口に出して話し合う事だけが、相手を知る事だとは言えまい。」
((そうか、魂なんだから、相手の考えている事は筒抜けか…))
「?…筒抜けって訳でもないが…。二人だけで向かい合えば、少なくとも、相手の人となりは多少わかるだろう。」
「そうなのか?
しかし相手を理解する事が高得点に繋がる…って?…」
「…研修現場では連携も必要だからな…。」
「連携?」
「それぞれ得意不得意はあるだろう。研修中は補いあって結果を出す事も得点に繋がる。」
「……そういうものなのか?…」
「他に気をとられている暇はない。俺らは、話し合い以前にまずユーキの教育だな。」
……教育…俺がこの世界に初めて来たからか……
「なぁ、初めてのヤツって、俺以外にもこのチームにいるのかな?」
「…さあなぁ…俺にはわからん!」
そう言うとトーマはニマッと笑った。